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平和な昼下がり

「膳、今、なんて言った?」



頭の思考回路が停止してしまった。いや、故障ともいえるかも知れない。


とにかく、なにも考える事が出来なくなっていた。体中の力が抜けそうになっていた。


後頭部から、魂がゆるゆると抜けている。そんな感じがした。



「ガート、僕をこの秘石に封じて欲しいんだ、そう言ったんだよ」



そういう膳の手の中には、俺があげたペンダントがある。どうしてこんな話になったんだろう。


だって今日もいつも通りで、野菜の育ちを見て、何時も通り定位置に座って、まったりしていたのに、どうしてこんな事になってるんだろう。



「もうずっと、考えていたんだ、僕は君と生きていけない」



「何言ってるんだよ、ずっと一緒にいるって言ったじゃないか!」



膳は、とても穏やかな顔をしている。怒っているわけでもなく、沈んでいるわけでもない。


ただ、いつもどおり。そう、膳のその表情は何時もと変わらないのだ。


でも、言ってる事があまりにも唐突過ぎて、俺は混乱していた。


何でそんなに冷静な顔で、そんな言葉が出てくるんだろう。何で急にそんな事を言うのだろう。



「彼らが死んでしまって、僕は生きていけないと思った、でもガートが居た、だから僕は生きることが出来た、これからもきっと、君を支えにすれば生きていく事は出来ると思う」



「なら、それで良いじゃないか!お互いが支えなんだから!」



「いや、僕はガートに甘えすぎて居たのだと思う、一緒に一晩過ごした日、覚えているかい?」



膳は、ちょっと遠くを見るような目で、目の前の俺を見る。すっかりと懐かしいその日を思い出している感じがした。


あの日の事は、俺だって忘れることはないだろう。初めて他人と一緒に寝たのだから。



「あの時、ガートを部屋へと招いたのは、武器やアルバムで彼らを強く思い出してしまい、どうしようもないくらい、罪悪感に苛まれたからだったんだ、見殺しにした、それを」



次第に目を伏せ、テーブルを見つめて膳は呟く。俺は、何となく立ち上がりたい衝動に駆られていた。


それはきっと突然の告白に、困惑しているからだと思う。



「床に着くと、夢で彼らが言うんだ、何で俺たちを助けてくれなかったんだ、と、せめて共に朽ちてくれと、言ってるんだ」



「何を言ってる、三人ともお前が無事で良かったって、言ってたじゃないか、膳が生きていた事だけがあの三人にとっての救いだったんだぞ!お前を守れてよかったって、本当にそう思って死んで行ったんだぞ!?お前がそれでどうする?」



三人はボロボロで死んだ。決して綺麗な死に様ではなかったがそれでもとても幸せそうな顔をしていた。


それは、間違いなく、膳と俺がこうして生きているから、それを見て笑ったんだ。自分達の役割をまっとうできたと、笑ったんだ。



「今、お前が石に入ったからってそれが何になるって言うんだ、無駄だ」



「ガートは三人とあまり過ごしていないから、大切に思っていなかったからそんな風に言えるんだ、大切な者を失っていないから、僕は、庭に寝かせた三人が、たまにこっちを見て、僕を恨んでいるように思うんだ、そんな空気を感じ取る事がある」



「それは勘違いだ、お前が自分の所為だと強く思っているからそんな幻想が見えるだけだ、夢に出てくる三人だって、ただ単にお前に会いたくて出て来てるだけかも知れないだろう?それに、それに・・石に入るという事は・・・」



言葉が詰まる。言いたくない。俺の目も、テーブルの上をただ彷徨った。言い切れない感情に、ただ拳に力を込める。



「分かってるよ、ガートが言いたい事」



その言葉に、はっと膳を見た。膳は顔をあげてはいない。ただ石を見ている。


深く光るその石。取り付かれたかのように、見つめる。



「封印は、普通に考えれば死と同じ、普通の人間なら封印するだけでも命が危ない、仮に能力を持っている者でも、何年生きていられるか分からない上に、また人として戻れる、という絶対の保証はない、そしてもし、戻れたとしても、人として生きられる時間は、短い」



淡々とした口調だった。その通りだ。封印はコールドスリープと違う。


眠る。といっても種類が違うのだ。入り込む物にもよるのだろうが封印もそれを解くのも、一人では出来ない。


かなりな能力を持った者が必要となる。何故なら、封じる方もそれなりの生命エネルギーを放出しなければならないからだ。


そうは言っても、封印される方はそれこそ辛い。そして封印、というだけあり、死ぬわけではない。


だが、膳のようにほぼ何の能力も持たない人間がどこまでその中で生き永らえられるか、というところが問題となるのだ。


それに、もし『戻りたい』と思った時俺が居なかったら、膳は戻れずに石の中で死に、石になりきってしまうのだ。


故に何の保証もない、怖ろしい賭けのような行為なのだ。



「そこまで分かっていながらどうしてそれを望むんだ!何故生きる事を望まない?!俺たちが生きていく事が、三人に対しての最大の供養で、最大の恩返しだ、それ以外に何があるって言うんだ」



元気になったと思っていた。口調にしても顔色にしても。ただ、夜は唸り声が聞こえたり、寝言、すすり泣く声、辛いのを堪えているのに俺だって気がついていた。


それでも、笑ってくれたから、それでいいと思った。それなのに、こんな展開は、想像できなかった。




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