表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/63

#10

「あれは、家族旅行をしていた時だった、当時は今より栄えている町が多く存在していた、その町からの帰りだった、大きな飛行船、何百人乗っていたのだろう、僕もその内の一人だった、窓から外を見ると、地面がとても下にあって、雲も見えて、とても綺麗だったのを覚えているよ」



遠い目をしたまま、膳の口元は少し笑っているように見えた。


その光景を思い出しているのだろう。それでも、悲しそうな表情。そして空気は変わらなかった。



「小さな村を通り越したその時、大きく機体が揺れた、上空を飛んでいたから、風に煽られただけかと思っていた、でもそうじゃなかった、機体は方向感覚を失いそのまま墜落した、本当に一瞬の出来事だったよ」



小さくため息をつき、目を閉じる。その時の事が生々と蘇っているのだろうか。辛そうにも見える。



「耳の奥にとても大きな音が響いて、それは消えなかった、意識が遠のいて、気が付いた時は真っ暗闇だった、誰の声も音もしない、無の空間だった、身体も直ぐには動かせなかった、それは両親の間に座っていた僕が、両親と機体との間に見事に嵌ってしまっていたからだった、動けない、でも声も出ない、痛みは感じないもののどうしようもない状況だ、そして暫くすると機体がまた動いた、そして崩れる、元々墜落した時、全体的に地に付いていなかったらしく、その一点では支えきれなくなって崩れた、という感じだった、そのお陰で僕は外へと放り出された、お陰でまた気を失ったけどね」



その時の衝撃で頭を打ち、少し窪んでしまったと、後頭部を擦りながら膳は言った。


笑っても居たが、決して心からの笑顔ではなく苦笑だった。笑えるはずがない。


それだけの事故を体験したのだから。



「意識を取り戻し、顔を上げると飛行船からは無数の手や足、顔が見えていた、そして機体にもその下の地面にも、夥しい血液が流れ落ちていた、これだけの人数だ、見えないところにも沢山の血溜まりがあることだろう、そして誰一人、生きていなかった、僕はたった一人の生き残りだった、あまりのショックで何も分からなくなった、目の前のそれが現実とは、思えなかった、立ち上がろうとしたら、腰が抜けてしまい、立てない、そう思った時、飛行船は爆発した、燃料が漏れていたからだと思う、でも真相は分からない」



「膳の両親も、死んだ?」



俺の問いかけに、膳は唯一度、頷いた。



「跡形も無く、焼けたと思う、僕はそれを見届ける事は出来なかった、気が高まってしまっていて、ただただそれが夢にしか思えず、でも涙が止まらなかった、そこだけは身体も反応したのかもしれないね」



「んで、どうやってここまで来たんだ?身体、動かなかったんだろう?」



「お迎えが来たんだ、放心状態の僕の元へ」



「お迎え?」



その言葉に、俺は首を傾げた。よく言うそれって、死ぬ時に来るお迎え?でも膳は死んでないし、じゃあ一体誰が来たんだろう。


ここには誰も居ない。ってことは、やっぱり、。と、足りない頭で考えた。



「彼らはここの村民だったんだ、飛行船が墜落するのを見て、現場に駆けつけてきてくれたんだ」



「ここに居ないのか?」



「生活はそれぞれ別、最初の頃はお世話になったけど、この家も仲間になった証として、貰ったんだ」



そういうと家を見回して笑う。先ほどよりは自然な笑顔になっている。



「明日、彼らにガートを紹介しよう、工場で仕事をしてるんだ、とはいえ、自分達の生活に必要な物を作ってるくらいだけど」



落ち着いたのか、カップを置いて箸を持つ。少しずつだが口へと運んでいく。嫌な思いをさせてしまったのだろうか。分からない。


ただ、一瞬でも膳の気が揺らいだのは確かだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ