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93.新たな挑戦

久々の王都はすでに初夏の陽気だった。森に囲まれたベルツと違って風も弱く、石畳や建物から熱が伝わって来るようだ。

もともと北の辺境で生まれた僕にはなかなか厳しいものがある。額の汗を拭いながら目当ての店へと足を踏み入れた。

間口の開放された酒場兼食堂で、お昼を過ぎたこの時間はお茶を飲んで一休みする事もできる。

店の中は大繁盛だ。ほとんどの席が埋まっていてあちこちで話の花が咲いている。


「レオー!こっち!こっち!」

僕を見つけて大きく手を振る金髪碧眼の美男子はアル。円卓の隣にパズ、向かいにティアとエレンも座っている。

「お待たせ!遅くなってごめんね!パズちょっと痩せた?」

僕はアルの隣に腰掛けながら一つ向こうのパズに声をかける。

「もう、レオが居なくて大変なんだから!鍛錬に付き合わされる僕の身にもなってよ!」

「冬休みの時はまたやっても良いって言ってなかったか?」

パズの文句にすかさずアルが言い返す。痩せて良いじゃない。とエレン。その隣でいつものように静かに笑うティア。そんないつもの光景だ。

僕はその間に店員さんに冷たいナランハ(オレンジ)ジュースを注文する。見れば全員同じ物を飲んでいた。

「やっぱりレオもそれを注文するよな!」

ナランハジュースはアルの大好物だ。

「いやあ、坊ちゃん達のお陰でうちは大繁盛ですよ!これはほんのお礼です。」

僕にジュースを運んできた店の女将さんが薄い焼き菓子を皿に盛って置いて行ってくれた。

サクリとした歯ざわりと香ばしい香り。シンプルだがとても美味しく、冷たいジュースとよく合う。そう、ここのナランハジュースは氷入りなのだ。

去年の競技大会の後、僕ら五人とクロたち、ロメオ、イネスと王都を観光した時、色々あってこの店の人たちと仲良くなったのだ。

その結果、このお店で西方のナランハジュースを出す事になり、ロメオの提案で簡単な氷精製の魔法を僕が教える事になって、そして今に至る、というわけだ。

元々は大通りから一本入った所にある、ひっそりとしたお店だったが、今では王都でも話題のお店となっている。どうやらパズの実家、アクセルマン商会も色々と関わっているらしい。


「しかし、レオの日焼けっぷりも凄いな。」

「毎日農作業に追われてるからね。でもアルに言われたくないな。」

朝も昼の授業も毎日外で鍛錬に明け暮れるアルは僕と同じくらい真っ黒だ。いつもの調子で僕らは笑い合う。

「みんな相変わらずだね。何か変わった事は無いの?」

僕は冗談めかしてそう聞いてみた。すると微妙な空気が流れる。あれ…?僕なんかまずい事言った?

まさかティアがあのとんでもない体験の話をしたか?とちらりと様子を伺ったが、それもなさそうだ…。だとするといったい…。

「…赤髪の女が現れたのよ…。」

軽い苛立ちを見せながらエレンがそう言った。

「赤髪の女…。ブラッドー商会がらみ、ってこと?」

「まだそれは分からないわ。でも何か事件を起こしたみたいなの。軍部のお偉いさんがうちに聞き込みに来たわ。私も二、三、質問されたけど、関係無しと判断された。それからうちの両親と長いこと話して帰ってったわ…。」

強張った顔のエレン。隣のティアが心配そうにしている。

冬休みに引き続きこれではエレンは気が休まらないだろうな。

「ちなみにうちが調べられる範囲で、王都にブラッドーなんて商会は存在しないんだ。まぁ王都は広いし、スラムとか裏社会もあるから絶対無い、とは言い切れないけど…。」

これはもちろん大商会の息子、パズの言葉だ。そしてブラッドーは裏社会の存在だと暗に示しているようなもんだ。

「…まあ、俺たちも気をつけよう。今はそれしか言えないしな。レオも帰って来た事だし、今日はぱーっと飲もうぜ!」

アルが雰囲気を変えようと明るい声を出す。

「ぱーっとって…。」

「もちろんナランハジュースな!」

満面の笑顔のアルに僕は思わず苦笑いをした。法律上、僕らがお酒を飲めるようになるにはあと一年だ。

「レオはいつ向こうに戻るの?」

「選抜試験終わったら戻ろうかと思ってたんだけど、先生がそのまま夏休みに入っていいって。だから向こうに戻るのは夏休み後だね!」

パズの言葉に僕はそう答えた。エレンがニヤリと笑う。

「ティア、良かったね。」

「ちょ、ちょっとエレン!どういう意味よ!」

ティアが顔を赤らめる。

「だって向こうから戻って来て、ずっとそのペンダントを見つめてぼうっとしてるし。それ、レオからのプレゼントじゃないの?」

「「ち、違う…」」

僕とティアの声が重なる。

「「「じゃあ誰からの(よ)?!」」」

アル、エレン、パズの三人の声が重なって僕とティアは何も言えなくなった。というより言えるはずがない。ドラゴンの父親から貰った。なんて…。

「ほらぁ、黙るって事はやっぱりそうなんじゃない。んもう、恥ずかしがらなくてもいいのに!」

エレンが決めにかかる。僕とティアはしどろもどろになってはぐらかす他に何も出来なかった…。




「ところでレオ、今年はどの部門で申し込むんだ?」

皆んなと別れた後の寮への帰り道でアルがそう聞いて来た。

「え?去年と同じ、魔法戦闘部門の予定だけど?」

「俺と一緒に総合部門に出ないか?」

突然の誘いだった。

「レオなら基礎体力もあるし、近接も遠距離も対応できるからいけると思うんだけどな!」

ここぞとばかりに畳み掛けるアルに僕はうーん…と気の無い返事を返す。

「基礎体力があるといっても本職の騎士科の人を相手に立ち回るのは厳しくないかな?それに魔法科の生徒って実際あまり出てこないでしょ?」

そう、総合部門は学科の垣根を超えた部門なのだが、実際には魔法科の生徒の参加は少ない。そもそも魔法士が単独で戦うのに向いていないのが大きいのだ。

魔法は強力で便利だが、集中や詠唱を必要としたりする関係で、どうしても距離を詰められるとキツい。結果、騎士科との一対一の戦闘では勝率が著しく低い。

「今の状態だと総合部門は名前ばかりなんだよ。俺たち二人で覆さないか?俺も今は一応、魔法と名前がつく研究室の所属なわけだし。」

アルの言う通りではあるのだ。もともと競技大会には魔法射撃、剣術、総合の三部門しか無かったらしい。総合部門は今でいう無差別武術の位置付けだったそうだ。それではあまりに魔法科に不利が大きいという事で魔法戦闘と無差別武術が追加されたという経緯があると聞いている。だが形式的に総合部門は残したい。それで今の形に落ち着いた、ということらしい。

「まあ確かにアルの選択授業は魔法闘技学だけど…。」

「これからはどっちも出来る奴が強い時代が来ると思うんだ。俺は騎士科寄りでレオは魔法科寄りだけど。それに個人的にレオと公の場で戦ってみたいっていうのはある。」

そう言ってアルは真っ直ぐに僕を見つめてくる。

「これが公式にレオと戦える最初で最後のチャンスなんだ…。」

僕は黙ってそのアルのその碧い瞳をじっと見つめ返した。

「…挑戦する時は挑戦する、か…。」

しばらくしてポツリと呟いた僕にアルは不思議そうな顔をする。

「いいよ。総合部門、参加する。でも期待しないでね。」

「それでこそレオだ!」

アルの溌剌とした声が夕暮れの空に響いた。



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