94.暴走
例年通り、選抜試験は魔法射撃部門から始まった。
注目はもちろんエレンだ。この二年間、圧倒的な強さを見せてきたエレンが今年はどう出るか?皆の期待はそこに集まっていた。しかしひとつだけ、問題が起きていたのだ。
「え!?エレン熱があるの!?」
僕の驚きの声に暗い顔で頷くティア。その膝の上でじっと動かず競技場を見守るルビィも気が気ではないようだ。
「先生にお願いして、別の日に個別に試験を設けてもらったら?って言ったんだけど、これくらい平気だ、って聞かなくて…。」
両手を胸の前でぎゅっと握りあわせるティアに何も言うことができずにいると、
『…ティアのせいじゃないさ。今、俺たちに出来るのは見守ることだけだ。』
クロが代わりにこう言ってくれた。僕に向けられた目は冷たい。
また後でヘタレオナードって怒られるな…。
僕は心の中でそっとため息をついた。
試験は順調に進んでいく。昨年の競技大会の予選と同じくエレンの出番は最後だ。
「確かに顔が赤い。それに気持ち息苦しそうだな。」
所定の位置に進み出たエレンを、アルが冷静に観察している。
「始まるね…。」
パズの呟きとともに的が宙を舞い出した。次々と撃ち落としていくエレン。
「…これ、大丈夫そうじゃない?」
パズの言葉通りあっと言う間に最高得点を叩き出すエレン。僕達がほっと胸を撫で下ろしていると…、
『…様子がおかしい…。魔力が…暴走しかけているぞ!!』
「「「えっ!!!」」」
ティアとアル、それに僕は驚きの声を上げる。パズだけが訳が分からずにきょとんとしていた。
《エレンフィールさん、試験終了です。エレンフィールさん??》
拡声魔法が響く。エレンが大地に膝をつき、自分自身を抱き締めるように両肩を抱いている。
お…お…お…お…お…
大気が震える音がした。
「エレンフィールさん!?」
異変を察知した係の先生がエレンに近づこうとしたその時、
ぶおん!!!!!
競技場に突風が吹き荒れた。先生は堪らず押し戻される。
「なに…あれ…。」
ティアの唖然とした声。僕を含め、その競技場にいる全員があっけにとられていた。
波打つように逆立つエレンの赤髪。その髪から紅蓮の炎が舞い上がり、鎌首をもたげた蛇のような形を作っていた。それが九つも。
「ああぁぁぁぁあ!!!」
エレンが唸りのような咆哮を上げる。
「エレン!!!!!!」
ティアの叫び声が響く。
ぶおっ…
と強い風が吹く。だが炎の蛇は消えず、逆に僕らの方へとその首を一斉に向ける。
「こ、これ…やばくない!?」
パズの焦る声。ティアは絶句している。
九つの首のうち一つが空へと大きく伸び上がると、僕ら目掛けて突っ込んできた。
「「「「!!!」」」」
僕らは声にならない声を上げる。
その時、僕の左の腕がかっと熱くなり独りでに持ち上がると手の平を空へ、炎の蛇へと向けた。その手は肘の辺りまで黒くなっている。
ずぅぅぅん…
次の瞬間、闇が凝縮した。
そうとしか表現のしようが無かった。その凝縮した闇が一つの形を取る。巨大な黒い盾だ。
ドン!!
凄まじい衝撃。そして続けざまに
ドン!! ドン!! ドドン!! ドドドドォン!!!
合計九つの衝撃、全ての炎の蛇が空中に生まれた黒い盾にぶつかり、そして消滅した。
ザザザ…
それと同時にまるで羽虫の大群が散るような音を立てて、黒い盾も消滅する。
体が熱くて、そして冷たかった。全身から汗が噴き出している。まるで高熱を出して寝込んでいる時のようだ。
そして僕の視界は暗転した。




