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57.大きな壁

競技大会も五日目。開会式を含む全十一日の日程の為、そろそろ折り返しである。今日は魔法戦闘部門、一、二回戦が行われる。つまり、やっとレオナードの出番だ。


「レオくん…本当に大丈夫かしら…。」

ティアが心配そうな顔だ。両手を組んでまるで祈っているように見える。

「大丈夫よ。本人がそう言っていたんだがら。」

そのティアの肩に手を置いて励ましの言葉をかけているのはエレンだ。


俺たちは昨日と同じ、西方公家の貴賓席に来ていた。昨日と違う事といえばガンドルフがおらずアーノルドが居る。ガンドルフは何やら用事があるらしい。もちろんレオナードとは競技場の入口で別れている。選抜試験の時もそうだったが使い魔は戦闘に参加出来ないため、俺はアーノルド達と共に観戦だ。


競技場ではすでに本日の一戦目が始まっていた。昨日と違う事といえば、競技場を二つに仕切るように、中央に薄い光の線が走っている。恐らく魔法の一種だろう。これを超えると失格というわけだ。


「次が例のイネスさんの試合だね。」

対戦表を見ていたパズが伝えてきた。

「さてさて、どんな闘いぶりなのだろうな。」

アルは俺を肩に乗せて立ち上がり、テラスへと歩いて行く。

会場は超満員だった。魔法戦闘はその派手さから競技大会の中では一二を争う人気らしい。先程から驚きにもにた歓声が会場のあちこちから上がっている。

「やっぱり魔法士の正装はマント(外套)姿なのか?」

「そんなんじゃないけど…。」

アーノルドの言葉に苦笑しながらエレンが答えた。

「今回、魔法の威力自体は魔法障壁が防いでくれるけど、余波として起こる風や熱、冷気なんかは防げなかったりするのよね。かといって鎧だと動き辛いじゃない?色々考慮するとマントが一番効率的なわけよ。」

なるほどなと頷くアーノルド。

そんなやりとりの間に次の試合の準備が始まった。


「ありゃなんだ?武器の携帯も許されるのか?」

アーノルドを含め、そこにいた全員が訝しげな顔をしている。

「例えば儀式用の剣や、媒体に使う杖なんかは禁止されていないわ。武器による攻撃は禁止されているからあれで直接攻撃する事はない、と思うけど…。」

「そもそもあれって武器なの?」

戸惑うエレンの言葉をパズが引き継ぐ。

「あの…私の記憶違いでなければ…、」

自信なさげにティアがこう言った。

「あれっていわゆる、()()()()ですよね…?」

みな、無言で頷く。

とてつもなくおおきなスプーンのような形状。角ばった先端を持ち、効率的に土が掘れるように足を乗せる部分が付いた金属製の頭と、長い木製の柄。頭と反対部分にはこれまた金属製の持ち手が付けられていて、とても運びやすそうだ。

「…凄い良い品だけど…たぶん喜ぶのは農家さんか坑夫さんだね…。」

パズが商人ならではの視点でそのシャベルを評価した。

その華奢に見える体に似合わず、イネスは厚めの革手袋と、これまた重労働などに使われそうな皮の作業着(ツナギ)を来て、目を炭鉱などで使われそうなゴーグルで覆っている。そしてそのシャベルを肩にかけると颯爽と競技場に現れた。

「ここは畑じゃねーぞー!!」「炭鉱に帰れー!!」

といった野次が飛び、観客席から失笑が漏れるが、イネスは対戦相手をじっと睨んでいる。

ちなみにその相手はごく一般的なマント姿の男子生徒だが、明らかにその目には嘲笑の色が見て取れる。


《両者構え…始め!》


合図がかかり、試合が開始された直後、イネスはシャベルを大きく構えると、そのまま地面に突き刺した。そしてそのまま足を乗せ、更にシャベルを地中深くに突き刺す。

またもや会場から野次が飛び、失笑が漏れる。相手の男子生徒はニヤニヤと笑いながら詠唱を始めた。

イネスがシャベルの持ち手の部分を掴み詠唱を始めた。その途端、シャベル前方の土がボコボコと音を立てて盛り上がり始める。

「あ、あれって…。」

エレンが驚愕に目を見開く。イネスの相手の男子生徒も詠唱を忘れあんぐりと口を開けている。

イネスの詠唱は続く。目を凝らして見ると、シャベルを通して地中に魔力が流れ込んで行くのが見える。土はどんどん大きく盛り上がり、最終的に大きな人の形を取った。

「ゴーレム!!」

アーノルドが大きく叫んだ。そのゴーレムの大きさは選抜試験で見たものより更に大きかった。二階建ての建物位はありそうだ。

今や会場中が静まり返っている。そんな中、イネスは愛おしそうにゴーレムの脚に触れると一転、相手の男子生徒を睨みつけ何事かを呟いた。恐らく呪文で命令を下したのだろう。


ズン、ズン、ズン

と低い地響きを立てて、ゴーレムが相手の男子生徒へ向かって行く。

「…あれって陣地を跨いでも良いのか?」

アーノルドの疑問に答えられる者はここには居なかったが、陣地の仕切りを跨いでも試合が中止されないことから、恐らくは大丈夫なのだろう。

相手の男子生徒は青い顔で後ずさりながら、必死に呪文を詠唱し、ゴーレムに向かって火球を飛ばすが、ゴーレムの方は全く意に介して居ないようだ。

とうとうゴーレムが男子生徒の目の前に迫った。男子生徒は腰を抜かして座り込んでいる。腕を振り上げるゴーレム。

『大丈夫か?あれ、死なないか?』

俺は思わずアーノルドにそう伝えた。アーノルドは青い顔で試合を見つめている。

その時、ゴーレムが動きを止めた。どうやら結界魔法に動きを押しとどめられているようだ。


《試合終了!勝者、イネス!》


拡声魔法が流れた。見ると男子生徒は完全に気を失っている。その後方には学校の先生方だろうか?ローブをまとった数人の男女が、杖をゴーレムに向けている。ゴーレムを押しとどめたのは彼らだろう。

イネスは一息つくと、よいしょっという風にシャベルを地面から引っこ抜いた。するとズブズブと音を立てて、ゴーレムが地面へと沈み込んでいく。

そしてイネスは気絶している相手に向かって礼儀正しく頭を下げた。一瞬の沈黙の後、会場が大歓声に包まれた。


「…凄いな。あんな強烈な召喚魔法は初めて見た。」

心底感心したという感じの声でアーノルドが言った。そこへ、

「違うわよ。あれは()()()()()よ。』

エレンがそう返す。さすがだ。やはり気づいていたか。

逆にアーノルドを含む三人は訳が分からないという顔だ。

「…そうなの?ゴーレムって召喚魔法に分類されるんじゃないの?」

「お恥ずかしながら私もそう思ってたわ。」

魔法科のパズとティアも混乱している。

「まぁ無理もないわよね。」

ふうとエレンが一つため息をついた。

「正確には、ゴーレムを作ること自体は、造形魔法と呼ばれる生産魔法の一種よ。そこに下級精霊なんかを呼び出して憑依させるのが召喚魔法なの。」

ここでエレンは言葉を切って三人を見回す。三人ともしっかり理解しているというように頷いている。

「彼女が、イネスが行ったのはまず造形魔法でゴーレムを作り出し、そして物体操作の魔法か何かでゴーレムを動かした。たぶんあのシャベルがその媒体ね。」

「まてまて、それだと召喚魔法と何が違うんだ?」

アーノルドの疑問ももっともだ。

「大違いよ。召喚魔法で作り出したゴーレムは多少の自我を持つわ。破壊されたり、契約が解除されたりとか、何らかのことが起きない限り、半永久的に活動ができると考えられている。門番とか迷宮にうろついるなんて言われるゴーレムはこっちね。」

なるほど、と頷く三人。

「対して彼女の魔法だと、あくまでゴーレムを操作しているのは彼女自身よ。あの魔法はそれこそ鉱山とか工事の現場でよく使われる魔法だわ。危険な仕事や重たい物の持ち運びなんか、人間だととても危険で難しいような仕事を、ゴーレムを使って行うわけ。難易度の高い召喚魔法を使う必要も無いしね。ただあんなに大きなゴーレムはそうそう作れないけど。」

「でもそのゴーレムを使った攻撃は物理攻撃にはならないのかしら?」

ティアが疑問をていした。

「そうねぇ…そこは私も疑問なんだけど…。でも火球だって魔力を炎に転換して打ち出すわけだから、大きな目で見たら物理なのよね。あのゴーレムも魔法で操作しているから魔法攻撃だという認識じゃないかしら?」

エレンもそこは自信無さげだ。

「何はともあれ、レオにとってはそれこそ大きな壁になりそうだな。」

そう言って自分ではっは、と笑い出すアーノルド。エレンはそんな彼を呆れたようにじとっとした横目で見つめ、そんな二人をパズとティアが苦笑して見ていた。


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