#15
「んで、ガートは幾つだ?」
「15歳だって」
「おお、15!良かったなあ膳、やっと弟が出来たか」
「これでガートが年上だったら面白かったのになあ」
「何をくだらない事を言ってるんだ、とりあえず、ガートの世話は膳の役割になるな、できるか?」
唯一落ち着いている、ええと・・・慄が膳に問いかけた。膳は一度ちらりと俺を見た。そして大きく頷いた。
「丸一日過ごしたけど、問題は無さそうだよ、根本的には、これからどう変わるか分からないけどね」
「ま、何はともあれ、仲間が増えたのはいい事だな」
「おう、これはもう仕事どころじゃないな」
今にも踊りだしそうな肘。昼間っから酔っ払ってるのではないかと思いたいくらい、ハイテンションだ。付いていけない。
「何を馬鹿を言ってる、今日の仕事は今日する、決まりだろう、早く村の修理をするのだからな」
慄の一声で、「はーい」と一度返事をして作業に移った。俺は膳について回った。
何をするのか分からないし、何を作って居るのかすら知らない。見ても分からない。
館には無かった物ばかりが並んでいるのだ。いや、もしかしたらあっても俺には見せなかったのかも知れない。
危険。または大切。いじらせてはいけなかったとか、そんなところだろう。おもちゃではない。
そういう感じだ。特に、ここに居る人間にとっては、村や民の命の次に大切。きっと全てを守る何かが出来るのだろう。
と、思っていたら、出来上がるのは色んな形の鍋。細かい鉄をかき集め、それを熔かし、鉄板を作る。それで工場を修理したりするようだ。何故なら、やはりここもかなり隙間風が入っているからだ。
「膳、これは仕事か?」
「そうだよ、自分達の生活に必要な物を自分達で作るんだ」
「それって、自給自足ってやつか?」
思い返すと、庭には野菜が実っていたっけ。確かに、この地を見る限りは、そんなには土は肥えていないし、大した物は作れない。
木も生えているとは言えない様な、ただ棒が突っ立っているだけの、枯れ木だ。
ここは陸地だし、まあここまで滅んでいる世界でこうして生きている事自体が、凄い事なのかもしれない。
「ガート、良く見ておいで、明日はガートも機を動かすのだからね」
大きなクレーン車で、鉄板を移動させながら膳が言う。
「へ?俺何にも乗った事ないぞ?免許ってのが必要なんだろう?」
「そんなの、この村の人は誰一人として持ってないって、ようは動かせればいいんだ」
笑って何て事無く返す膳。しかし、それはかなり難しい事を言われているような気がする。
ただ見ているだけでも、ややっこしい乗り物なのに。そう言われたら、余計に混乱して見える。
「大丈夫だよ、いきなり一人で運転しろ、なんて言わないから、僕が一緒に乗って教えてあげるよ」
混乱している俺が滑稽だったのか、膳は笑って言う。それを聞いて安心した。
そして他の連中にも何となく目を移す。それぞれ違う事をやっているらしく、一箇所には屯って居ない。
鉄板をサイズに合わせて切っていたり、外から鉄の残骸を集めてきているのもいるし、何やら書き起こしているのも居る。
ちょっとはまともなところがあるものだ、なんて思った。
唯一まともな慄は置いておくとして、他の二人、肘・撓までもがまともに働いていると、初対面とはいえとても不思議な感じだ。
芝居でもしているのではないかと思うほど、別人のようにまじめな顔をしているから、少し失礼な言葉も態度も、許してやってもいいかなあと思う。
「それでは、今日の労働はここまで、各自しっかりと休んで明日のための力を蓄えるように」
外が少し暗くなり始めた頃、慄のその言葉で各自作業を止める。終業らしい。俺は膳が機を片付けに行くのを一緒についていく。
その姿を「金魚の糞みたいだ」と肘が指を指して笑う。
撓は、笑ってはいるが肘に何か言っていた。膳が言うには、あの二人は年が同じらしく、暴走しがちな肘を、撓が抑える。
そういう役割があるらしい。でもたまに二人揃って暴走する事もあるとか。
「どうだった?労働、ってまだ何もしてないけどさ」
膳の家に帰り、寛いでいると膳が問いかけてきた。正直、今までと違いすぎて、驚いている、というのが率直な感想だった。
「あの鉄、どこから拾ってくるんだ?」
この辺には何もない。いきなりぽつんと鉄が落ちているって事はないだろうし、ちょっと不思議だったのだ。
「ああ、元々この辺りは鉱山だったんだって、だから場所によってはまだ埋まってるんだよ、それを掘り起こして、使ってる
んだ、後、もう壊れてしまった家々から拾ってくるんだ、潰れて跡形もなくなったようなところは掘り起こしてるんだよ」
その返事は、意外な物だった。こんなに寂しいところが鉄鋼で栄えていたなんて。
今では見る影も無いな。後半の答えは少し寂しい物だったのか、膳はまた苦笑いをした。
こんな世界だから、何かを犠牲にしなければ生きていけない。
ましてもう誰も居ない、死んでいる家だ。そのまま朽ち果てるより、生きている人のために役立つほうが、それらも幸せだろう。