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独りの世界:皆の気持ち

『ガート、何時まで寝てるの?起きなさい』



ふと、目を覚ました。膳の声が聞こえたような気がしていた。辺りを見回して、布団を叩いて、そして石を見て現実に引き戻される。



「夢?・・・残酷な夢だ」



眠い目を擦り、階段を降りる。暖かい光が差し込める中、台所を見ると膳がいるような気がする。


そこで『遅いぞ』って笑っている。俺は定位置に座り、膳が食事を運んできてくれる。


正面に座り、他愛のない事を話しながら一日が始まる。


・・・今日からは、一人だ。



「ああ、そうだ、武器も封印をするんだったな、昨日は無理だったから今日しないと」



何となくそう思い、また二階へと戻っていく。足取りは重い。何十キロもある枷でも嵌められているかのような、そんな感じだ。


気が進まない。あれを見るとまた膳を思い出す。いや、ここにいるだけでその錯覚に捕らわれている。たった一年、されど一年、か。


確かに、たったの一瞬ですら共に居た焔ですら随分と救いになったのだ。


そこに来て一年も寝食を共にして惹かれないはずがない。


命の恩人を、愛しいと思わない筈がない。俺は、間違っていない。


でも、きっと膳も、間違っていなかったんだろう。この結論は。


俺を傷つけることも分かって居ただろう。一人になる孤独も、分かっていた。


それでも生きるのが辛かった。そう言って泣く膳を見る


のは、俺だって辛い。でも、一人になるそれはもっと辛い。怖ろしかった。一人は無だ。


何にもない、時は過ぎていっても、それを確認しあう者も無く、勝手に過ぎていくそれを見ているだけなのだろう。


これから何年、そういった生活を送るのだろう。もしかしたら膳は俺が生きている内に呼ばないかも知れない。


ちょっとだけ細工をさせてもらったが、それでもきっと膳は呼ばない。


元に戻り、また悪夢を見るのが怖いと、泣くだろう。だから、俺も血を飲む思いだった。


死にたくなった。だが死ねない。膳が呼ぶかも知れないと、呼んでもらえると、心のどこかで思っていたからだ。


そうした時、蘇らせる事が出来るのは、俺だけだ。だから、ただ願う。


早く膳が俺の名を呼んでくれる日が来る事を。またあの温もりを感じ取る事が出来る、その時を信じずにはいられないのだ。



「膳一人の為に作られた二つの武器、どちらも膳には似つかわしくない気がするのは、膳が平和を望んでいたからだろうか?」



箱に入ったままのそれを見て、考える。一度でもこれを使ったことがあったのだろうかと。


それにしては、綺麗過ぎる刃だ。全てがまだ光り輝いている。肉どころか布一枚、切り裂いた事などないのだろうと思えた。


でもきっと膳の事だ、作ってもらえたことが、想ってもらえる事が嬉しくて、きっと仕舞っておきたかったのだろう。


想いが込められているからこそ、血で汚したくなかったのかも知れない。


たまに出して構える事はあっても、それで誰かを傷つけたいとは想わなかった事だろう。


そう、あの三人を殺された、あの時以外は。



「癒しの能力を使える一族は、生存しているかも分からないくらい希少だ、俺の一族は、居なかった、もっとも母様は命の創造主、もっと母様の血が濃ければ、あるいは、使えたかもしれないな」



等と考えても、もう既に時は遅い。全てが流れて、取り返しはつかない。やり直す事は出来ないのだから。



「封印か、膳を封じるのに比べたら大した事ないが、二度と使えないようにするのではつまらないな、次にこれに相応しい相手を武器自身が選ぶように仕掛けておくか、膳では、使いこなす事はもはや無理だ」



マントを掴み、そこに入っている秘石を取り出す。膳に与えた物と大差ない、小さな石だ。


それを武器に合わせる。秘石は形を変え、その武器に馴染んでいく。


まるで最初から武器の一部だったかのように、光る。その上から結界を張る。


秘石が入っている分、少し強力な封印になる。だが、これくらい解けないようでは、これらを使いこなす事は無理だ。


武器に触れる前から、試される。それは一体どんな者だろうか。一生来ないかも知れない。


だが、それはそれで良しだ。膳が望んだ結果になろう。



「お前との約束は果たす、今度はこれを置いておく場所を作らないといけない、ここがいつか『都市』に滅ぼされても困らないよう、少し離れた所に非難させよう」



武器をその場に残して、外に出る。辺りを見渡して場所を選ぶ。


近すぎず、遠すぎずが好ましい。誰にも見つけられなければ意味がない。


結果、この村から数キロ離れた所に目星を付けた。廃墟から少しずつ木材を集める。


骨組みだけでも作れればそれでいい。後は適当に土を掘り、粘土質の物を少量の水で溶き固めていく。


雨風を凌げればそれで良い。最後に結界で守れば、本当に小さな小屋が出来る。


物置き小屋みたいな感じで、他にも何か置いておけば、怪しまれる事はないだろう。


万が一、ここが『都市』によって破壊されたとしてもあの武器は損傷はない。


なんの問題も心配もない。膳もここに移しておけば、少しは気が楽になる。


あの村はもうばれているから、生き残りが居る事も、知られている事だろう。


俺が居る限り、少なくとも一人は居る、と分かっている。村全体を消す事なんて、容易な事だろう。


武器と適当にその辺りの物を小屋に運ぶ。膳の入っている小箱は、それでもなるべく上の方に、安全な所において置く。


これも、箱が壊れる事はまずないが、気持ち的に嫌だ。小屋を開けたら膳が潰れている、と想像するのは怖ろしい。


いや、痛みはないが、俺が嫌だ。



「さて、これで膳との約束は終了だな、後はこの辺りの状況を良く調べておこう」



一息ついて、また外に行く。膳が石になってから、まだ一週間も経っていない。


時が止まったかの様だった。だから俺は家の壁に一日一本線を引いた。


ちゃんと月日が過ぎていくのを、確認していたのだ。そして何時、膳が呼んだのか、それもこうして刻んでおけば、膳に言える、とも思っていた。


線が何本も並んでいく。それがどれ位増えるかなんて、俺には分からなかった。



「今日は、あの三人の住んでいた家に、行ってきた」



それぞれが違う家に住んでいるのは知っていた。だがどんな所でどんな生活を送っていたかなんて知らない。


膳の家以外には近付いた事もなかったのだ。帰る時もバラバラで、あえて見送る事もなかったし、死した後も膳の家に連れてきてしまっていたから、誰の家にも行っていない。


まだ三人の死も、また膳が石になってしまった事も、現実味がない事ではっきりしない感じではあったが、少しずつ頭が冷静になってきたので足を運んでみたのだ。



「俺は、あまり付き合いがなかったから、知らなかったけど、あいつ等本当に個性が分かれていたんだな、家の中を見て、良く分かった」



最初に入ったのは、こざっぱりとした家だった。色々な物があったけれど散らかっていない。


綺麗に整頓されている。棚やちょっとした隙間にも、細工がしてあり、そこに収納できるようになっていた。


どうやらここの住民は少しでも物が出ているのが嫌だった様だ。相当な潔癖症、とでもいうのか。


ただ部屋の住人が帰って来ないから、部屋の中には埃が溜まり、とても人が居たとは思えない状態になっていた。



次に入ったところは、さっきの所と対照的で怖ろしく物が散らばっていた。落ち着きがない者の部屋だ。


そう思った時に頭に浮かんだのは、ちゅうだ。性格的に考えても、ここは肘の家だろう。


隙間がない程に物が置いてある。散らかり放題だ。これがきっと肘の落ち着く空間って物なんだろう。


ただ、ベッドと台所は、それなりに片付いていた。流石に、食い物と寝床は違うのだろう。


ここの場合は全体的に物がありすぎて埃も何も分からない。全体に埃が覆っている事だろう。


息苦しさを覚えたので家を後にした。



そして最後。最初の家の様にとても綺麗に片付けられていた。しかし違うのは、ただ片付いている訳ではないと言う事だ。


この部屋には、物がないのだ。散らかす物も片付ける物も、ないのだ。本当の最低限の物が申し訳無さそうに置いてあるだけ。


そのもの静けさから、ちょっと変わった雰囲気を持ったとうだ。


言葉数も少なく、肘が隣に居ないと存在感も薄くなった、独特な空気を持っている奴だ。


住んでいる所ですらそれを感じさせるとは相当な物だ。


と、なると、最初に入ったのはりつの家という事になる。そう思うと、納得できた。


慄はやたらと細かい性格だったし、まとめ役として、何時も何かを書き記していた。


それがあの部屋の中にどれだけ収納されていたのだろうか。どこも、主がいないのに、何でだろうか。


生気を僅かだが感じる事が出来た。家はまだ、主が死んだ事を認めていないのだろうか。


まだ、帰って来ると、そういった感じに取れた。俺が過ごしているこの家が、まだ膳が居るかの様な空気が通る様に、きっとあの三軒もそうなのだろうか。



「不思議だよな、あんなにも個性的なのに、部屋の感じも置いてある物の趣味も、見事に三者三様なのに、たった一つだけ同じ物があったんだ」



膳の石を前に、手元の物をじっと見る。それは、俺がここに来てからあの三人と俺と膳で撮った写真だった。


当時の俺には、それが何なのか全く分からなかったが、今こうしてみると、分かる。


当時の事を写真と言う形でずっと残しておくものだと、知った。



「この頃、まだ俺は何も分かってなかった、あの三人にも、懐けなかった、写真からもそれは感じ取れるよ、それなのに膳、お前やこの三人は、どうしてこんなにも嬉しそうな顔をしているんだ?決して平和ではなく、幸せでもない生活だったというのに」



少しずつ離れた家々で、あの三人も膳も、同じ思いだったのだろうか。


これは、絆。と言うのだろうか?死しても尚、こうして手元に残り、懐かしさと、悲しさを誘う物を残す。


これが支えになる時と、また逆にそっちに行きたいという衝動に駆られる。膳の様に。



「あの三人の中では、俺も弟だったんだよな、これを見た時、凄く不思議な気がした、何だろうな、まともにあの三人と接していなかったからなのか、でも、それなのにとても懐かしく、昔の事のように感じるんだ、おかしいよな、これって」



膳の石の隣に、写真を置く。これは膳が持っていた物だ。三人の家で見て、それからここに戻って、確認したのだ。


どこかで見た事があると思った。膳の枕元に置いてあったんだ。だから記憶に残っていたんだ。


初めて、皆が繋がっているんだと、実感できた。だが、それももう遅い。事は既に終わっているのだから。


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