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II. マッザの廃墟にて その2


 次の朝、深奥山脈と逆の方向から飛空艦が8隻その姿をあらわした。


「お、着いたか。」


 とアレックスが見上げる。


この世界ではマナコンバーターは魔法に用いられるだけではなかった。乗り物に限らずほとんどすべての動力がマナコンバーターを核としてマナの力をエネルギーとして動く『マナ・ドライブ』によってなされていた。今回来た飛空艦は中ぐらいの大きさの巡航飛空艦と呼ばれるタイプで、100mを超える船体に厚みのある翼が2枚ずつ両舷に着いており、そして戦隊には数機の大型の回転式のマナ粒子を吐き出すマナ粒子砲の砲台が設けられていた。さらにいくつかの小型粒子砲の砲座が戦隊や翼に設けられていてそれを補っていた。艦橋に当たる部位は船体の前下方に設けられている。巡航艦よりも大きな、戦艦級の大型な飛空艦では上方に大きな艦橋を持つものもある。そして後部のハッチから小型の、これもマナドライブで浮遊する亀のようなポッドに乗ってわらわらと陸戦隊の兵士が降りてきた。兵士はマナの力でレールガンのように銃弾を加速して打ち出すマナ・ガンを装備している。


「アレックス様。シュライヤー中佐、到着しました!」


 ビシッと敬礼するのは陸戦隊の指揮官シュライヤー中佐である。


「ご報告は昨晩マナタブレットで受けておりますが、このマッザの地をまたたく間に制圧するとはさすが勇者様御一行であります!」


 そう。この世界では通信もマナの力を電気のように使って行われているのである。


「そう肩をはらなくても良い。楽にしたまえ。さてこの後だが。」


 と答えるアレックス


「ランド、どうするのが良いと思う?」

「うむ。ここはいつものように、まず制圧した地域を陸戦隊に橋頭堡として固めてもらうのが良いかと。」

「一気に帝都まで侵攻するのではなくて?グンニグルで首都を焼き尽くせば早いだろうけど。」


 とランドのいうことはわかっている、という口調であえて突っ込んでくるシャルン。


「いくら魔族が相手でもそれは非道だろう。魔将軍ラフルルはここが帝都シャングラへの最終防衛ライン、と言っていた。となればここで一旦態勢を整えてから向かったほうがいいと思う。それに…」

「それに?」

「やつの言っていたセカイ樹のことが気になる。セカイ樹を滅ぼすと世界の災いになるだろう、というのは初耳だ。ぜひ王都に戻って資料を調べたい。」

「セカイ樹ですか……?」


 とシュライヤー中佐。


「あの深奥山脈の麓にある魔帝国の首都にそびえると言われる『世壊樹』ですよね?」

「そうだ、そのセカイジュだ。」

「あれってすべての魔族の元になっている、と言われているものですよね。それを滅ぼしてはならない、というのは理解できません。」


 シュライヤー中佐の言うことはもっともであった。旧世界が何らかの原因で滅びた後、人類はまた文明を発達させ、しばしの間世界は平穏であった。


しかしある時、最大の大陸であるメラシア大陸の中央にある未踏の地、深奥山脈の麓に巨大な『世壊樹』が出現した。世壊樹は瘴気を吐き出し、その瘴気から魔族と魔物が誕生した。


魔族というのは体格こそ人間よりも大きいが、その外観は人間とあまり変わりがなく、知性も持っている存在である。そして瘴気を力として魔法を操り、先に出てきたドラゴンを始めとしてオーク、ゴブリンやコボルトなど数々の魔物を従えていた。数千年前から君臨すると言われる魔王クリストフォラスはその魔族や魔族の配下として魔物を組織化して訓練し、軍隊とし、人間の世界へ攻め寄ってきたのである。


 当初魔族の侵攻を人間は止めることができず、人間は海辺の僅かな地域まで追い詰められた。いよいよ魔族の手によって世界が征服されようとしたその時、海岸に教会を持っていた海を崇拝する宗教、『クル教』の初代聖女が人間にもたらしたのがマナコンバーターであった。


マナコンバーターを発明・製作した者について聖女は決して語らなかった。しかし聖女の求めるままに土地や資源を用意したところ、クル教は海辺の教会に工房を用意し、数え切れないほどのマナコンバーターを作り出し、人々に与えたのであった。マナコンバーターを得た人間は自在に魔法を操れるようになった。そして魔族と互角以上にに戦えるようになった人間は魔族を追い返して人間の版図を取り返したのであった。


魔族を滅ぼすことは出来なかったが、魔帝国の支配は深奥山脈を中心とした一帯に限られることとなった。クル教は人間にとって聖教となり、特製のマナコンバーターを与えられた初代の勇者が打ち立てたフラン王国はクル教を守護するとともに、人間の諸族の国家間の中心的な大国となって今なお君臨するようになったのである。


 魔帝国はメラシア大陸の奥に追い払われたとはいえ、人間は魔王を滅ぼすことは出来ず、深奥山脈とその周囲の大高原を中心として版図を保った。それからも人間と魔族は数百年以上に渡って一進一退のにらみ合いを続けてきた。


そう、これまでの勇者とは全く格が違う勇者、アレックスが登場するまでは。


 勇者用の特別なマナコンバーターは世界に現存が確かめられているものはアレックスの持つもののみである。そしていくら解析しても同様のものを作り出すことは出来なかった。  勇者のマナコンバーターが他のものと異なり、レベルが3桁表示されているとはいえ、これまでの勇者のレベルは110から高くて199程度であった。あくまでも『レベル99を超えている』別格な存在を示すものであったのである。


初代勇者であるアレクサはレベル199であった。それでもアレクサは魔帝国四天王のうち二人までを討ち滅ぼした。その功績は今でも聖アレクサと呼ばれているほどである。世界の中では別格であり、魔王クリストフォラスが親征してきたときも魔王を滅ぼすことはできなくとも退かせるには十分な働きを示したのであった。


しかし当代のアレックスは勇者に選任されたのちも己の鍛錬を怠らず、またたく間にレベルを999まで伸ばしたのである。


 歴史上別格の勇者アレックスを得たフラン王国は、魔法戦士シャルン、剣士トモエと大賢者であるランドからなる勇者パーティーを魔帝国へ侵攻したのであった。


アレックスはまたたく間に魔帝国諸将を討ち、制圧した地域を広げていった。アレックスが切り込んだ領土を後に付き従う飛空艦やそれ続く歩兵を用いてフラン王国の戦隊が支配を固める、という流れで着実に魔帝国の領土を削り取っていったのだ。


そして今回ラフルルを倒したことで、魔帝国四天王のうちの3人を討ち取ったことになった。


 これまでの歴史からすれば最終的に魔帝国の首都シャングラを陥落させ、世壊樹を破壊することが世界の平穏のためには必要と考えられていた。しかし大賢者ランドにはラフルルの言うことが引っかかった。ランドは『ここはなにかヒントを求めて王都に赴かなければなるまい』、と考えたのである。


「俺はランドの言う通り一旦王都に戻ろうと思う。我々はこれまでもランドの考えを聞いて上手くやり遂げてきた。俺はランドを信じる。」


 とアレックスは断言した。そして勇者一行はマッザの確保をシュライヤー中佐の部隊に任せるとフラン王国の王都、ロマーレへ高速連絡飛空艇に乗り帰還したのであった。

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