#20
「ガート、今日は雲が凄いね、明日は雨かなあ」
「こっちは雨が降るのか?」
「そりゃあ、雨くらいは、砂漠とは違うし、でも砂漠も全く降らないわけではないみたいだよ、少しはあるんじゃないのかな?」
「ほんとに?」
何年も砂漠を彷徨ったが、雨は降らなかった。
年に、ではなく、数年に数回、なのだろうか?難しいところだ。
だが確かに雨が降ってくれないとオアシスも枯れてしまうだろう。大地はまだまだ謎が多すぎる。俺には、知りえない事が、山盛りなのだ。
「でも雨は助かるね、これで少しは水田も潤うし、野菜たちも喜ぶよ、本当なら毎日でも水を与えてあげたいからね、今は少ししかあげられないから、二〜三日続くといいけど」
「そんなに降ったら、この家の中びっしょりになるぞ?」
1階部だけでなく、二階部も崩れているところが多いのだから、きっと下まで濡れると思う。
「それなりに詰め物でもすれば、大丈夫だよ、内側から布で抑えて、外にはビニールでもかければ中までは来ないよ」
慣れているよな口調で説明をしてくれた。でも、この1階部(俺の壊した玄関)は、何をしても無駄な気がした。
「これ、俺の所為だから、俺が雨の間だけ塞いでおく」
「え?でもガートは何も持ってないじゃないか」
「結界を張る、この家に」
「それって、何か唱えたりするの?」
「いや、そんなに大したことはないけど」
不思議そうな膳を後に、俺は外に出て家の周りに線を引いた。そこで印を示す。
魔よけのまじないの様な物だから、本当に柔な屋根がもう一つ出来た、という感じだ。
「これで終わったの?何ともなってないように見えるけど」
玄関口まで来て、辺りを見回して問いかける膳。目には見えない。それは当然だ。
だが分かる者には分かる。ほのうとか、『都市』とやらのお偉いさんなら分かるかもしれない。
「この家を、半休体の膜が覆ってるって考えると簡単だと思う、弱いけどそう簡単には解けない」
「へえ凄いねえ、攻撃だけじゃないんだ、ガートって」
「回復、癒し系の能力は持ち合わせていないが」
褒められて少し嬉しい。膳に喜んでもらえるのは嬉しい。
兄様とは違うが、でも少し空気が似てる。見てくれなんて、髪の色くらいしか似ていないというのに。
「癒し系は、難しそうだね、なんか自分の命を削って、って感じがする、神秘的なものだね」
「そういうこともある、そういう種族もいる、元々希少だからまだ存在しているかは分からないが、もし居たらその能力がどんなものなのか聞けるな」
「へえ、希少か、残念だね」
神秘的。そういう者も居るだろうが、実際にはそんなにいいものじゃない。
当人達にとっては、本当に死活問題なんだ。だからこそ、希少。
生き残っているのか、さっぱり分からない。そして居たとすると、他にも種族が生きているという事になる。
もしまだ存在しているのなら、俺の方こそ、会いたいと思ってしまう。
「君の場合は、両親もそんな能力を持ってるの?」
家の中に入り、定位置に腰を下ろして膳が問いかける。俺もまるで我が家のように寛ぐ。
「母様は主、こっちでいう国を治める者だ、命の創造主として崇め奉られていた、父様はその付き人だった」
「へえ、身分違いだったんだね、そうすると、ガートの能力の強さはお母さん譲りかな?」
「どうかな、母様はどちらかというとさっき膳が言ってた癒し系のほうが強かったかもしれない、命を創るひとだから、どちらかといえば父様に近いと思う、母様の護衛をしていたわけだから、武術は長けていた」
「そうすると、お兄さんがお母さん似だった訳か、大抵どちらかに似るからね、まあそうでない事もあるけど」
そういわれて思い出す。両親共に確かに素晴らしい人たちだったと思う。
勿論、第三者から見ても、息子として見ても、だが。兄様はやはり母様似だったのかも知れない。
あんなに厳しくなかったし、俺に対して溢れんばかりの愛情を与えてくれた。
体格は随分と差が出てしまったから、それだけで見れば十分に母様似だ。
小柄な上弱そうな身体のつくりだったが、問題なかっただろう。
今のところは何も感じ取る事がないから、きっと平和に過ごしていると思いたい。