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IV. ランド・ド・カルテは勇者パーティーを解任される

 ランド・ド・カルテはついに古の『窮極古代魔法』を習得した。


 その噂を聞きつけた国王アルノルト7世は、『マナコンバーターを使った普通の魔法と違う体系の使い手ならば魔王に対する切り札になるかもしれない』と考えて、ランドを勇者パーティーに招聘したのである。


 勇者パーティーに参加した大賢者ランドはパーティーの特権を使い、予算無制限でさらなる世界中の文献や資料を収集した。この時代、紙の本なんて読むものはほとんどいない。紙を使っているのはランドの領地のような辺境の住人ぐらいで、普通はマナコンによって動作・通信している、様々な大きさの『マナタブレット』であらゆるものを読んだり、書いたりようになっていた。放送もマナの力で映像を遠隔に映し出すマナビジョン、車の動作も飛空艦同様の動力機関を用いたマナドライブ、と世の中マナで動作するもので埋め尽くされていたのである。


「…勇者パーティーの予算の半分ですよ!半分!国家予算でも結構な割合を占めておりますし、クル教に寄進をするどころか逆にクル教から色々ふんだくっていく始末!」


 とスゥィス卿がヒステリックに叫ぶ。(ツバ飛ばすな、ツバ。汚ねー。)とランドは心のなかで呆れている。アレックスやシャルンはまたか、という顔をしている。


「もうランド卿抜きで魔帝国制圧は大丈夫でしょう!」

「いや俺はランドがいてくれたほうがいい。」


 とアレックスが食い下がるが、


「ランド殿にカネを使わなければ大飛空艦艦隊を随行させられますぞ!

やる気になれば大型戦闘飛空艦8隻からなる艦隊を8個!そうすれば一々王都に戻らずとも一気に魔都シャングラまで攻められましょう!」

「その飛空艦艦隊の指揮はぜひ私が取りたく。」


 とフィリッポ王子も言う。


「現実問題として飛空艦隊で一気に制圧するなら数週間もあれば帝都を落とせましょうな。費用もずっと安く済む…ランド卿の調査1回分にも満たないのでは?」


 とスゥィス卿の脇から口を出してきたのはスゥィス卿の書記官、ニィルである。その漆黒の四角い相貌にメガネを掛けた暗い知性を感じさせる容貌は、でっぷり太って肌がたるみ、堕落した印象を与えるスゥィス卿の従者としては似つかわしくない印象があった。


「ここはご英断を!」

「8個艦隊となればほぼわが国の全軍ではないか…いくら魔帝国攻略最後の仕上げとは言え、守備も残さず出せというのか。」


 としぶるアルノルト王。


「それはこの戦いが終われば攻めること自体が不要になるのです!守備など不要でありましょう。」

「ところでスゥィス卿、この様に重要な場にあって聖女様はいかがなさった?ぜひ聖女様のご聖断を仰ぎたいのだが。」


 とアルノルト7世は尋ねる。


 聖女様、と言うのはマナコンバーターをもたらした初代の聖女ではない。聖女は不老不死というわけではないので、代を重ねているのである。


当代の聖女は3年ほど前に就任した。しかし就任後の祭典が行われた後、聖女は人前に全く姿を見せておらず、その動静が案じられていた。


 国王の問いに答えたのはスゥィス大司教ではなく、秘書官ニィルであった。


「聖女様は特別な祭礼のために大神殿におこもりです。」

「そう言ってもう1年以上になるではないか。出ては来られぬのか。」

「魔帝国を祈伏する特別な祭礼にて。」

「わしとしては聖女様の聖断を仰ぎたいところであったのだが…」

「このスゥィスが聖女様からクル教の全権を与えられております!ランド卿を勇者パーティーから解任し、その予算で魔帝国を攻略するのです。ランド卿は勇者パーティー特権を失いますからここは首都ロマーレを去っていただき、御料地の経営に専念されればよいのです!陛下!ご決断を!」


 (ランドがいると邪魔になるから体よく追放というわけか…)


 アルノルト7世は苦々しく思った。しかしスゥィスの秘書官ニィルがそれに続けて


「クル教の全権を与えられているスゥィス様に表立って逆らうと言うならば、それはクル教に対する反逆とみなしてよろしいですか?アルノルト王。ならば我らはフラン王国に対する庇護を停止し、全ての教徒に正義に対する戦いを呼びかけなければなりませんな。」

「この余を脅すのか?」

「脅してはいません、陛下。ただクル教としましては教団全体の意思に反する王を支持することが出来ない、と申しているだけです。」

 

アルノルト7世はついに押し切られた。


「やむをえん。ランド卿、勇者パーティーから貴殿を解任させて欲しい。」

「陛下がおっしゃるならば。」


 とランドは答えた。

(まぁアレックスならば魔王クリストフォラスと相対しても問題はないだろうし、そろそろ故郷で収集した本に埋もれてじっくり勉強もしてみたかったのだ。あとどうしてもやってみたい夢がある。気になることは有るが…仕方ないな。)


 とランドは考えた。勇者パーティーを解任されたはずのランドはむしろ清々しい表情をしている。


「これで侵攻も早まり、魔帝国にとどめがさせますな!」

「私も役に立ってみませます!」

「予算も浮きます!」


 とスゥィス卿は喜び、フィリッポ王子と手を取り合って小躍りしている。


「わしは貴殿に問題があるとは思わないのだが…」


 とアルノルト7世は渋い顔をしている。


「ランドがいないと心細いな…が期待を裏切らないようによく警戒しながら精進しよう。」


 自分の意志にはそぐわないことを表明しつつアレックスは言葉をかけた。


「ランドも元気で。この頭の固い司教とバカ王子が失脚したらすぐに戻ってくれると嬉しい。」


 と困った顔をしながらはっきり物を言ったのは王女シャルンである。


「バカ王子とはなんだ!姉とは言え無礼であろう!」


 とフィリッポ王子は激昂するが、


「ならばその能力が見合うことを示してみろ。」


 とアレックスに言い返され、ぐぬぬ…と口ごもりながらも


「当然だ!」


 と言い返した。


 こうして大賢者ランド・ド・カルテは勇者パーティーを解任され、フラン王国首都ロマーレから追放されて故郷に帰ることになったのであった。


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