#9
「そういえば、君、名前は?王子様でもいいけどさ、名前の方が親しみがわくよ」
「俺はガート・ジルヴァント」
「ふーんガートか、変わってるけどいい名だね、僕は加悦膳、この世界が滅びると言われた年のその月に生まれたんだ」
「なんだそれ、地球って滅びるところだったのか?」
「ガートはそれすら知らないのか?そうとう世間を見ていないねえ、昔ね、ノストラダムスの大予言っていうのがあって、その中で1999年七の月、地球は滅びるってあったんだ」
「ってことは、今膳て幾つだ?」
「今は2017年なんだから、18歳だよ、ガートは?」
「もう17年なのか?!じゃあ・・・15、になるのかな」
「なんだよそれ、自分の年くらい覚えておきなよ、僕より三つ下か、弟だね」
そういうととても嬉しそうに笑った。だが俺にはそれがわからなかった。他人なのに弟?何故だろう。
血の繋がりがあるから兄弟になるのに、他人では兄弟ではないのに。
「俺、兄様居るぞ、本当の兄様が」
「みたいだね」
膳のその返しに、俺ははっと膳の顔を見る。何も話していないのに、何で分かったんだ?
きっと俺の目はそう物語り、顔にもそんな風に浮かんでいた事だろう。膳は、また笑った。
良く笑う男だと、思った。
「昨日、ガートそこで寝てしまったでしょう?二階まで運ぶのはとても大変だったよ、でもね、階段を上がってる時かな、君、寝言で『兄様、兄様』って呼んでた、もしかしていつも抱っこしてもらってた?」
それを聞いて何故兄様の夢を見たのか分かった。膳と兄様を間違えたのだ。
館では親ですら大きくなると抱いてくれる事は無かったが、兄様は違った。
軽々しく、とまでは行かないけど、俺を良く抱き上げてくれた。
久しぶりに人とこうして接する事で、思い出してしまったのだろう。
ちょっと・・・いやかなり恥ずかしい。
「良いね兄弟が居て、僕は一人っ子だから羨ましいよ」
「膳は親は?ここに一人って言ってたけど」
冷め始めた食事に手を伸ばしつつ、問いかける。この家は静かだ。
さっき見て回っただけでも、随分と長い事膳が一人で過ごしていたのが分かった。
俺の寝ていた部屋も、掃除はしたようだったが、それでも埃っぽさが残っていたから。
「僕は、六年ここで一人で生活をしてるんだ」
膳の表情が、少し曇って見えた。その時、俺は昨晩の事を思い出した。
「お前が俺と同じって、どういう事なんだ?一人っていうのが同じって事か?」
どういう意味なのかとても不思議だった。でも分からなかった。
きっと頭の回転が鈍っていたからだと思う。でも今聞いてもきっと分からないと思う。
俺が膳でない限り。膳から聞かない限り、分からない。
「ガートと僕の共通点は、余所者、って事、僕はこの村の者ではなかった、六年前、ここに来たんだ」
箸を置き、コップを持つ。そして水を一口含む。それから暫く水を見つめていた。
遠い目をしていた。俺はその間も手を休める事無く食事を続けていた。