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77.二手

「ロメオ!それにザインさんも!」

ルビィに続いて二人の人影が姿を現わす。

「レオ!それにみんな!無事か!?」

ロメオが駆け寄ってくるとがっしり僕の肩を掴んだ。いや、それはこっちのセリフなんだけど…。

「そこの猫が鍵も持って現れてな、無事に牢屋から出れたんだよ。なんだか付いて来いって素ぶりだったし、エレンの猫なのは知ってたから付いて来たらここに出たんだ。しかし本当に助かったぜ!」

隣ではエレンが半べそになりながらルビィを抱きしめている。

ああ、なんだかんだエレンも不安だったのか…。


ロメオが僕から離れて他のみんなと再会を喜んでいる間に、僕はクロへと向き直った。

『…俺は決して助けない、とは言ってないぞ?』

「本当に意地悪なやつ…。」

僕はそう小さく言いつつ、顔が綻ぶのを止められなかった。そう、クロはこういう奴なんだ。

『さて、全員怪我なく無事なのはいい事だが、問題はここからなんだ…。』

クロがそう言った時

「皆さん、本当に済まなかった。私の息子のしでかした事でこんなにご迷惑を掛けてしまって…。この通りだ。」

ザインさんが深々と頭を下げる。

「俺からもこの通りだ。」

ロメオがその隣に並んで同じく頭を下げた。

「いやいや!お二人とも頭を上げてください!」

アルが慌てて二人に声を掛ける。

「それに、恐らく本当に悪いのはお兄さんじゃないですよ。」

パズの言葉にザインさんもロメオも訝しげな表情で顔を上げた。パズが僕に目で合図を送ってくる。

「…ええ、恐らくお兄さん達は暗示か何かの魔法か…とにかく操られていた可能性が高いです。」

「確かに…信じてくれないかもしれないが兄貴は普段はもっと温厚で優しい人なんだ…。」

ロメオが肩を落とす。その肩にザインさんがそっと手を置いた。

「怪しいのはあいつか?香炉を持っていた男。」

腕組みをするアルに僕は頷く。

「ほぼ間違い無いと思う。恐らくあの煙や匂いが何かしらの媒体になっているはずだ。実はあの時、僕の魔法でザインさんとロメオまでは煙が届かないようにせき止めていたんです。」

チラリとクロを見たが訂正を入れてこないという事は間違い無い。

「なんと!君が私たちを守ってくれていたのか…。重ねて礼を言わせてくれ。」

また頭を下げようとするザインさんを僕は慌てて押し留める。目上の人に何度も頭を下げられるのは居心地が悪い。

「ところであの男はお知り合いですか?ザインさんやロメオを旦那と呼んでいた気がするのですが…。」

アルの問いに二人は首を傾げた。

「…言われてみれば…あいついつからこの街に居るんだ…。親父、どこの誰か分かるか?」

ザインさんが呆然とした顔で首を振る。

「儂もたったの今までその事に思い至らなかった。どうしてだ…。」

『恐らくそれも魔法か暗示だな。とすると相手はかなり腕の立つやつだぞ…。』

僕はクロの言葉をそのままみんなに伝える。

うーむと腕組みをして考え込むザインさん

「しかし、今は何としてもあいつらを止めなければ、この先とんでもないことになってしまう…。有益な情報を頂き感謝の至りだ。いずれ必ず礼をさせて頂くので皆さんはまずできるだけ早くこの街を離れて下さい。私はハバラに向かいます。」

「親父!俺も行く!」

「駄目だ!お前の役目は皆さんをきちんと無事に街の外まで送り届ける事だ!」

ロメオがぐっと声を詰まらせる。それでは!と短く挨拶をするとザインさんは踵を返して遠ざかって行く。

「…とにかく、俺たちもここを出よう。」

ロメオに先導されて、僕たちはザインさんの後を追った。パズが後に続き間にエレンとティア、それを前後から挟む形で僕とアルが続く。

「…レオ…どうするんだ?」

アルが小さな声で僕に問いかけてきた。僕はアルの目を見て頷き返すとクロに念話を送る。

『クロ…やっぱり僕は、いや僕たちはザインさんを、ロメオを手伝うよ。』

僕の前を歩いていたクロからため息のようなものが聞こえた。

『…全く、手のかかる生徒達だお前らは。ハウゼル氏に同情するよ。』

クロは振り返らずにそう言った。


ポルティージョの屋敷を出ると外は真っ暗で街にも活気が無く静まり返っていた。住人達は何か危険を察知して家に引き篭っているのだろう。そのおかげで僕たちは誰に見咎められる事なくアクセルマン商会の屋敷まで戻って来れた。

その道中、ロメオの馬車の中で僕はクロと念話でこれからの相談を行った。

そして…


「二手に別れる!?」

エレンが驚きの声を上げる。いや、僕も最初にクロにそう言われた時は驚いたさ。

「そうだ。僕とアル、それにティアは馬を飛ばして出来るだけ早くハバラの街に入る。ゲイルさん達よりも早く。」

「でもどうして?みんなで行動した方が安全じゃない?」

パズが問いかけてきた。その考え方は最もだ。だが…

「みんな忘れてないか?南方公の代理、息子さんの事を。もしかしたら、いやほぼ間違い無く、彼もブラッドー商会に操られている。」

全員がハッとした顔をする。いや、そうだよね。僕もクロからそう言われた時には驚いたよ…。

今、偉そうに喋っているのがなんだか申し訳なくなってくる。

「だが…俺は分かるがどうしてティアまで?」

アルの疑問も最もだ。普通に考えればティアは後続で安全に来た方が良いのだが…。

「南方公様を助ける為、でしょ?」

ティアのこの言葉に驚かされたのは僕の方だった。

「どうしてそれを…。」

「だって南方公様は恐らくご病気じゃない。それに似せられた遅効性の毒か何かを盛られて動けなくなっている可能性があるから。」

ちこうせい?と首を傾げるロメオにゆっくり効いてくる、って事よ。ティアが苦笑しながら付け足す。隣のエレンの顔が怖い…。

「だってこの中で医療魔法を専攻しているのは私だけよ。解毒魔法だって使えるんだからね!」

そういって力こぶを作って笑ってみせる。だがその手が震えている事は誰の目にも明らかだ。

「…ティア…。」

「だってエレン、南方公様を助け出して、その息子さんを説得して貰うしか、この事態を止める方法は無いじゃない?」

エレンが無言で立ち上がるとぎゅっとティアを抱き締めた。ティアがその背中に手を回して優しく叩く。まるで子供をあやすかのように。

「…あんた達、ティアに怪我させたらただじゃおかないからね!それこそ本当に火球の刑よ!」

エレンがティアから離れて、僕とアルに恐ろしい顔を向ける。

「もちろんだよ。絶対に、何があっても守ってみせる。」

僕の言葉にアルが深々と頷いた。

「…あ、あとパズ!」

僕は大切な事を忘れていた。パズが、ん?と僕の方を見る。

「アスールだけど、先にハバラで僕らを待ってるって。君の、いや、僕らの使い魔は本当に凄いよ!」

驚いて声も出ないパズに、僕は悪戯っぽく片目を閉じてみせた。机の下でクロとルビィがにゃあと一緒に声を出して鳴いた。





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