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最悪の再会

「守れなかった、何のための能力だというのだ」



頭を撫でても、布団をかけてみても、膳は起きなかった。相当参っている証拠だ。


俺は、心配をしつつも、一度自分の使ってる部屋へと向かった。そしてそこでまだ不思議な感覚を覚えた。工場に化け物が出てた時と同じ感覚。



「まさか、これは」



咄嗟に窓の外を見る。しかし何も見えない。だが、強い気配を感じ、ベッドの脇に置いてあった剣を背負い、窓から外へと飛び出す。


屋根に上がり、辺りを見渡した。



『流石だなあガート、簡単に倒したなぁ』



頭の上から声がした。懐かしい声。この感じ。その者は俺の前に降り立つ。ほのうだ。



「まさか、お前なのか?あれを作ったのは・・・」



『作ったのは『都市』(とし)オレは種を蒔く様に言われただけ、なに、どんなもんかなあって、思っただけさ』



あっけらかんと、笑いながら言う焔は、あの時と変わらない。だが、俺の中には怒りが生まれた。苛立ちが抑え切れなかった。



「お前、それで人が死んだんだぞ!笑い事か?!」



『何を言ってる、オレは『都市』の使いだぜ?ガートに初めて会った時言ったよな?余所者は排除するって』



「だが、殺された奴らは、この村の民だったじゃないか、何故殺した」



『おいおい、勘違いをするな、オレは殺してない、俺は直接手を下していない、分かってるよな、あれは木、『都市』が人だけでは飽き足らず、植物にまで手を伸ばした、かなり出来のいい物だったんだぜ?』



「あの程度の駄作で、何をいう、試作品だか何だか知らないが、人の命をそんな簡単に奪って言い訳がない!そうだろう?」



悔しく思った。あの時出会って、良い奴だと思った。俺を助けてくれたし、だから、気を許した瞬間もあった。


まさか『殺し屋』なんて、冗談だとも思った。それなのに、答えが、これだなんて、あんまりだ。



『仕方ないだろ、お前を取り逃がしてそれがバレちまったんだから、大体ガートがこんなところに結界を張るから悪い、これさえなければ『都市』のおさだって、気付かなかったのに』



その言葉に、唖然とした。良かれと思ってやったことが、裏目に出たのだ。


確かに、今の世界に俺ほどの能力を使えるものは居ない。


ましてや、この村にいたのは、殆ど何の能力も持たない者ばかりだった。


それなのに俺が結界を張り、能力を使ったことで、敵にばれるなんて。



『仕方ないな、お前は普通と違う、能力ちからが半端じゃない、連中では足元にも及ばない、何しろ大した抵抗も出来ずに、簡単に捕らわれて、幾度も刺されたり、叩きつけられたりしてたしな』



「お前、ずっと見てたのか?」



『ああ、木の一番上で見ていた、中々見れないし、最近そんなに人数居るところがないから、楽しめた』



「木?俺は上空から来た、でもお前の姿は見えなかった」



『当然だな、オレ、ガートが来たのが分かったから、隠れてたんだ、それで様子を見させてもらった』



それではやはり、あの時感じ取った気は、こいつ、焔の物だったのだ。


『都市』の気配。通りで残るはずだ。あれは殺気ではなかった。楽しんでいたのだ。


なんて悪趣味なんだ。人の戦いを、人の死を見て喜ぶなんて。



『でもガートが来た所為で連中、楽に死ねなかったろ?あと少しで楽にしてやる事が出来たのに、ああ、鼻の頭に傷を負った奴も一緒にな、まさかガートと共存しているとは、それは予想外だったけど』



「一つ言っておく、膳に手を出すな、もし出したら、俺が全力でお前を止める」



『情が移ったのか?単なる人間、いつしか単なる入れ物になる、単なる玩具だろう?』



「焔!」



背に手を回し、剣を振りかざす。そして焔を睨み、刃先を焔の喉に向ける。その瞬間ですら、焔は笑っていた。


それを待って居たんだと言わんばかりな顔をしている。


その余裕の顔を見て、余計に頭に血が上る。目の前の相手に、一気に切りかかる。



『オレにはこんなもの、効かないって』



右手から炎を発し、盾を作る。それですんなりと俺の剣を交わす。


二度、三度と切りかかるが、その度に炎がそれを飲み込む。



『言ったじゃないか、オレは火を操る、剣が火に敵う筈がない、分かっていながら何故攻撃を仕掛ける?』



「お前が俺の大切な者の、大切な大きな幸せを消したからだ」



『命を拾われたくらいで、食料や水を恵んでもらったくらいで、お前はこの家の者に忠誠を誓うのか?大したものだ、ならばこの家の者もオレが消してやるよ』




「ふざけるな!俺を前にして良く言えたものだ、膳には手立てはさせない、今度は俺が返す番だ!」



手に力を込める。秘石から剣に力を注ぐ。そこからはゆらりと気が沸き立つ。



「単なる剣は駄目だが、お前が持っていない能力なら、いくらでも使うことが出来る、交わし、俺を殺したら行けばいい!」



『能力、か、確かにガートの能力はオレとは異なるかなり特殊な物だ、しかも今、ガートのもてる限りの力を見ることが出来そうだ、それはとても面白い、だが、お互いに無傷ではすまない、それは前会った時言ったな?生かしておけば、いつか面白いくらい、いい戦いが出来そうだ、と、今でもそう思う、だが八つ当たりが篭った力でやられるのも癪だ、今回も引く事にするよ』



「八つ当たり?」



『『都市』がオレに命じた事であってオレの意思でしたわけではないからな』



「何を言う、めいを受け、それを実行した!実行する・しないは本人の意志だ!お前の意思だ!」



『はは、言えてる、だが、お前もかなり厳しそうだしな、楽しみはまた今度って事で』



そういうと、焔は高く飛び、消える。俺は剣に込めた気を沈め、暫しその空を眺めていた。


まさか焔が出てくるとは思わなかった。


確かに殺しては居ないのだから、またいつか会うときが来るとは思っていた。


しかしこんな形で再会するなんて・・・。


やっと手にした大切な者を俺から奪い取るのが、焔だなんて、嘘であって欲しかった。頭を抱え込み、蹲る。



「最悪の、再会だ」



膳が寝ている時でよかった。もし起きていて、全てを聞いていたら、きっと膳が焔に食いついていたことだろう。


そうしたら、容赦なく焔は膳を殺していたかも知れない。


仲間においていかれたのだから、そこで共に死んだ方が膳は幸せだったかも知れない。


でも俺は膳に生きていて欲しかった。だから、他の連中は駄目だと分かっていたけど、膳だけは助けたいと思った。


命の恩人だ。見捨てるなんて出来ないし、俺だって一人になるのはもうごめんだ。


あの三人も膳には生きていてほしいと思っただろう。それは、死に様からも伺えた。


心底安心した顔をしていた。殆ど、意識も無かっただろうに。情、というものだろうか。


長く共に過ごし、戦ってきた。仲間。


六年前の惨劇を共に乗り越え、それから今まで助け合って生きてきた。


本当の兄弟より、家族より、きっと深い繋がりとなっていたのだろう。


俺には、まだわからないが、でも膳が死んでいたら、きっとこの村を消し去るくらい、暴れたと思う。



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