63.勝敗の行方
俺たちは息を飲んで勝負の行方を見守っていた。
今日、貴賓室にいる人数はいつもより少ない。エレン、アーノルド、そしてレオナードが居ないからだ。
先日同様に俺は王子殿の腕の中、ルビィが弟君の腕の中に収まっている。
人が少ない代わりにいつもは一歩引いた所から試合を眺めているガンドルフが、今日は皆と肩を並べて観戦している。
「弟の晴れ舞台を応援しない兄がいるか!さっさとこっちに来い!」
「いや、しかしですな…。」
というやり取りを経て、王子殿が無理やり前に引っ張り出した。
渋々のような顔をしていたが本音はやはり嬉しいのだろう。アーノルドか一本先取した時は小さく握りこぶしを作っていた。
だが今はその顔に緊張を湛えている。それはここにいる誰もが同じだった。
《最終勝負!両者構え…始め!》
合図がかかった。今度は二人同時に距離を詰めた。バルトロメオは銛を投げずに右手持ったままだ。アーノルドは剣を下手に構えて疾走する。
二人の初撃が交差する。アーノルドの下からの斬撃をバルトロメオは銛の腹で受けると、そのまま、アーノルドのこめかみ目掛けて銛を振るうが、アーノルドが頭を下げて避ける。
屈み込んだアーノルドは下から斜め上に向かって突きを放つがバルトロメオは反り返りつつ体を捻って躱す。
バルトロメオが左手で腰からナイフを抜きはなち、アーノルドへ振るうが体勢が悪い。アーノルドが上から抑え込む。その背中に右の手の銛が襲いかかるがアーノルドはナイフを押し込む勢いでそのまま前進し銛をやり過ごす。
今度はアーノルドが振り返りざまに横払い。バルトロメオは地面を蹴りギリギリで身を躱す。と二人は最初と位置を逆にして再び向かい合う。
一瞬遅れて歓声が鳴り響いた。
「…お前の弟、そしてあのポルティージョの息子、末恐ろしいな…。二人とも必ず押さえておけ。」
王子殿の呟きにガンドルフを含む近衛達が深く頷く。
一方、競技場では二人がじりじりと距離を測っていた。
バルトロメオは銛使いといえどリーチはさほどアーノルドと変わらない。投擲もこの距離では隙が出来て使えないだろう。だが近接になると左手のナイフも活きてくる。なるほど、変則的に見えてよく考えられた構成だ。
アーノルドは中段で両手に剣を構えている。去年、そして先ほど見せた豪剣はこの両手持ちの賜物だ。力技でいけば身長差のあるバルトロメオでも圧倒するだろう。さらに今年は返し技も見せつけてここまで上がってきている。相手にしたら嫌なことこの上ないだろうな。
会場を再び静寂が支配する。秋晴れだった空に雲一つ、そして太陽を隠したその瞬間、バルトロメオが動いた。
上段からの銛の短い投擲。アーノルドはこれをさっと後ろへ下がって躱す。黒紐による変則攻撃への警戒だろう。だが同時に反撃を加えられる距離でもない。
バルトロメオは着地と同時に大地を蹴ると左手のナイフをアーノルドの胴元目掛けて払いながら右手を引いて銛を手繰り寄せる。
アーノルドがナイフを剣の根元で受け、そのまま上から抑え込む。
恐ろしい圧力なのだろう、バルトロメオが顔をしかめて右手に引き戻した銛を崩れた体勢のまま突き出す。
だが牽制には充分だったようだ。アーノルドが軽く後退する。
圧力が減ったバルトロメオはそのままナイフと銛、二つでアーノルドの剣を押さえにかかる。いわゆる鍔迫り合いの状態だ。
上背はバルトロメオの方が高いが、アーノルドの方が先に上から押さえ込んでいた事と、それを容易には覆せない膂力のせいだろうギリギリとアーノルドが押していく。
たまらずバルトロメオは一気に後退し、距離をとった。
二度目の大歓声だ。
「…これ、次の試合の三年生、可哀想だな…。」
パズがパズらしい感想を述べる。確かに。と王子殿を含めた数人の声が重なり、室内が小さな笑いに溢れた。
試合は膠着していた。していたが今度は二人は円を描くように少しずつ移動している。何か変化が欲しいのだろう。
その円が二周する頃、次の変化が訪れた。唐突に、何の前触れもなくバルトロメオがアーノルドへと突き掛かった。
その銛を弾くアーノルド。弾かれた勢いでバルトロメオは体を反転させると左手のナイフをアーノルドへ振るう。器用に肘でその軌道を逸らすアーノルド。
そのまま反転してきたバルトロメオの銛がアーノルドの胴元目掛けて襲いかかる。まるで曲芸だ。
アーノルドが素早く一歩後退した。
「まずい!!」
大声を上げたのはガンドルフだ。彼は気づいていたのだろう。引き絞られた黒紐に。
バルトロメオの手から銛が、あたかも意思を持った蛇のように、勝手に飛び出しアーノルドの胴元へと伸びる。
その瞬間、アーノルドの後ろで土煙が上がった。
バルトロメオの銛とアーノルドの剣が交差する。
次の刹那、有効打を示す魔法の淡い光が灯った。




