第7話 生還と換金
粒子へと変化したアルマニージュが居た場所にボトリと小さな石が落ちた。
それと共に辺りに生えていた草が透き通るように薄くなり消えていく…
「聞いてはいたけどこれは凄いな…」
変化する景色は徐々に無機質な物となっていき、数秒後には塔の内部そのものとなった。
まるで仮想空間、それを知らないコータには魔物に化かされたような光景に唖然とする。
「おっといけないいけない…」
そう独り言を言いながら落ちていた石を拾う。
それは魔石と呼ばれる石である、この塔の中で様々なエネルギーと交換できるこれは学園で買い取って貰えるのだ。
この魔石の使い道は多岐に至り、人々が住む第4階層では電気の代わりとして役に立つ。
また他の階層でも資源や食物の成長を促したりとこの塔で生活を行う上で必要不可欠な物である。
「やった…俺、やれたんだ…」
まさにギリギリの勝利であったがコータは生き残ったのだ。
その実感を噛み締めながら視線を向けると…扉が在った…
床にである。
「はははっそりゃ分からないよな…」
いくら探し回っても見付からない筈だ、そう苦笑いを浮かべながら床の取っ手を掴んで引き上げた。
驚くことに扉の中と外で重力の方向が90度違っており、コータは落ちるのを警戒してゆっくりと足を通して驚く事になったのは言うまでもないだろう…
第10階層
水晶の上に手を置いた四人の姿が現れる。
その中にはユンとコータを殴った男の姿もある。
旅立った者達の帰りを今日だけは待っていたサバスが嬉しそうに声を掛ける。
「ををっ無事に11階層の魔物を倒せたのか?」
「えぇ…あの、コータはどk…」
「俺達ならヨユーすよ!」
ユンの言葉を遮るように男が声を被せる。
だが所々破れた服、破損した胸当て、それらが苦戦を強いられたのを示していた。
「四人で初めての戦いに勝って帰ってくるとは!」
ユンの言葉はサバスには届かなかった、いや聞こえては居たが聞き流したのだ。
コータが誰にもパーティーに加えてもらえず、単身で挑んでいったのはサバスも理解していた。
諦めて帰って来なかった事からそう判断したのだ。
「サバス殿、こちらが魔石です」
「うむ、確かに」
魔導師風の女性がサバスに魔物から出た魔石を手渡す。
クリアの証しでもあり報酬と引き換えられる物である。
「よし、これが報酬だ」
そう言ってサバスから四人にそれぞれ銅貨5枚が手渡される。
パーティーを組んだ者はその報酬を必ず均等に分配する、それが学園からのルールであり挑戦者の決まりであった。
役に全く立たなくてもパーティーに参加さえしていれば分配されるのでそれを目当てにする者も勿論居る。
だがそれも一つの生き方だと学園は認めていた。
結果的に魔物を倒して魔石を回収してさえいれば何も問題は無いのである。
「それじゃ今日は解散で良いよな?俺、新しい防具買ってくるわ」
そう口にして振り返った時であった。
水晶の前にコータが姿を現したのだ。
背中に腹に脇に穴が開いた服を着ているその姿を見て男が指を差して笑いだした。
「ははははっ!何だお前やられて逃げてきたのか?」
単身で戦いに出てボロボロの姿で帰ってきたのを見れば、誰もがそう考えてもおかしくない。
唯一ユンだけは生きて帰ってきてくれた事に安堵していた。
「コータか、分かっただろお前には無理だ。明日からは別の仕事を…」
「換金、お願いします」
そう告げてコータから手渡された魔石を見て驚きに目を疑うサバス。
それを見て男が声を粗げる!
「う、嘘だ!こいつが一人で魔物を倒せる訳ねぇー!なんかズルしたんだ!」
ズル…その言葉がコータの耳に響いた。
アルマニージュを倒した最後の一撃、明らかにおかしかったアレはズルだったのだと考えればコータの中で辻褄が合ったのだ。
「まさか…信じられん、だがズルでも何でも勝って帰ったのならお前の勝ちだ!胸を張れ!」
そう言って手渡される銅貨20枚。
後ろで色々とコータに侮辱的な言葉を投げ続けていた男であったが、その殆どはコータの耳には届かなかった。
(よし、明日実験してみよう!)
そう決めてコータは手にした金で装備を整えに向かうのであった。