58.縁と再会
「レオってちゃんと火球の魔法が使えたのね。」
意外だわ。といった顔でエレンが呟く。
「一年生の実技の時以来だもんね。僕もレオが火球撃ってるの久々見たよ。」
パズも同意を示した。
そう、現在、レオナードの試合の真っ只中だ。そしてレオナードはなんと、相手の攻撃を避けつつ、火球を撃って戦っている。
「しかし、あれはずるいわ。どんだけ体力馬鹿なのよ。」
エレンがため息をつく。隣でなぜかアーノルドが満足げな顔だ。
手数は相手の方が多く、レオナードの火球よりも一回り大きいが、当たらなければ意味がない。陣地内を走り回り、相手の火球を全て躱しながら、レオナードは確実に火球を当てていく。程なくして…
《試合終了!勝者、レオナード!》
相手の魔法障壁が割れる音が響き、拡声魔法による止めの合図がかかった。会場からはまばらな拍手。まぁ地味な試合だったから仕方ない。
一方でレオナードは軽く息が上がっているものの満足げだ。こちらに向かって手を振り、そしてもう一つ上の階へも手を振る仕草をしている。
「…ねぇアル、上の階ってもしかして…。」
「ああ、王族の貴賓室だ。」
パズの問いにアーノルドが答えた。
「今日からご観覧のようだ。兄貴が身辺警護に当たっているよ。」
なるほど、それでガンドルフが居なかったのか。
「そうそう、試合の後にレオと合流して、皆んなで上に来るように言付かっているから。」
「「「!!!」」」
あっさりと告げるアーノルドに言葉を失う三人。
「どうした?みんなは王太子殿下と旧知の仲だろう?」
意地悪に笑うアーノルド。僕お腹痛くなってきちゃった。というパズの腕を両側からエレンとティアががっしりと掴んだ。
その後も、イネス、レオナード、ともに同じ戦法で二回戦を突破し、無事に準決勝に進んだ。
「二人が当たるとすれば決勝か…。」
アーノルドが呟く。
「その前にレオは準決勝戦でマルコと当たるけどね。スカッとぶっ飛ばして欲しかったけどなぁ。あの選抜の時の振動魔法で。」
物騒な事を言うパズ。だが俺も気持ちは同じだ。
「…あ、そう言うことか!」
エレンが何かを思いついたように握った手で反対の手をポンと叩いた。訝しげな三人。
「どうしたの?エレン?」
ティアが心配そうに声をかける。」
「いやね、イネスがなんで合流会の時にあんなにレオナードに冷たく挑戦的だったのか、何となく分かった気がしたの。」
引き続き訝しげな顔のパズとティア。
「確かにイネス殿はレオをやたら睨んでいた気がするな…。」
とアーノルドは中空に目を向けて、その夜の事を思い出しているようだ。
「たぶんね、レオがゴーレムを壊したからよ!」
「「どうゆうこと?」」
ティアとパズの問いが重なる。それにエレンはくすりと小さく笑って続けた。
「イネスはきっとゴーレムに何か思い入れがあるんじゃないかな?試合の時もそんな雰囲気だったし。もちろん戦闘にも使うわけだけど…。そんなゴーレムを素手で倒す魔法士がいる、なんて噂を聞いたらどう思うかしら?」
三人はおお、と感嘆の声を上げる。
「エレンにしては鋭いじゃないか。」
「にしては、は余計よ!」
本当にこの男は一言多いな。
怒った、もちろんフリだろうが、エレンが火球を作り出す。それを見て慌てるアーノルド。その様子に笑い出すパズとティア。そんなこんなで賑やかに過ごしていると、部屋の扉が開かれた。
「やあみんな!」
扉から現れたのはレオナードだった。口々に労いの声をかけて迎え入れる。
「レオおめでとう!しかし正攻法だったわね!私が火球の強化法を教えてあげなくもないわよ!」
「あれはエレンにしか無理よ。」
「ティアったら!酷いわ!」
そう言って笑い合う一同。
『どうやら上手くやったようだな。』
俺はレオナードの足元にやって来て見上げながらそう言った。そんな俺を見て、レオナードが小さく頷く。
「さて、全員揃った所で行こうか!」
はつらつと声を上げるアーノルドにレオはきょとんとした顔でどこへ?と聞いた。
「もちろん!王太子殿下のもとへ!」
「ええっ!!」
飛び上がらんばかりに驚いたレオナードに一同は再び大笑いした。
「…うわ、緊張する…。」
手汗が酷いのか、レオナードが先程からずっとスボンで手を拭っている。それは他の皆も一緒らしく笑う者は一人も居なかった。
物々しい警備兵の数に圧倒されつつ、アーノルドが名前を告げるとすぐに通された。このあたりはさすが西方公ラングラン家か。
王家の貴賓室は扉自体は下の階の貴賓室と変わりばえしなかったが、扉を開けた後が凄かった。わざわざこの日の為に運び込んだのか、石床の上には赤い絨毯が敷かれ、豪華絢爛な椅子が二脚とそれぞれに小さなテーブル。空調魔法を使っているのか室内は適温に保たれていて快適だ。室内にはガンドルフも含めて数人の人影があった。近衛の騎士、魔法士だろう。
会場側を向いていた椅子から人が立ち上がる気配がする。最初にアーノルドが、続いて残りの4人が慌てて片膝を突いた。椅子を回って現れたのはフォルテウス。そして似たような顔立ちだが少し大人しそうな男子だ。年の頃はレオナードたちと同じが少し下くらいか?
「みんな、ご苦労様。そして立ち上がっておくれ。椅子の用意を頼む。」
周りに居たメイドや近侍たちがテキパキと動いて、王子殿たちが座っていた椅子が反転され、レオナード達用に椅子が用意された。その椅子も木製だが所々に透し彫りと宝石の装飾があしらわれた豪奢なものだ。
レオナードなんかは恐る恐る、といった感じで座っている。
「まずエレンフィール、試合が見れずにすまない。公務があってな。相当凄かったと噂に聞いているよ。準決勝、楽しみにしている。もちろん、決勝もな。」
暗に決勝まで上がるだろう?と仄めかしている。
「とんでもございません。ありがたきお言葉にございます。お楽しみ頂けるよう最善を尽くして参りますわ。」
いつもの雰囲気は何処へやら。エレンが恭しく頭を下げる。このあたりは流石に王都貴族の令嬢だ。
「そしてレオナード。素晴らしい試合だったよ。」
「と、とんでもありません!みすぼらしい魔法をお見せしてしまって…。」
「そんな事はないぞ。うちの近衛魔法士達も感心していたよ。あんなに動き回ってよく魔法を使えるものだ、と。普通は息が保たないそうだ。」
王子殿のこの言葉に壁際の魔法士達が頷く。
「あ、ありがとうございます…。」
レオナードは顔を真っ赤にして俯いた。
「兄様。いい加減、僕に皆様を紹介して下さいませんか?」
王子殿の隣の男子が痺れを切らしたようだ。
「これは…すまなかった。皆、これが私の弟のクリストファーだ。仲良くしてやってくれ。」
苦笑いしながら弟を紹介する王子殿。兄弟仲は良さそうだ。
それを機に一人一人が自己紹介をしていく。そして最後に、
「アーノルド・ラングランです。お久しぶりです殿下。」
「やはり君がアーノルドか…。久しいな。」
王子殿はアーノルドの顔を見て昔を懐かしんでいるようだ。そしてくつくつと笑い出す。
「で、殿下?」
アーノルドにしてみればわけが分からないのだろう。何がおかしいのかも見当がつかないらしい。
「まあ、覚えていないのも無理はない。なにせ君とクリスはまだ四つか五つの頃だ。」
今度は弟君がきょとんとした顔をした。
「私とそこに居る君の兄のガンドルフは歳が一緒でね。退屈な晩餐会の時などはこっそり抜け出して、王宮探検をしたり、外の話をよく聞かせて貰ってたのさ。」
そう言って悪戯っ子のような笑い顔を浮かべる王子殿。ガンドルフはバツが悪そうに頬をぽりぽりと掻いていた。そんな仕草がアーノルドそっくりだ。
「そんな私たちの後ろを、君たち二人が連れ立って一生懸命付いて来るのが可愛らしくてね。今でも良く思い出すよ。」
アーノルドと弟君は予想外の幼少期のエピソードに耳まで真っ赤にして俯いている。それを見た王子殿は声を出して朗らかに笑い出した。つられて従者や近衛たち、ガンドルフ、そしてレオナードたちも笑い出す。
まったく、縁とは本当に不思議なものだ。




