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53.東西南北


あれからひと月があっという間に過ぎ去った。僕はアルと共にいつも通り、いや、いつも以上に気合の入った朝の鍛錬をこなしつつ、クロと共に新しいルールに則った魔法戦闘の鍛錬を行なった。

正直なところ、ひと月と少しで何ができるか不安だったのだが、


『大丈夫だ。この一年半、毎日毎日コツコツ積み上げたものがそう簡単に負けるわけがない。』


クロのこの言葉に励まされ、なんとか新しい魔法も新ルール対策も形になった。


そして迎えた秋の競技大会、正式名称、四大王立学園対抗競技大会、初日。


天気はまさに秋晴れ。雲一つない晴天が広がり、空は果てしなく青く、どこまでも高かった。


僕は学園から支給された、代表選手用の式典衣装を着て、開会式の列に並んでいる。


「うん!よく似合っている!」

アルはそう言ってくれたのだが、鏡に映る自分は馬子にも衣装にしか思えなかった。


総勢200名近い生徒が、学校ごとに異なる色の式典衣装を着て並んでいる姿は圧巻だ。

去年、観客席で見ていた自分が今その中に混ざっているとはとても信じられない。


ちなみにうち、つまり北校の象徴色は白と黄色。これは王都周辺に咲く黄色い花と、これまた王都周辺の山で採れる白い石に由来しているとされている。僕は見たことが無いのだが、王宮もこれになぞらえられて外観は白く、春になると庭園に儚い黄色の花が咲き乱れるらしい。


これと対照的なのは鮮やかな赤と緑の組み合わせの南校。これは特産のピパリカの赤い実、そして深い緑色に透き通る南国の海と赤い珊瑚礁から来ているという。パズ曰く、南の海はまさに常夏の楽園らしい。


比較的、明るく鮮やかな北校、南校と反対に東校と西校は暗色を基本にしている。


東校は濃い赤紫色に所々に銀糸の刺繍が施されている。これは名産の葡萄酒の色、そして山間に存在する鉱山から採れる各種金属の象徴だ。


西校は黒に金糸の刺繍。これは西の歴史に由来しているらしい。西の地には金の刺繍に象徴されるように金が採れる金鉱山が存在する。古来からそれを巡って争いが絶えず、野原は焼け、山々は木々の生えない荒野と化していたという。これを現在の王家の開祖が平定し、自らの弟、現在の西方公家の開祖に管理を任せたという逸話がある。よって西方の黒と金糸は、力と歴史の象徴と言われている。


午前中の開会式が終わり、午後はいったん休憩、これは遠方から来る他校の選手に配慮してのこと。

そして夕方からは関係者のみでの晩餐会、兼、交流会だ。

しかし交流会といってもいきなり見ず知らずの人間と打ち解けるのは難しい。特に明日の対戦相手かもしれないのだから…。

よってやはり学校ごとに集まり気味になる。僕も例にもれず同じ代表のアルとエレンと一緒に居るのだが…

(うぅ…。居心地悪い…。)

周りの視線が痛いのなんの…。この二人は去年の新人戦で圧倒的な勝利を飾っているため有名人だ。愛憎悲喜こもごもこもった視線を向けられている。

そんな二人の隣にいる僕は針のむしろに座らされているようなもんだ。

「…まったく、言いたいことあるなら話しかけてこればいいのに。ちらちら見てくるだけで面倒くさいわ。」

エレンは視線に気付いてイライラしている。

「そうか?俺は特に何も感じないが…。」

アルは平気な顔だ。鈍感…と呟くエレン。この辺りは育ちのせいなのかそれとも生まれ持ったアルの性質なのか…。


「アーノルド・ラングラン殿とお見受けするがいかに?」

そこに現れたのは背の高いアルより、更に頭一つ高い大柄な少年だった。着ている服から南校の生徒だと分かる。

南方の人らしく日に焼けた黒い肌、黒に近い茶髪を短く切り揃え、同じように黒に近い茶色の瞳。片頬を上げて笑っている顔は精悍だが、生徒というよりは海賊と言われた方がしっくりきそうだ。

「いかにも。それで貴公は?」

問われたアルが堂々と答え、そして問い返す。

「これは失礼。私はバルトロメオ・ポルティージョと申します。以後お見知り置きを。」

「槍の名家と名高いポルティージョ家の方ですか!」

慇懃にお辞儀をする男にアルが驚きの声を上げる。

「名家などとおこがましいです。ただの海賊稼業からの成り上がりですよ。」

顔を上げてそういう彼の言葉に僕はどきりとした。それに気づいたのか僕の顔を見てまたニヤリと笑う。

「とんでもない。南の海が平和なのは貴家のおかげだ。」

「ありがたいお言葉です。今回は無差別武術部門へのご参加とか?」

再びアルへと視線を戻した彼の言葉にアルが頷く。

「ということは貴公もかな?」

「ええ、昨年は剣術のみでしたからね。槍使いの私は今年からの参加になります。なにとぞお手柔らかにお願いします。」

「これは楽しみだ!こちらこそお手柔らかに頼む!」

そう言ってアルが手を差し出した。バルトロメオは一瞬戸惑いを見せたが、今度は両方の頬を上げて笑顔になるとその手をがっちりと握り返した。


前にパズに教えてもらったことなのだが、位の高い貴族はそう簡単に握手をしないらしい。手に塗られた毒などで暗殺の可能性があるからだとか、単なる気位の高さだとか、色々言われている。

なのでバルトロメオの言う通り、彼の家が元々海賊だったとするならば、西方公家のアルが握手を求めるというのは十分に驚きに値する行為なのだろう。


「失礼してもいいかしら?あなたがエレンフィール・ルメール殿かしら?」

アルとバルトロメオ、二人の握手が解かれたタイミングで今度は一人の少女が声をかけてきた。濃い赤紫の式服ということは東校の生徒だ。

漆黒の黒い髪を肩口で切り揃えて、同じように漆黒の瞳が式服とよく合っていた。三日月のような鋭い美貌だ。

「ええ。それであなたは…もしかして…。」

「イネス・ロロットと申します。過日は弟がお世話になりました。」

そう言いつつ丁寧に頭を下げる少女。ロロットといえば…

「イネス殿、お久しぶりです。東方公様はお元気ですか?」

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません、アーノルド殿。おかげさまで息災でございます。」

そう、ロロットといえば東方公家。ということはこの少女はアルに並ぶ大貴族だ。

「それで、エレンとは、どういうご関係で…?」

アルが僕の代わりに疑問を口にしてくれて助かった。とてもじゃないが自分では聞けない。もし無理なら後でエレンに聞こうと思っていたところだ。

「我が弟が誘拐されかけたところを助けて頂いたのでございます。本当に、本当にお世話になりました。」

そう言ってもう一度深々と頭を下げるイネス。

訝しげな僕とアルに苦笑い気味のエレン。

「ええとね、ほら、夏休みの一件、覚えてるでしょ?」

「ああ、あのエレン達が旅の途中で盗賊に襲われたっていうあれ?」

「そう、実は()()()()()()()()()()()()()が正解で、その襲われていたのが東方公家の方々だったのよ…。」

「「ええ!!」」

僕とアルの驚きの声が重なる。

「いやね…公にするとあまりに大事になりかねないから、他言無用って言われてたのよね。」

はしたなく頭をぽりぽりと掻きつつ、あはは、と軽く笑うエレン。いや、あはは、じゃないよ…。

「パズ殿とティア殿は?」

「あの二人は代表ではなくて…、でも一緒に試合を観て回る予定ですのでどこかでご紹介いたしますわ。」

「よろしくお願いします。さて…」

今日三回目のお辞儀を終え、顔を上げたイネスは僕に目を向ける。

その瞳は鋭く、刺すような、探るような視線だ。

僕は何もやましい事がないのにびくりとしてしまった。

「アーノルド殿、エレンフィール殿と一緒にいらっしゃる、ということは貴方が噂のレオナード・ブランシュ殿ですね?」

「!?…は、はい…僕がレオナード・ブランシュですが…何か…?」

僕はこの鋭い眼光の美少女に名前を呼ばれる覚えはまったくないのだけれど…。

心拍が上昇するのはきっと、見つめられているせい…だけではないはずだ…。





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