第4話 第10階層の学園擬き
第10階層
部屋の中央に在る水晶の前に突如人が出現する。
漆黒のローブを身に纏ったその姿に気付いた者が頭を下げる。
「おはようございます、マーロ様」
「おはようサバス」
マーロの前に素早く現れて挨拶を行うのは銀髪の老執事である、名をサバス。
身長が180と非常に高い彼の額には3つ目の瞳が在った。
「どう?見込みのありそうな新人は居た?」
「…残念ながら」
今日は半年に一度、塔を攻略しようとする新人を旅立たせる日である。
第10階層は塔攻略の為に作られた学園のようなモノであった。
半年に一度募集された者を半年掛けて学ばせ育て上げ出発させる為に作られた階層であった。
様々なトレーニング器具が設置された建物、学校の教室の様な部屋が並ぶ建物、寝泊まりを目的とした建物と大きく分けて3つの建物が建っていた。
それらの統括を行うのが目の前の老執事サバスであった。
立場的には校長の様なものである。
「止めろ!」
一つの叫び声が上がり人の目が集まる。
そこに居たのは耳の長いエルフの少女の手を掴んで居る人間の男、そして額から黄色い角が生えた少年であった。
「はっ、お前みたいな役立たずよりも俺と組んだ方がこいつも長生き出来るってもんよ」
「お前には関係ないだろ!ユンを離せ!」
「コータ…」
彼等は今日卒業をした者達である。
塔を攻略する為にパーティーを自由に組むのだが、中にはこうやって無理矢理パーティーを組んだりする者も多い。
だがこれは悪いことではない、塔攻略には実力が全てである。
有力な能力を持ち者をパーティーに加えるのはその後の塔攻略に大きく影響を及ぼすのは間違いない。
「止めないと…」
「はっどうするってんだ?知ってるんだぜ、お前のスキル『ジャストアタック』が役立たずなスキルだってのはな!」
「ぐっ…」
その言葉を耳にしてマーロの瞳がピクリと反応する。
初めて耳にするスキル名に興味を引かれたのだ。
それに気付いたサバスが口を開く。
「彼はコータと言いまして、その得意とするスキルはジャストアタック、1~100までの任意のダメージを狙った通り与えるモノです」
「そう…」
その説明でマーロは一瞬にして興味を失った。
最初の魔物が守護する第11階層ですら魔物のHPは500を上回る。
特殊な条件下で攻撃力を何倍にも上げるスキルを組み合わせて戦わなければ、基本的に塔の魔物は倒すことが出来ない。
コータと言う青年が何故塔攻略を目指すのか分からないが、その程度のスキルしか所持していないのであれば第1階層の野生の獣を狩るくらいしか使い道が無いのだ。
「コータ!」
「ぐはははっ心配すんな、ユンのスキル『必中の加護』は俺達が有効活用してやるからよ」
殴り飛ばされて倒れたコータ、だがユンも名前を呼ぶだけで手を伸ばそうとはしなかった。
正直、今のコータでは第11階層ですら何の役にも立てないのを理解したのだ。
「ぐっ…くそっ…」
これもまた、ありふれた光景。
上を目指す者達にとって力こそ正義。
だから誰一人コータに手を差し伸べる者は居なかった。
彼のスキルでは塔攻略に何の役にも立たない。
それが全ての者の共通認識であったからである。