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V. 大賢者ランドは故郷に帰る

「で、ランド卿は今後はどうするつもりなのだ。これまでの功績に鑑みて貴殿の好きなものを取らせたいが。」


 とアルノルト7世陛下がランドに申し出た。


「図書館は王都にはマナ化したコピーをおいて閲覧できるようにしてあるので、元の文献や資料は私の領地の図書館に収めてありますので…」


「それこそ貴殿の私利私欲の証拠ではないか!」


 とフィリッポ王子が突っ込む。


「我らはその膨大な資料に助けられたのだ。」


 と勇者アレックスがピシャリと言うと王子は黙った。ランドは続けて


「そうだ。あの『シャルンホルスト』をいただけませんか?」

「なに、あの旧世界の記念艦を?」


 と国王は聞き返してくる。


「とはいえ元々貴殿のところで建造されたのを娘の名前と同じだから、ともらったものだからな…シャルンも気に入っているようだが、よい。貴殿のところへ返そう。」


 こうしてランドは『シャルンホルスト』に乗って故郷に帰ることにしたのであった。


 『シャルンホルスト』、それは今は跡形も残さず滅び去った『旧世界』でかつて建造された『戦艦』と呼ばれる戦闘艦である。ランドの領地にはなぜか古代より伝わる技術がよく残されていた。


石油を掘削・生成する技術(都合よくランド領の首府の近傍に油田もあった)その石油を利用した内燃機関の製作、や鉄鋼業などの重工業の技術。それは世界で広くつかわわれているマナを用いたマナガンやマナ粒子砲ではなく、古臭い火薬をつかった炎と煙を出す銃や砲を作ることもできた。フラン王国の支配者はそれらを面白がって保護するようにカルテ卿の祖先に命じた。

ちょうどカルテ領は古の技術の博物館、悪く言えばテーマパークのようなものとなっていたのである。もっとも『油と煙の臭いが不快』と言われて実際に観光客が来ることは稀なのであったが。


そんな中、『王女の名にちなんで』という名目でフラン王室の予算をもぎ取って建造したのがこのシャルンホルストであった。旧世界の大大陸の北方、文献によれば『ドイツ第三帝国』という国家で建造されたというその戦艦は、総排水量38100t,全長235mと巨大なもので、28cm3連装砲三基を搭載し、30ノットを発揮する高速戦艦である。純白に近い灰色の塗装をされた彼女は第三帝国の西方に位置する大英帝国との戦争で、通商破壊に大いに活躍し、度々の危機に陥ると霧が出て逃げ込み、『幸運艦』と呼ばれていた。

英国の空母グローリアスを砲撃で撃沈した成果も挙げるなど華々しい戦果を上げていたが、最後は大英帝国の戦艦デュークオブヨーク率いる艦隊に捕捉され奮戦の末撃沈された、と古の文献に記されていた。

シャルンホルストは幸運艦と呼ばれる一方で、竣工が事故で遅れた時にドックで不吉な妖精を見かけた、と噂され、沈没の際に生き残った人員がわずかだったことから幸運艦ではなく逆に『呪われた戦艦』と呼ぶものもいた。(ここまで大雑把に史実。ただし同時代文献には呪われた、という根拠はなく怪奇作家の創作という説が根強い。また生き残りが少ない壮絶な最後を遂げた船が呪われた戦艦になるならそれこそビスマルクやフッドでも良い訳で、枚挙にいとまがない事になる…)


ランド・ド・カルテはその博物趣味から戦艦の姿を概ね資料のそのままに、ただ主砲だけは本物が搭載していた28cm三連装砲三基、ではなく後継のビスマルク級同様の38cm連装砲とした。実は史実のシャルンホルストも本来そのように改装される予定であったのだが、戦況の悪化と戦略の変更により実現されなかったのである。


ランドいわく


「本来望ましかった姿にしてみた!」


 とのことだが、巨砲の製造にまた多くの予算が注ぎ込まれて王国の財務官が卒倒したのはまた別の話である。


純白の戦艦の美しい姿はアルノルトとシャルンの国王親子にいたく喜ばれた。調子に乗ったランドはさらに英帝国の『ヴァンガード』や米帝国という巨大国家の『モンタナ』などの戦艦の建造を提案したが、流石にそれはあまりにも予算がかかる上に大義もない、として却下され、ランドは地団駄を踏んだという。


 ランドは荷物をまとめてシャルンホルストに乗り込むと、艦長のレーダー大佐に挨拶をした。


「大将また世話になるよ。」

「大将ではなく大佐ですが。」


 ニヤリとレーダー大佐は笑うと


「ランド閣下。こちらこそ閣下に座乗いただき光栄です。こいつもまた海に出られてかえって嬉しいでしょうよ!」


 と言って舵輪をポンポン、と叩く。


「国に帰ったほうが整備もできますしな!」

「航路はまたいつものクル教公認海路で頼む。」

「そこはクル教の教えにはたてつけませんしな。」


 そう、この時代海を自由に航行することは禁止され、いくつかの沿岸に近い航路のみが認められていた。そのように定めたのはクル教であった。


 魔族が発生したのと同時期、海にも深きものや海魔と言われる化け物が出現するようになった。大きさは小さいものでは数十センチ、大きなものだと100mを超えるようなものも見られ、魚のようなものや人めいた形をしたものなど様々なものが現れ、通行する船を沈め、乗員の命を奪った。


クル教の聖女が登場し、マナコンバーターが広まったのと同じ頃、海魔は沿岸沿いには現れなくなった。

クル教は『海魔を鎮めた』と発表したが、その一方で『広大な海の中でクル教の力が及ぶのは沿岸のごく限られた航路のみである』とし、クル教が認めた航路以外を航行することを禁じたのである。


その後実際にクル教が認めた航路においては海魔の襲撃はほとんどなかった。逆にクル教公認航路を無視して外れたもので生きて帰ったものはほとんどなかったのであった。


 王都ロマーレの港を出航し、沿岸から認定航路ギリギリの遠洋にシャルンホルストは出た。航海は順調に続いていたが、ある日、突然汽笛が響き渡った。


 ランドが艦橋でレーダー大佐に尋ねる。


「どうした。」

「はっ。航路の外側にはなりますが、海魔を認めたもので。」


 ランドは遠方視の古代魔法を使おうとし…間に合わないと思い直してとりやめた。レーダー大佐に双眼鏡を借りると、海魔の方を見る。


「ランド様なら大丈夫と思いますが、海魔には覗き見たものの精神を発狂させるものもあるようです。どうかお気をつけて。」


 レーダー艦長に注意を受けつつ、ランドはその海魔を見た。…大きい。

海から迫り出している部分でもおそらく100mを超えているだろう。


「あれは…東方の古文献にあった海坊主か?いや鱗に覆われた体に何本もの触手が垂れ下がった頭…俺の知っている範囲ではなにか分からないな。到着したらまた調べてみないと。」

「幸い航路に侵入してくる様子はありませんが、こんな近くに海魔が寄ってくることは近年ありませんでしたな。どうしたのでしょう。」

「うーむ。何か変化が起きているのかもしれないな。」


 海魔は航路の外側に佇み、こちらを伺っているようではあったが、それ以上は近づいてくることはなかった。そしてシャルンホルストは無事に通り過ぎることができたのであった。


 その後も航海は順調に進み、クル教の指定した航路を使いって無事カルテ領首府スィラムの港にシャルンホルストは到着した。艦を港に接岸させると、ランドは懐かしき領土に降り立った。


港でランドを出迎えたのは意外な顔であった。


「よ。遅かったじゃない。」


 岸壁でヨッ!と手を上げたのはトモエであった。


V.大賢者は故郷でレストランシップを開く

「お先しているよ。」


 と声をかけてきたのはフラン王国の王都ロマーレで勇者パーティーに参加しているはずの剣士、トモエであった。


ちょっと更新お休みします。次回来週後半予定です。

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