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#17

「とにかく、大きくなりたいなら沢山食べて、寝て、動きなさい、じゃあ手始めに、昨日食べなかったご飯を食べると良い」



少し首を傾げ、俺の目線に合わせて膳は笑う。そして自分が睡魔に負けてご飯を食べなかった事を知った。


その所為か、朝ご飯がやたらと美味しく感じられた。膳は、俺より身体が大きいのにあまり食べなかった。


俺に食べるように促す事も多かったが、きっと俺に気を使ってるだろうと思った。


『客人』扱い。と言うか。そんな感じだった。



「俺、今日は手伝いするぞ」



綺麗にご飯を食べ終えてお皿を膳の居る流しに運んで告げる。膳は笑いながら俺の口の端をぬれた手で拭い、皿洗いをまた始めた。


そして少しして、タオルで手を拭きながら、



「じゃあ庭の野菜を少し取ってきて、二人で食べきれる分だけでいいよ」



そういって俺に籠を手渡した。俺はそれを受け取ると、日が照っている庭へと飛び出し、庭で光り揺れているそれを摘み取った。



「ありがとう、では次は虫を取って、食べ物には虫が良く付くからそれを取って、ああ持ってこなくていいからね、芋虫とかその場で殺していいよ、生かしておくとまた登って食べてしまうからね」



そう説明をされ、また庭に出る。葉の裏を一枚一枚丹念に裏返しては、その場に居る虫を殺した。


とても沢山居て、ここは虫にとっても良い環境なのだと思い知った。


野菜は虫にとってもご飯なのだ。虫が葉を食む。それによって実が上出来だろうと不出来だろうと、この虫の知ったことではないということだろう。


なんていい暮らしだろうか。でも、こうしてたまに居る人間によってその良い環境から引っぺがされて、叩き落され、殺される。


そう思うと、自分が虫でなくてよかった。何てことも思えた。



「なあ膳、工場って毎日行くのか?」



「ううん、休みもあるよ、君が来た次の日は、僕家に居たじゃない」



そう言われて、そういえば、と思い出す。



「大したことは出来ないんだけどね、でも、みんなじっとはしていられないんだろうね、この村を、また昔のように戻したい、ただその一心で頑張ってるんだと思う」



玄関に腰を下ろして、俺が虫退治に専念しているのを眺めていた膳は、のんびりと、そして遠くを見るように答えてくれた。


『以前『都市』に襲われた』焔に言われた言葉を思い出す。


もしかしたら膳はそれを知っているのだろうか?だとしたら、結構長い事ここに居るって事なのだろうか?確か12の時から居るって言っていた。六年前。果たして、どうなんだろう。


でも、それを直接聞くのはどうだろう。無神経ではないだろうか。でも、気になる。


でも聞けない。きっと俺はとても変な表情になっているだろう。


膳が下から俺の額を突付いてきた。はっとして、その拍子に後ろに倒れそうになる。


が、なんとか足を下げてそれを防げた。



「ガート、考え事をしている暇はないよ、さ、仕事だよ」



その言葉に、昨日の筋肉痛を思い出した。今日もまだ少し痛い。神経を使う事には慣れない。


変に疲れるし、頭も痛む。何で俺がこんな事をしなくてはならないのだろう。


なんて理不尽なんだ、等と思うことも未だにある。だが、それでも続けていたのは、膳が居たからだろう。


今までと違う。誰かがそこに居て、笑ってくれる。苦労も嬉しさも、分かち合う事が出来る。


それが何より嬉しいと思ってしまった。この数年忘れていた感情だった。喜怒哀楽。


それがここに来てやっと戻ってきた。そう思った。      




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