#21
「膳はどうなんだ?」
「僕はさっぱりだよ、強いて言えば、武術、剣術かな?これは教えてもらったから」
「誰に?親?」
「いいや、ここに来てから、あの三人にだよ」
そういわれてすっかりと頭から飛んでいた三人を思い出す。見る限り強そうには見えない。
選ぶとすると、やはり慄が強いかな?
冷静さ。正確さ、色々観察をしても、きっと慄だろうと俺は思う。
確かに風呂で見たとき何もしていないとは思えないほど筋肉が綺麗についていた。武術をやっているなら納得だ。
「本当は必要ないんだろうけどね、武器なんて、でもこのご時世では、ただ単に平和に過ごしたい、そう思うことすら許されない
事なのかも知れないね」
「でも、誰でもそれを願ってる、望んでるよ」
皆がみんな、戦争を好んでやってるわけではない。お国の為にと死に急ぐわけでもない。
ましてや今、他に生きてる人が居るのか否かすら分からないというのに、それを見つけては殺す。
そんな考えを持ってる者が居るなんて、それこそおかしいのだ。
まだ見ぬ『都市』という、いかれた集団が、本当に存在するのならば、潰さなければならない。
でもそれは、犯罪なのだろうか?操られていても人は人。命に変わりはない。
でも連中は、それを人形だと思っているだろう。思い通りに動く、操り人形。
何も知らずに、その人たちは大切なものを壊しているのだろうか。それはとても、寂しい事だろう。
「この村は、膳が来た時あの三人しかいなかったのか?」
ほのうは、確かな人数は言わなかった。一人か二人か、とても曖昧な事を言っていた。
そして俺が居座っている今、出会ったのは膳とあの三人だけだ。他に大人といえる存在がいない。
「膳?」
問いかけて、直ぐに返事が来ないので不思議に思い膳を見る。顔色が悪い。目が泳いでいる。
それが何かを物語っている。俺の知らないなにか。膳が困惑するほどの、何かがあったのだ。
以前思ったそれが、当たったのだ。
「膳、ここが襲われた時、ここに居たのか?」
物言わぬ膳の体が跳ねる。驚く、というよりは怯えている、という感じのほうが近いだろう。
恐らく、その時に他の村人は死んだ。
それを目の当たりにしているのだ。それでも、膳は笑っていた。でも心のどこかで、それを考えていたのだろう。
「悪い、膳、嫌な事思い出させた?」
俺の問いかけに膳はゆっくりと首を左右に振る。「違う」と言ってる。
でも、心はそれに捕らわれている。怯えている。
またいつか来るかもしれないそれを、恐ろしいと思うのは仕方がないだろう。
どれくらいの被害を受け、どれくらいの死者が出たのか、俺は知らないし、分からない。
でも、たった一人でも死んでいれば動揺する。こんな世の中だから、きっと更にショックだろう。
これが弱肉強食。人間界でも、それはあるのだろうか?弱い者はただ強き者に服従するしかないのだろうか?
「ガート、君は一体何を、知ってるんだい?」
考え込んでいると、膳がやっとで口を開いた。いつもより、ずっとゆっくりした口調だ。
やっと言葉を発している、そんな感じの声だ。
「俺は、ここに来る前に出会ったんだ、この村もそいつが教えてくれたんだ」
「へえ、都市の中に人を見て殺さない奴も居るんだね」
肩を落とし、ため息を付いてうっすらと笑う。何時もの膳の笑顔とは、全く違う。別人のように見える。寂しそうだ。