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お稲荷様、降る



「――あ……、やっぱり降ってきた」

 ヒタリ。と、鼻の頭に微かな水滴を感じて百瀬(ももせ)(たまき)は視線を上げた。

 ふんわりとした雲はあるものの、青い空に眩しい太陽。

「狐の嫁入りか」

 呟きながら、たった今まで手を合わせていた目の前の、それほど大きくはない社に笑いかけた。

 社は小さいながら、扉の前には一対の狛狐が守りを固めている。名物も名所もない田舎町の、古くからある稲荷神社だ。

「おまえに嫁が来たのかな」

 祖母の言い付けで、子供の頃からほぼ毎日通う親近感から、つい神様相手に「おまえ」と言ってしまった。

 その瞬間、ドゴガラァガァン!

 と、当たっていれば確実に昇天してしまっていただろう、激しい雷鳴が響く。

 あまりの轟音に、環は自身の鼓膜が無事なのを瞬時に願ったほどだ。

「ってぇ~」

 足元からの地響きと直接の爆音に全身を揺す振られ、ビリビリと電気が駆け巡り、感電しているのが分かる。

 思わず蹲ってしまったと、少し悔しくも照れくさい気持ちで立ち上がる。

 周囲がどう思っているかは別として、自身は普通の高校二年生だ。雷が怖い年頃は過ぎている。

 誰かに見られてはしないかと、チラリと伺い見ながら、自身の足元で微かな音を聞いた。

 音と言うよりは、鳴き声?

「キュッ、キュキュッ」

 僅かに聞こえてきた声は、賽銭箱の向こうから。

 心細そうな声につられ、環は「失礼しますよ~」と一応の断りを入れて、賽銭箱の横に立てられた小さな柵を越えた。

 そこには小さく蹲る小動物が三匹。

 子猫かと思ったが、耳が大きく鼻も長い。

 かと言って、子犬ほどの懐っこい愛嬌も醸し出されていない。いや、純白のふにふにと柔らかそうな一匹は確かに愛嬌はあるが、子犬のソレとは違うという感覚なのだ。

「なに、おまえ達」

 環は眉を顰めながら、純白ふにふにに寄り添う様に固まっている黒と白の小動物の首根っこを摘まみ上げ、その顔を覗き込む。

 やはり子犬の顔とも少し違う。

 そう。ココは小さくても稲荷神社。

「えぇ~……犬……であって欲しいなぁ」

 途端にジタジタと、短くカワイイそれぞれの四本の脚で空中を掻きながら、きゃんきゃんと腹立たし気な様子で環に何かを訴えた。

「分かった、分かった。連れ帰ってやるから、大人しくしてろ」

 その様子を、純白のふにふにはジッと見守っている。

「にしても、おまえ達カリカリだな。名前くらいモチモチしてろ。な? 白玉、タピオカ」

 環が笑った瞬間、とんでもなく激しい小動物パンチが両方から飛んできたが、大して痛くも無く、今度は純白のふにふにの前にしゃがみ込んだ。

「おまえもおいで」

 環はカリカリの“白玉”と“タピオカ”を左腕にまとめて抱えると、ふにふにに右手を差し出した。

「おまえは……マシュマ…ろ」

「ワシにまでオカシな名前を付けるんじゃなぁい!」

「ウッ」

 腕に乗ってくると見せかけ、脱兎のごとく駆け上がられ、環は頬に飛び蹴りを食らう。

 一瞬、何が起こったのか分からなかった。

 いや、正直に言うと、今も分からない。

 純白のふにふにが喋っている……人の言葉で。

白花(はくか)さまに無礼を働くな!」

白花(はくか)さま! 即刻離れてください! 穢れてしまいます!」

 白玉(仮)とタピオカ(仮)が烈火のごとく吠えている……人の言葉で。

「ワシは“白花”。この稲荷の(ぬし)である」

「えぇ~……オレにとっては夢である」

 見舞い代わりのお使いが、とんでもない大事になっていることに環は苦笑した。





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