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97.それぞれの告白

「じゃあ出発しようか!」

パズの陽気な声が響くと、馬車がゆっくりと動き出した。

快晴の夏空だったが、僕らが向かう東の空には分厚い雲がかかっていた。

「また皆んなで旅行が出来るなんて楽しみだな!」

『パズが案内人ならこんな安心出来ることはないな。』

「クロってば!嬉しいこといってくれるじゃない!」

パズがいつも通り気を遣ってわざと陽気に振舞っている。クロとパズがにこやかに話している光景ももう見慣れたものだ。


あの日の翌日から実に様々な事が起こった。

まずは復帰してきたエレンにもたらされた知らせだ。

「私が総合戦闘部門に出る事になっちゃった。」

「「「「は?」」」」

熱も下がっていつも通り溌剌としたエレンが突然そんな事を言い出したものだから、僕らは一斉に驚きの声を上げる。

「さっきね、学長室に呼び出されたんだけど、もともと総合戦闘部門に参加予定だった騎士科の人が辞退したんだって。他に適当な人間も居ないし私はどうか?って聞かれたから喜んで、って答えちゃった!」

皆んな口をポカンと開けている。いや、もちろん僕もそうだし、なんならクロもそうだ。

「まあ魔法射撃だと敵なしだし、いっかな!って!」

『こいつ…、自分が魔力を暴走させたの忘れてないか…?』

明るいエレンにクロが呆れ果てていた。

「エレン殿!さすがです!ご活躍、楽しみにしています!」

唯一、瞳をキラキラと輝かせていたのは最早、僕らの輪の中に馴染んでしまったクリストファー殿下だ。

殿下に褒められてえへへとエレンが照れているのを僕らは呆然と見守る事しか出来なかった。




その翌日、僕らは五人はパズの屋敷に招待されていた。昨年同様に選抜試験と学園前期のお疲れ様会をパズが主催してくれたのだ。

僕とティア、そしてクロはそこで重大な話をする事を決めていた。


「…皆んな、聞いて欲しい事があるんだ。」

食後のお茶を飲みながら僕は口を開いた。いつも通り料理は絶品ばかりだった。

「なに?とうとうティアと交際し始めた?」

「ちょっとエレン!」

エレンのからかいにティアが顔を真っ赤にする。

「エレン、ごめん、ちょっと真剣に聞いて欲しい。」

「…どうしたのレオ?」

いつになく真剣な僕の表情にエレンが少し驚いた顔をする。アルが何かを勘付いたような視線を僕に送ってきた。

「僕とティア、それにクロから大事な話があるんだ。」

「え?クロ?」

パズの驚いた声。僕は一先ず頷いて、先を続けた。

「まず僕から…。僕は、実はエルフの血を引いている。」

たっぷりの間があって、エレンがぷっと吹き出した。

「なんの冗談?そもそもエルフって本当に存在…するの??」

最初は笑い顔だったエレンが、僕と、そしてアルの真剣な顔にだんだんと声色を変えていく。重々しく頷くアル。

「僕は四分の一だけエルフの血が混ざっている。アルにしか話してなかったんだ。今まで秘密にしててごめん。」

僕は頭を下げた。そして顔を上げるとパズ、エレンの驚いた顔。

「…でもエルフの血が流れてようとレオくんはレオくんだよ…。」

泣きそうな顔のティアがそう言ってくれた。境遇が似ているからだろうか…。

「…ありがとう。」

僕はティアをじっと見つめ返した。

「次は私かしら…。」

ティアは目尻を拭うとクロを見やる。

『いや、俺からがいいだろう。その方が話が進めやすい。』

「「!!」」

パズとエレンが驚きのあまり口をパクパクさせた。この様子だとクロの念話が届いたのだろう。

『やあ、こうして話すのは初めてだな、パズ、エレン。改めてクロだ。よろしく頼むよ。』

「猫が…喋った…。」

『その反応、久しぶりだな。』

パズの反応にクロがふふっと鼻で笑う。

『俺は実は百を軽く超える年齢でな。これくらいの芸当は朝飯前なんだ。』

「うっそ…最初、あんなに子猫だったじゃない…。」

エレンが唖然としている。何故が苦笑いのレオナード。使い魔の姿が主人の魔力に比例するとまだ信じているようだ。

『 さて、これでやっとティアの話に移れるのだが…。ティア、覚悟は?』

クロの言葉に深く頷くティア。

「…ひと月くらい前、私、お父さんに会ってきたの。ベルツで。」

「なんですって!?ベルツに住んでいるの!?」

エレンの驚きの声。無理もない。エレンの伯父さんにも当たる人になるのだから。

「ええと…、ベルツには住んでいないのだけど…。何というか、飛んできてもらったの…。」

ティアの説明にエレンの頭上に沢山のはてなマークが見えた。いや、実際に飛んできてもらったのだけど…。

「えっとね、信じられない話なんだけど…。私のお父さん、どうやらドラゴンらしいの…。」

完全なる沈黙とはこういう事を言うのだろう。初夏の風がさわさわと葉を鳴らす音だけが聞こえる…。


「…ごめん…。完全に僕の理解の範疇を超えてる…。」

恐らく一番常識人のパズがまず音を上げた。

「ええとね…。」

ティアがたどたどしくベルツでの出来事を話し出す。そこには僕の左手の話も含まれていた。


「…つまり、あの黒い盾はティアの父上のドラゴンから貰った力って事か…。信じられん。信じられんがあれを見たら納得せざるを得んな。」

「…私、その盾見てないのよね…。」

アルの言葉に微妙な表情をするエレン。

「そして、少し言い辛いんだけど…。」

僕はティアの話をそのまま引き継いだ。


「…私を連れてこい…か…。」

エレンが眉間に皺を寄せている。それをティアが心配そうに見つめていた。

「そうなんだ。ただの僕の夢かもしれないんだけど…。」

僕はあの時のクエレブレさんの言葉をそのままエレンに伝える。

「夢なはずが無いわよ。これだけ不思議な事が起こりまくってるんですもの!」

エレンが顔を上げる。その瞳には強い光が宿っていた。

「ちょっと待ってね…、ええと…レオがエルフの混血で、クロが百歳超えてて喋れて、ティアがドラゴンの血を引いてて、エレンの中に凄まじい力が眠ってるから、それをどうにかする為に夏休みに東に向かう。これで良いんだよね?」

「それだけ聞くともはやおとぎ話だな…。」

話を整理したパズにアルがしみじみとそう返した。

「…いいわよ…行ってやろうじゃないの!私は絶対に負けないんだから!」

エレンがぐっと拳を握る。だがその拳が震えている事は誰の目にも明らかだった。僕らは何も言えずに黙り込む。ティアだけが静かに立ち上がるとそっとエレンを背後から抱き締めた。

「…泣かないでティア…。あんただって大変じゃない…。大丈夫よ。私たちはいつも二人で頑張って来たじゃない!だから今回も絶対だいじ…ょ…う…。」

最後の方はエレンも言葉にならなかった。ティアがエレンを抱き締めたままコクコクと頷いている。

そうか…、マルコの話からするとエレンとティアは親戚の中でも特異な存在。二人だけ異分子扱いを受けて来たのだろう。

幼い女の子二人が手を取り合って必死に運命にあがなっている姿を想像すると、僕も目頭が熱くなる。

ぐすりと鼻をすする音がする。パズが貰い泣きしていた。

「…自分の生まれにぐちぐち悩んでいたのがこんなに馬鹿馬鹿しく思えたのは初めてだ…。よし!皆んなで行こう!東へ!ティアのご両親に会いに!」

「あんたはドラゴンに会ってみたいだけでしょ!」

鼻を赤くしたアルの熱弁にすかさず突っ込む、同じように鼻を赤くしたエレン。

「それもある!」

すばっと断言したアルに僕らは思わず笑い声を上げた。初夏の青空に僕ら五人の泣き笑いの声が響いていた。




それから五日後、僕らはこうして馬車に揺られている。

「イネスさんにも会えるといいね!」

『それは…帰り道にしてもらっていいか?』

車内では相変わらずパズとクロが楽しそうに会話している。はたからみるとパズが猫に話しかける怪しい人だが本人は全く気にしていない。

「ねえ、あんたも本当は喋れるの?」

膝の上のルビィに向かってエレンが話しかける。ルビィは嬉しそうに尻尾をパタパタと振っていた。

「あ…実は私、ルビィとアスールとも会話できるの…。すっかり言い忘れてたわ…。」

「…もう、何も驚かないわ…。」

ティアの告白にエレンが深いため息をついた。

『みんなの魔力がもう少し強くなればそのうち念話で話せるようになるだろう。この旅の間に俺が指南しよう。』

「よろしく頼む。」

何故かアルが深々と頭を下げた。それが可笑しくてまた笑いが起こる。


不思議な縁で繋がった僕ら五人と二匹と一羽は、遥か東に向けて走り出した。

そこに何が待つのか?今は誰にも分からない。だがきっと…、いや絶対大丈夫だ。


『お前たちは…本当に良い仲間だな。』


しみじみと呟くクロに向かって、僕は一つ大きく頷いた。




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