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#19

「怖かったろうガート、ごめんね二人は綺麗な物に目が無くて、熔かたり加工したりして色々試したくて仕方ないって感じになってるんだ、でも流石に人のを取り上げてまでそれをする事はないだろうから、安心して」



秘石をじっと見つめている俺に、声をかけてくる膳。


どうやら俺がこの石を取られる心配をしている、と思ったらしい。


無論、そんな心配は一つもしていない。ただ、これがそんなに綺麗なのかと、考えていただけだった。


俺から言えば、単なる石なのに。ただ、一つ違いを述べるなら、特殊な能力を秘めているという事。


そして持つ人間に石が合わせて能力を引き出す事ができるという事。


それだけはこの石の特徴だと思う。だから俺にもこれが必要だ。


能力を出すのも、抑えるのも、これにしか出来ないからだ。


暴走しそうなほどの強い能力は時と場合には、身体の中に秘石を埋め込む事もある。


また身体から秘石が出てくるって事も、極まれにあるのだ。


そうなるのは、極まれの種族のみに出るというが、俺はまだ見たことはない。


内から抑え込むのか、それとも内の能力を石が吸い尽くすのだろうか。


詳しい事は分からないが、そうなった時、死ぬまで石は取れないのだろうか。



「こんな物で、人の心は安らぐのだな」



「そうだね、こんな世の中だからね、共に誰かがいるだけでも、十分な救いになるくらいだから、でも人は我が儘だからそれに慣れてしまうと、もっとより良い物をと、望んでしまうのかも知れないね」



それは、こうして出会い、ずっと共に過ごしたいと思うそれも、膳の言う我が儘に入るのだろうか?


人は欲深い。煩悩は三桁になる程にあるのだから、それは凄いものだろう。


今はまだこうして共に居たいと思うだけでも、その内ここではつまらないと、また旅に出る日が来るかもしれないし、またここが襲われるかも知れない。


先のことは分からない。あの平和そのものの故郷を俺が捨てた様に人の心もいつ変わるか分からない。


この幸せもそんなに続かないかもしれない。それでも、ここに居たいと思うのは、弱っている

証拠なんだろうな。


誰かの笑顔がそこにあるって言う、温もりがそこにあるという、安堵感。


一度手放し、再度手にした違う暖かさは何時離れてしまうのだろうか。



「明日は休みだぞ、ゆっくり休んで疲れを取る事」



仕事が終わると、慄の一声でみんな帰る。


「じゃーな」とそれぞれ挨拶をして帰路に着く。俺も膳について帰る。


すっかりと居つき、一週間が過ぎようとしていた。


周りに馴染んできたものの、膳以外の三人の素性は知れず、また知る必要も無いと思ったのかも知れない。


どこかで一線を引いている自分が居た。ここの者ではない。いつかは出て行くかも知れない。


そういう思いが、それを保っていたのかも知れない。



「なあ、風呂って毎日入らないのな、どうしてだ?」



「水が勿体無い、資源は限られているからね、ガスもどれ位残ってるかとか分からないし、贅沢は出来ないな」



そう言っても、水は水道から出る。蛇口を捻れば出てくる。ガスもスイッチ一つで付く。


何て便利だろうと思うが、それでも水もガスも資源。いつかは終わりが来るって事だ。


だが、沸かすことくらいなら簡単だろうに。でも、そういえば聞いていないこともある。



「膳は異能力は持ってないのか?」



「?ああ、君が使った変な力ね、持ってないよ、あの三人も持ってないんだ」



膳の『変な力』発言に少しむっとする。変とは失礼だ。


だが、日々それらしき物を発動していないなあと思ったら、そうか。持っていないのか。


このご時世に珍しい。あれ、そういえば、膳の部屋には変な物があった気がする。なんだろう?



「今はみんな持ってるね、その能力っていうの、ガートみたいに生まれつきな人もいるんだろうけど、自分で努力して身に着けたり、


ガートの指輪みたいに道具を使ってっていう人もいるみたいだしね、まあ、随分昔の知識だけど」



今の世界で、それを出来る人間がどれだけ生きているかも分からない。


能力があれば生きながらえるわけではない。運もツキも係わり色んな物が動いて絡んで、決まる。


それによって死ぬか、生きるか。その選択肢も、絶対的に自分にあるわけではないし、生きたからといって、生き延びたからといって、ラッキーではない。


膳のように、ただ一人生き残った、なんて場合は、目の前の『死』に対して共鳴を起こしかねない。


仲間や親と共に、連れて行ってほしいと、願う事だろう。


それに対して、良かったとは言えない。


でも、俺は少なくともその時膳が生きていてくれてよかったと、思っている。膳がいなければ、俺はここで死んでいたかもしれないのだから。



「俺は、それなりに能力を使えるから、大丈夫だ」



この村や、あの三人、膳を守ることくらいはできる。そう言いたかった。


でも、何となく言えなかったのは、弱い者扱いをしたくなかったからだろうか。


きっと面と向かって言っても、膳は笑うだけだろうから。それに、少しは恥ずかしい気がする。



「ありがとうガート、頼りになるね、じゃあとりあえず、ご飯用に野菜を庭で採ってきてね、早く作って、ゆっくり食べて、明日はのんびり過ごそうね」



まるで子どもを褒めるかのような物腰だ。嫌味ではない。それは分かる。とりあえず、手伝いをする。というのは決まりごとだ。


庭でたわわになっている野菜たちを眺め、良く育ったものを採る。


少しずつ日が傾き暗くなる。風が吹くと心地いい。昼とはまた違う、少し冷たい空気だ。


ご飯は常に膳が作る。俺は洗い物をするくらいだ。


以前作ろうとしたら全てを焦がした、という失態を犯した。


あの時の膳は、本当に渋い顔をしたが、それでもため息一つで許してくれた。


今は傍らでそれを眺めるか、テーブルで腰を下ろして待つ。


傍にいても手伝えないし、たまに邪魔になるときもある。なので、じっと待つ。


こういうところだから、肉はない。野菜だけでもあるのが救いか。


砂漠と違い、何かを育てる事が出来る。それは、人々にとっての救いになる。




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