表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/63

久しぶり

「ああ、凄い久しぶり・・体が固まってる」


「膳」


「なんだい?ジルヴァント」


「大丈夫か?無理だけはするな」


「心配性だね、大丈夫だよ、ちょっと慣れるまで時間が掛かるけど」


そういって優しく微笑み、腕を回したり手を閉じたり開いたりしている。


ずっと会いたかった人が、目の前に居る。俺の望みが、心の蟠りが、少し解消された。


「あ、ジルヴァント」


「なんだ?」


「いや、いつの間に僕の背を抜かしたの?」


キョトンとした顔で俺を見上げる。あの頃とは逆の立場に、少し面白く思える。


あの頃の膳は俺をこんな感じで見ていたのだ。


「そんな事か、お前が石になってからどれ位経ったと思ってるんだ、俺は二十三だ、お前確か二十歳で石になったから今も二十歳だろ?って事は年だって俺の方が上だろうが」


呆れ口調で言ってみる。相変わらず何処かしら抜けてる奴だ。


納得はしているだろうが、ちょっと気になっているようで、幾度も自分の背から俺のところへと手をやり、背比べをしていた。


頭一個分は俺の方が育った。そりゃ驚くだろうな。


「・・・二十三?」


「そうだが?」


「僕が石になってから、六年しか経ってない?」


「馬鹿かお前、もっと経ってる、西暦すら変わる程にな」


「じゃあ何で、二十三歳なんだ?老けてない」


「病に掛かった、母様が掛かったのと同じ、不老長寿だ、お陰様でこの姿のまま随分と長く生きてる」


「そっか、辛い時に一人にさせたんだね、僕は」


「何言ってる、もう慣れた」


呆れてため息が出る。だが、膳はとても寂しそうな顔をしている。


本当に申し訳ないと思ってるんだろう。だが俺だってそれくらい突付いてやらないと、気がすまない。


「・・・僕は、あと何年生きられる?」


「さあな、長く見ても、一年ちょっとか」


「一年、リアルな数字だね」


そういって寂しく笑う。だが俺も、この身体になってしまった以上、いつ迎えが来るか分からないのだ。お互い様と言えるだろう。


「無茶をしなければ、一年は生きる事が出来る、だが、能力を使ってしまうと生命は縮むだろう、もしその助けたいと思ってる連中のために使うとなれば、もっと短くなる、いいか、くれぐれも無茶はするな」


「・・分かってるよ、さ、あの子達のところに行こう」


「待ってれば来るだろう、まだ残りが居るんだ、休んでろ」


生き残った子ども達。その惨劇から数年経っていた。それでも生きていた。


それが驚きではあったし、その生命エネルギーの強さ。


諦めの悪さと言うか『生きてやる』という信念が怖ろしいとも取れた。


膳もそう思ったからこそ、諦めずに俺をまた呼んだのだろう。


当時幼かった子ども達は見事に成長していた。ここにたどり着くとは思っても見なかった。だから、俺も驚いた。


『脱走だー!一族の生き残りが脱走したぞ!』


村の方が珍しく賑やかになった。ああまで人の声が届いたのは、あの村が襲撃されて以来だった。


そこで俺は、あの三人がまだ生きていたのだと、強く思い知った。


そして、[都市とし]の連中から逃れ、諦めずに小屋までたどり着いたのだ。来たのは男。


年の頃は十五、六位だろうか、といった所だった。膳は知っていて、元に戻りたいと言ったのだろう。そして、来てしまったから・・。


「薄暗い、何か、役に立つ物は・・・」


小屋を物色し、少年は膳を見つけた。そこで膳は少年に話しかけた。


きっとずっとその機会を狙っていたのだろう。何しろ、石の姿では出歩く事は出来ない。


そして小屋には特別な結界を張ってあるわけだから、出る事は出来ない。ま、少年が入れたのも、驚きではあった。


それなりに強いものをかけてあったからな。だが、俺の驚きはそれだけではすまなかった。


少年は、俺が結界を重ねて掛けた武器を、容易く持っていったのだ。


それを見て、結界が切れるのを感じて、俺も中で騒ぐ物があった。悪の手に渡るはずはない。


それはあった。だが、そう簡単には解けない程の強いものだった。


それを、ただ手を翳し、それだけで解けた。武器も、少年を求めていた。俺がそうしたんだ。


最早俺も膳も使えないのだ。そこに来て、怖ろしくなる程の時間を経て、後継者が現れたのだ。こんな事が起こるとは。


長く生きてきて、ここまで驚いた事は無かった。だからこそ、膳は戻して欲しいと訴えたのだろう。そして望み通り元に戻った。


一通り身体を動かし、す、と腰を下ろす。恐らく疲れたのだろう。まあ、当然とも言える。


何しろ、何百年も石になっていたのだから。


「それにしても、あの子の手足を見た?あの流血、そして、枷」


顔を歪ませて膳が俺に問う。知っていた。中で何が行われていたのか、俺は知っていた。


少年も、他二人も、捕らわれてから壁に磔にされていたのだ。


あの少年は、己の力でそれを千切り、脱走したのだ。下手をすれば手首骨折、いや、手首ごと千切れる可能性もあるだろうに、あの少年はそれより何より、そこから脱走し、助けなければいけない仲間が居るのだ。


己を犠牲にしてでも護りたい。そう思う相手。それが居るだけで全く違う事を、俺は身をもって知っていた。


「残りの二人も、決して五体満足とは、言えねえな」


とても強い血の匂い。中で何が行われて居ようと、俺は何もする気はなかった。


今なら話は別だ。膳がこうして俺の前に居る。俺の元に居る今が、その事件の起こる前ならば、俺はきっと助けていただろう。


だが、もう後の祭りだ。過ぎてしまった。片方は大怪我をしている。


下手をすれば、命に関わるほどの傷だ。それだけの出血を伴っているのだ。


もう片方は、そんなに酷くないが、軽傷を負っているのも確かだ。


「ジルヴァント、僕はこの姿に戻ってから、凄く嫌な感じがするんだ、石でいた頃よりもずっと強くそれを感じる、なあ、これは一体何なんだろう?この村で今何が起こっているんだ?」


「それは、あいつらから聞けば良い、その方が良い」


俺の口からは言えない。とてもではない。分かっていながら何もしなかったそれを、後悔しても仕方が無いというのに。


これだけはどうしても許しを請う事は出来ない。古傷を抉る思いを、与えるだけなのだ。


ふと人が近付いて来る気配がした。子ども達だ。


「来たぞ、俺は一度戻る」


「呼んだら来てくれよ、僕一人ではちょっとね」


「わかった」


小屋の天井は損傷をしていた。そこから俺は降りた訳だし、登る時もそこから出た。


そして、こちらへと歩いてくる三人を上から確認した。とはいえ一人は歩いていない。


気を失っているようだ。それに、一人の女。あれは、もしかして・・・。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ