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#3

くぐもった声。嫌な空気。どうやらこのテントの主が戻ってきたらしい。殺気が漲る。銃を持っているのか


安全装置を外す音がした。少しずつ俺に近づいて来る。



『おい、こちらを向け!』



そう言った時その者は俺の間合いに入っていた。一瞬で背の剣に手を伸ばし、振り向き様に切りつけた。


鈍っていたが、その者の首と上腕部の間を剣が切り裂いた。小さく叫び声を上げ、夥しい量の血を


噴出し、その場に倒れこんだ。身体は痙攣を起こし、暫くすると動かなくなった。


人を切るのは好きではない。命を奪うのは、どちらかといえば嫌いだ。しかし荒んだこの世では、自分の身を守る


ために、已む無く殺す事もある。



「変な格好をしている、この暑いのに」



上下共に黒い衣装を纏っている。見たことの無いその衣装。そして頭には帽子の様なメットの様な、


少し頑丈なもので出来ている物を被っていて、更に鼻から口元にかけてマスクをしていた。


何とも怪しい。そして出ている皮膚は、とてもではないが生きている人間の物とは思えぬ位、青かった。


蒼白、という感じだ。銃はその場に転がり、衣服から何かがはみ出ていた。スプレー缶の様な物。


それを見て、その者が何故そんな異形な格好をしているかがわかった。それは毒なのだろう。


俺が振り向いたら噴射をするつもりだったのだ。そしてずっと背を向けていれば、銃殺。どちらにしても


怖ろしい話だ。それでも、どちらでもこの程度の者では、俺を殺す事は不可能だ。しかし、一人でも


こうしてテントに来た。ということは、続いて仲間が来る可能性も、無くも無かった。荷物を整理し、


腰の鞄にしまい込み、床で朽ち果てたその者には落ちていた布を被せて置いた。テントを出る時も


辺りを見回し、気を集中し、誰も居ない事を確認した。幸い今のところ察知する物はなかった。


なるべく早くにここを離れた方がいい。そう直感してまた東に向かい歩き始めた。数分振りに纏わり付く


熱気と砂。それでも水分補給と休憩をしたので少しは楽になった。



『あーあ、酷ぇの、血の海じゃん』



血の気が引いた。テントから二、三メートルは離れていた。しかしその声は俺の耳に届いた。確かに


誰も居なかったのだ。中にも、無論外にも。先ほどとは違う。ちゃんと集中していた。それでも


気を捉えることが出来なかった。となると、今テント内に居るのは、相当な能力者であることが


判明する。足が固まる。早くこの場を離れなければいけない。分かっているのに、硬直している。


何かがテントの中を移動している。姿はまだ見えない。ゆっくりとその者は姿を現した。小柄な体。


そして、離れているのに何とも印象的な、燃えるような両の眼と髪。肌の色は黄色人種と同じ。


恐らく、俺がつい先ほど殺した者の仲間だろう。


纏っている空気も、内に隠している能力ちからも、半端ではないらしい。身動きが取れない。



『お前があいつを殺したのか?』



その者は俺に普通に問いかけてきた。殺気は感じ取れない。しかし、裏がないともいえない。


唯小さく頷いた。それしか出来なかった。



『へえ、巧い殺し方だな、慣れてるのか?小さいのになあ』



笑って言うが、俺から見て相手も十分小さい。年も、変わらないくらいだろう。決して笑いながら


問いかけるような事ではない。奴は少しずつ歩み寄ってくる。



「そんなに、場数を踏んではいない」



そう、正当防衛というもの。赤い髪を揺らし、こちらに歩むその者の足は、本当に砂を掬っているのかと


疑いたくなるくらい、軽やかに動いている。しかしテントの周辺には居なかったのなら、相当遠くから


ここまで歩いてきたという事になる。いくらテントの中で少々休んだとはいえ、そこまで早く歩けるとは


思えない。それくらい歩が早いのだ。



『へえ、久しぶりに巧いの見たからさ、嬉しくなって、そっか、慣れていないのか』



拍手をしながら笑って言う。そうこうする内に俺の正面まで来ている。ここまで来ると確認できる。


確かに気配がある。それなのに先ほどは全く感じ取れなかった。疲れていただけなのだろうか?睡眠も


まともに取れていない。栄養も水分も全く足りていない。その所為なのだろうか。



「お前は一体何者だ?」



『んーオレ?オレはお前とは敵、になるかな、一応さ、テントの中で死んでる奴の仲間なんだよ、っつっても


あんなに弱くないぜ?オレはな』



そういってまた笑う男の足元は血が付いている。俺が出て行った後、あえて死体は見ていないが、かなりの


血液が地を覆っていた事だろう。それでも床にも砂がある。っという事は大抵の血は砂が吸ってしまう事に


なる。それなのに足元に血が付いている。ということは、あえてこの男は死んでいるその者を弄ってきた事になる。


悪趣味だ。それとも、踏みつけてきたのだろうか?傷を見るために蹴り飛ばして転がした、とか?


どちらにせよ、想像したくない。この暑さでテントの中はきっと凄い事になってる筈だ。


腐臭が充満しているだろう。思い出すのも嫌だ。




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