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52.ルール、改正

クロの講義の夜から十日ほどして北の実家から手紙が届いた。誰に見られても構わないように当たり障りの無い内容だったが、

『村も森もいつも通りで「みんな」元気です。心配しないで下さい。か…。』

僕とクロにはこの一言で十分だった。


問題はその手紙と共に、僕の所に届けられた一つのぶ厚い封書だった。


《四大王立学園対抗競技大会 概要》


封書の表紙には大きくそう印字されていた。昨年は寮の先輩が手にしていたのをちらっと垣間見ただけ。あの時はまさか自分がこれを手にする日が来るとは思いもしなかったのに…。

クロと二人でパラパラとめくって自分が出場する魔法戦闘部門の項目を読み進める。

『…ふむ、やはりそうきたか…。』

そこにはクロがあらかじめ予想していた事が書かれていたが、当の本人の僕としてはやっぱり大きなため息が出た。




「ちょっと!あれどういうことよ!完全にレオに対する嫌がらせじゃない!!」

翌日の昼食時、合流するなり、エレンは真っ赤な髪よりもさらに顔を真っ赤に染めて怒り出した。

「まぁまぁ落ち着いて。ほら、二人がびっくりしてるよ。」

僕はエレンを宥めて座らせる。

先に合流していたパズとティアは訳が分からず唖然としている。

「…ぷは!それで、なんであんた落ち着いてられるのよ!自分が出る競技でしょうが!」

席に座り、僕が手渡したコップに入った水を一気に飲み干して、それでもエレンの怒りは収まらなかった。

「…ねぇ、競技大会の件で何かあったの?」

さすがにここまで来るとパズにも察しがつくらしい、ティアと共に心配そうに僕らを見つめてくる。

「ええっとね、それが…。」

僕が訳を話そうとパズに視線を向けた時、その向こうから歩いて来る集団が見えた。ニヤニヤと笑いながら先頭を歩いているのはもちろん、マルコだ。


「…あいつの仕業ね…。」

マルコを見た瞬間に唸るエレン。パズとティアがしどろもどろだが僕は案外落ち着いていた。

今回の件はある程度予想していたし、昨夜の時点でエレンのこの反応も予想済みだ。

まぁ、クロが、予想していたのだけれども…

「…エレン、落ち着いて。全然予想の範囲内だがら。下手に喧嘩しちゃ駄目だよ。もし出場停止になったらフォルテウス様に合わせる顔が無い。」

マルコが近づく前に僕はエレンに耳打ちする。

「…レオ、あんた…。」

僕のこの言葉に少し驚いた顔をするエレン。

こう言っておけばエレンも無理はするまい。とクロが助言してくれた…。

「よぉ、レオナード。元気か?」

その言葉の効果あってか、マルコが声を掛けてきてもエレンは睨み返すだけ、口は引き結んでいた。

「残念だったなぁ、ルールが改正になっちゃって。」

「え?どういう事?」

これに驚いたのは事情を知らないパズとティアだ。

「そっか、お前ら黒髪二人は代表じゃ無いからまだ知らないか。今年から魔法戦闘部門のルールが改正になったんだよ。」

ニヤニヤと笑うマルコ。パズとティアは顔を青くしている。僕は何も言わずただ苦笑いを返した。

「あれじゃお得意の接近戦もできないしな。いやあ、お前と鬼ごっこできなくて本当に残念だよ。成金と尼さんは知らないのか?まあ詳しい事はこいつらに聞きなよ。じゃあな。」

そう言ってマルコはヒラヒラと手を振りながら去って行った。

その背中が遠くなると、僕はふうとため息をついた。

「…なんで何も言い返さなかったのよ。」

エレンは不完全燃焼気味だ。だが当の本人、要は僕が冷静だからか、少し落ち着きを取り戻している。

「まぁ、正式に変更になったルールに今更ケチ付けても仕方ないよ。それにマルコが関わっているという確証がない訳だし。」

「それはそうだけど…。」

「大丈夫。選抜試験で目立ってしまった時点で必ず何か対策されると思ってたから。そもそも本線は別の戦法で行くつもりだったし。」

もちろんこれが出来るのはクロという優秀な参謀兼師匠が僕にはいるからである。

ある意味でこれは反則かもしれないが、これも僕の力の一部だし、結局最後に努力しなければいけないのは僕自身だから構わない。と今は思える。

「ねえねえ、結局どうルール改正されたの?僕らを置いてきぼりにしないでよ。」

パスが情け無い声をだす。ティアはずっと青い顔のまま両手の指先で口元を押さえている。

「えっと、変更した点が…」




『陣地制ね…。まぁ大方予想通りか。』


改正になったルールはこうだ。

競技場を二分割し、それを互いの陣地とする。自陣地の中での移動は自由。自陣地の外へ出た場合は失格となる。


『しかも取ってつけたような改正理由だな。』


改正理由。

魔法の射程距離、効果範囲、威力など厳正な魔法精度と練度を図るため。


()()()…ね…。』


クロが皮肉をたっぷりと込めて呟く。

彼の理論によれば一番()()()()()()魔法が攻撃魔法だ。しかも僕ら人間の使う攻撃魔法は、色々な意味で効率が悪いという話だ。


『ま、あれだけ選抜試験で大騒ぎしてるんだ。他校も情報を掴んでるだろうからな。どう騒いでもこのルール()()は覆らないだろうさ。』

まだまだクロの嫌味は止まらないらしい。僕は苦笑いを返す他なかった。




「…てな感じでルール改正になったよ。」

僕はパズとティアにかいつまんで説明をする。

「それってレオに不利な、どころじゃないよね?試験で使ったあの方法がまったく使えないって事でしょう?」

パズが大きなため息をつく。

「でも魔法を避けるのには足が必要だからね。当たらなければ大丈夫さ。」

「そういう問題じゃないわよ。」

続いてエレンも大きなため息をつく。

「でも…レオくんが落ち着いているって事は、きっと何か考えがあるんでしょ?」

僕は不安げな顔のティアにゆっくりと頷いた。

「もし、本当の戦いになったらどんな状況に置かれるかなんて選べないだろ?それに、ほら僕らはまだ生徒で、あくまで競技会だ。出来ることを一生懸命やってみるだけさ。ま、これは半分アルの受け売りだけどね。」

そう言って僕は照れ隠しに笑っておいた。

「…大丈夫。私はレオくんが勝つって信じてる。」

ティアの言葉にエレンとパズも頷いた。

「ありがとう!もちろん僕も簡単に負けるつもりはないさ!」

そう言って僕も三人に大きく頷き返した。


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