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54.燃える強敵

「え!?こいつが?!」

なぜかずっとそこに居たバルトロメオが驚きの声を上げる。そのバルトロメオに冷たい一瞥を向けた後、イネスは僕に向き直った。

「今回のルール変更の件、とても残念です。私は全力の貴方と戦ってみたかったわ。」

イネスの眼光は相変わらず鋭いままだが、口振りは本当に残念そうだ。

「え?なぜ…僕なんかと?」

「いやいや!あんたあちこちで噂になってるよ!ゴーレムを素手でぶっ壊す魔法士がいるって!今回のルール変更も明らかにあんたが原因だろ?」

イネスの代わりにバルトロメオが答えてくれた。口調がかなりぶっきらぼうになっているがこれが本来の彼なのだろう。

「…原因って…。」

イネスが呟いて再びバルトロメオを睨む。ついでにエレンとアルも険しい表情だ。

「おっと!これはすまねぇ…。悪い意味じゃないんだ。本当に申し訳ない。」

「いやいや!別に気にしてないです!」

彼は慌てて僕に頭を下げて謝罪する。口調はぶっきらぼうなのだが根は素直な良い人みたいだ。

本当か?そういって僕の顔色を見て彼は頭を上げてから続けた。

「本当にすまんな…。ただそんなの食らったら死んじまうかもしれねぇ、ってうちの魔法戦闘の代表が怯えてたらしくてよ。うちの学校からも渋々ルール変更の申し出をしたって話だぜ。いずれにしてもすげぇよな。ゴーレムを素手で、だぜ?」

バルトロメオは本当に感嘆しているようだ。今度教えてくれ、とせがんでくる。そんなバルトロメオを咳払い一つでイネスが黙らせた。

「とにかく、私も魔法戦闘部門に出場予定ですので戦えるのを楽しみにしています。棄権をしていない、ということは噂の魔法以外に何か隠し玉があるのでしょう?」

イネスは再び鋭い視線を浴びせてくる。

僕は直感的に感じ取った。恐らく、今回は彼女が最大の強敵になる、と…。

「…はい…、もちろん、今はお教えできませんが…簡単に負けるつもりはありません。」

僕は一息ついて、イネスを見つめ返すとこう答えた。

するとイネスが初めて笑顔を作る。だがそれは不敵な笑みだ。

「…お互い、最善を尽くしましょう。それでは。」

そう言ってイネスは踵を返すと、東校の生徒が集まっている方へと去って行った。

「おっかないネェちゃんだな…。おっと!これは大変失礼いたしました。それでは私もそろそろお暇いたします。皆さまのご武運をお祈りしています!」

そう言ってバルトロメオは軽く頭を下げると、くるりと振り返って意気揚々と元いた南校の集団へ戻って行く。

「…なかなか手強そうな奴らだな。」

アルがポツリと呟く。

「あんたら二人は大変そうね。私にもああいう燃える強敵、現れないかしら!」

エレンが冗談めかす。僕とアルは顔を見合わせて笑った。



大会ニ日目は二、三年生剣術部門の一、二回戦だ。

「まぁ、あれだね…アルの剣技を見た事があるせいか…あれだね…。」

一緒に観戦していたパズが言葉を濁すが言わんとしている事は分かる。

「アルが化け物なんだよ…。」

僕はパズにそう答えておいた。その当の本人、アルは今日は来ていない。何でも用事があるとかで朝から寮にも居なかった。


そして大会三日目は二、三年生魔法射撃部門、我らがエレンの出番だ。新人戦と同じく予選は制限時間内に幾つの的を落とせるか。ちなみにエレンの出番は一番最後。理由は開始してから()()()分かった。

《…え〜、制限時間内ですが、エレンフィール選手の撃ち落とし数が首位に達した為、これにて終了いたします。》

魔法による拡声放送がかかった。会場からは拍手喝采の嵐。本人は競技場の真ん中でにこやかに大きく手を振っている。もはやエレンの魔法射撃は秋の競技大会の一大イベントと化していた。

『いやはや…、規格外が度を越してきたな…。』

クロがポツリと呟いた。


そしていよいよ三日目は無差別武術部門。アルの出番だ。

寮の前で待っていたパズ、エレン、ティアと合流し、僕らは会場となる演習場へ向かった。気持ち、アルも緊張しているのか、言葉数が少ない。彼にしては珍しいのだが…。

その原因は会場となる演習場の前に待つ人物だった。その人物は僕らを見つけると片手を挙げる。するとそれに応えるようにアルが片手を挙げた。

「…アルそっくり。もしかして…。」

パズの呟きの通り、アルを大人にしたような精悍な青年。金髪をより短く刈り込み、身に纏う式典用の軽鎧は漆黒。所々に金の細工が施されている。

いかにも軍人、といった雰囲気。美男子だがその雰囲気に圧倒されたか、彼の周りだけぽっかり空間が空いている。


「良かった、間に合ったんだな。みんな、紹介するよ。僕の兄上だ。」

「皆さん、初めまして。アーノルドの兄、ガンドルフです。いつもお世話になっております。」

そういってガンドルフさんは頭を下げた。僕らもつられて頭を下げる。


「詳しい自己紹介の前に席に参りましょう。アル、お前は頑張れよ。全力を尽くせば何も言う事は無い。」

「分かったよ兄貴。みんなをよろしくな。じゃ、いってくるぜ!」

アルはそういって手を振りながら颯爽と駆け出した。

「人前では兄上と呼びなさい!まったく…。」

ガンドルフさんはやれやれと頭を振った。

「お恥ずかしい所をお見せしました。それでは参りましょう。」

気をとり直したように僕らを先導しようとするガンドルフさん。

「…あの、ガンドルフさん、どちらへ向かうのですか?」

僕は皆が思っているであろう言葉を口にした。

「おや?アーノルドから何も聞いてませんか?貴賓席ですよ。」

「「「「え?」」」」

パズ、エレン、ティア、僕の四人の声が見事に重なった。


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