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お稲荷様とご縁結び



 キヨの家を後にして神社に戻り、少し元気のない白玉とタピオカに「大丈夫か?」と声を掛けながら、最初に出会った賽銭箱の裏側に白花たちを降ろした。

「神域を出るのには体力が要るのです」

 タピオカの言葉に少し悪い事をしたと思った。

「気にするな、ワシがこやつらに神気を分ければ良いだけのこと」

「いけません、白花さま。勿体ない事です」

「かとて、おまえ達だけでは気は調達できんだろう。カリカリになりおって、だから落っこちるのだ」

 環の前に突然現れた白花たちの事情が何となく伺えた。

「何か気が食えるものってコトか?」

 思案に身じろいだ瞬間にカサリと音がして、白花たちを抱えていた腕に、出かけに貰ったカップケーキのペーパーバックを下げていたことを思い出す。

 卵はエネルギーの塊と白花は言っていた。

「ばぁちゃん特製の厚焼き玉子のホットサンドは上げられなかったから、コレ、一緒に食お」

 そう言って大きな真っ赤なリボンを解き、シンプルなチョコチップのカップケーキを四等分にした。環が貰った手前、全く口にしないわけにはいかない。

「カップケーキにも卵が使われてるからな」

 四分の一のサイズでも白花たちには十分な大きさだ。環は自分がまずは一口で食べてしまうと、一つの欠片をさらに半分に千切って白花に差し出した。無言で一口食べた白花を目にして、今度は白玉とタピオカに同時に差し出す。二匹は白花に倣ってカップケーキを口にする。その瞬間、フワリと白玉とタピオカの纏う気配が僅かに膨らんだ。

「多分、白花が食べないと白玉もタピオカも食べないだろうから」

「だろうな」

 残りのケーキも同じ順番で差し出すと、三匹とも綺麗に食べ終える。元々ふにふにだった白花は解りにくかったけれど、白玉とタピオカは明らかに、ふっくりとした毛が体を覆っていた。カリカリからも少し脱出している。

「こんなにすぐ表れるんだな」

「それだけ弱ってた証拠だ。全く、人にばかり食わせよって、人に与えさせもせん。ちょっとは自分たちのことも考えんか」

 白花の小言が止まらない。

 初めて会ったあの時、白玉とタピオカが白花を守るように寄り添っているのだと思ったけれど、白花が二人を心配して守っていたのかもしれない。

 真っ白で。ふにふにで。尊大な物言いが似合わない、優しい稲荷の神様。

 さらさらと吹いてきた風が、頬を掠めていく。

 カップケーキを開けた時ペーパーバックに引っ掛けた赤いリボンが、ひらり、と舞った。

「そうだ、このリボンは白花にやるよ」

 飛んで行ってしまいそうなそれを捉まえて、環は白花に笑った。

「ヹッ⁈」

「はっ⁈」

 ギョッと固まったタピオカと白玉とは別に、白花は、じっとリボンを見ている。それを了解と取って、環は白花の首に赤いリボンを結んだ。

「ギャ――――――――ッッ! 白花さまぁっ‼」

 途端に、白玉とタピオカの絶叫が響き、パラパラと光の粒が降ってきた。

「え?」

 視線を上げると一度止んだ雨が太陽の輝きを纏い、キラキラと宝石のカケラのように降りてくる。そうして空は澄んだ青。そこに大きく彩る二重の虹。

 全てに祝福されているような光景が広がる。

「これで、成立じゃ」

 深く、落ち着いた声。真っ赤なリボンを翻す白花が、環の肩にスッと乗った。

「なにが」

「一つの玉の子を分け。赤は血潮。糸は紡ぎ繋ぐ。即ち――ご縁結びの成立じゃ」

「待て待て、そんな大層な」

「大層だから、白玉もタピオカも絶叫し、八百万が祝福しとるんだろうが」

 祝福されているようなではなく、本当に祝福されていたらしい。

「八百万って……」

「神だろ」

 当然と言わんばかりに言い放ち、宣言の如く真っ直ぐに空へと言の葉を放つ。

「環は、この白花の(あるじ)である」

「オレにとっては、夢であるぅ」

 数時間前にも同じような事を言った気がする。

「主といっても主従関係ではない。ワシは稲荷の神。従う者ではない。だからこその“縁結び”だ」

 キラキラと光の粒舞う中、白花の真っ直ぐな瞳が環を捉えて離さない。

「これで、環が行く所にワシらは神域を離れて行く事が出来る」

「ワシら?」

「白玉とタピオカの(あるじ)はワシだ。そしてワシの主は環。ならば環は、こやつらの大主だ」

 ふと気が付く。

「もしかして、白玉とタピオカのためか」

 思わず口にした環に、白花はフンっと鼻を鳴らしてソッポを向いてしまった。

「白花さまぁ」

「はくかさまぁ」

 ぽろぽろ、コロコロ。白玉とタピオカの瞳から涙が零れ落ちる。

「我らはなんて幸せなのでしょうかぁ」

 ぴぇぴぇと鳴く二匹を再び腕に抱き、白花を肩に乗せたまま環は立ち上がる。

「分かった。分かった。よし、ばぁちゃんの厚焼き玉子ホットサンドを食べよう」

 環の提案に、辺りは一層輝きを増した。




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