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49.クロの講義①

「まったく…レオは次から次へと面白い事に巻き込まれていくな…。」

僕の目の前では金髪碧眼、ついでによく日に焼けた美男子がため息をつきつつお茶をすすっている。

名前をアーノルド・ラングラン。この王国の貴族社会で頂点の一つ、西方公の三男にして僕の親友だ。

場所は寮の食堂。夕食の時間をとっくに過ぎたこの時間は食堂にいる人間もまばらだ。

「それを言わないでよ…。僕だって好きで巻き込まれたわけじゃないんだから。」


僕とアルはお互いの合宿での出来事を報告し合っていた。

「騎士科の合宿はいつも通りだったよ。地獄の山中行軍、野営訓練、模擬戦。まぁ夏休みの師匠のしごきよりは随分と楽に感じたけどな。」

アルのいう師匠とは僕の父親、ベルナードの事だ。

「しかし…フォルテウス様がねぇ。」

「アルはフォルテウス様を知っているの?」

「ん〜…王宮の晩餐会か何かでご挨拶をした程度だな。それも親父や兄貴達の後ろにくっついてただけだしな。退屈だしさっさと終わらないかな、位しか考えてなかったや!」

あははと明るく笑うアルに僕は引きつった笑いを返した。やっぱりこの辺はアルも大貴族の一員なんだよな。僕なんか緊張しっぱなしだったのに…。


「それはそうと、レオ、例の調査兵団が戻ってきたらしいぞ。」

「本当!?」

僕たちは一度周りを見渡して声をひそめた。

「やはりクロの言っていた通り、特に収穫は無し。元の魔王城周辺には魔物一匹見当たらなかったらしい。」

クロが顔を上げて、小さく鼻を鳴らした。

『あのベルナードとエトワールが動いていたのだ。何か見つかる方が不思議さ。』

アルはクロに向かって頷く。アルはクロと意思疎通が取れる数少ない人間の一人だ。というよりクロが信用しているかどうかのような気がするが…。

ちなみにエトワールとは僕の母親のことだ。

「家の方は大丈夫だったのかな…。」

「だと思う…。いくらなんでも疑わしいってだけで地方領主を罰したりはできないさ。そんなことをしたら地方領主の離反の種になってしまう。」

僕の不安を慮ってか、アルが慰めをくれる。だがやはり確信にはいたってないのか、その言葉は少し歯切れが悪い。

『安心しろ。大丈夫だ。ミラも無事に森に帰った。そろそろベルナードとエトワールも家に戻る時期だろうさ。』

そこにやけに自信満々にクロが教えてくれた。

「…クロ、どうしてそれを知っているの?」

僕は怪訝な顔でクロをじっと見つめる。

『魔物の…というより俺の独自の情報網が有るからな。それくらい分かるさ。』

「…なんで教えてくれなかったのさ?」

『聞かれなかったからな。』

怒る僕からクロはプイッと目を逸らした。はたから見たらただの猫の気まぐれな行動だが意地悪が過ぎる。

僕がじっと睨みをきかせていると、クロがこちらをちらりと見た。

『…まぁ、冗談だよ。今の情報を俺が受け取ったのも実はついさっきでな。』

「ついさっき?」

基本的にクロは僕と行動を共にするが、授業中や夜中など、ふらりといなくなる事はしょっちゅうだ。

『そう、ここに来る前だ。ミラから知らせがあったんだよ。知らせを受け取った方法は…、悪いが教えられない。』

怪訝な顔の僕にクロが答える。

『ミラのやつはああ見えてなかなか優秀な諜報員なんだ。情報の伝達はお手の物なんだよ。』

「…確かに。野営地の警備を掻い潜ってあそこまで忍び込めるくらいだからなぁ…。」

アルの言葉に、一理あるなと僕も思う。

『ミラと渡りがついた事で、何人か昔の仲間と連絡がつくようになった。これで心配しなくても北の情報は手に入るぞ。』

「それは、嬉しいけど…。」

クロの話を聞いて、嬉しい反面、不安が頭をもたげる。そんな僕の様子にクロとアルが不思議そうな顔をしている。

「どうしたレオ?」

「いや…、昔の仲間って要は…その…魔王軍の人たちって事でしょ?また戦争とか起こるのかな…って…。」

僕は注意深く周りを観察し、誰も聞いていない事を確かめてなお、声も落として問いかけた。

『あぁ、心配するな。そんなやつらじゃないさ。確かにもと魔王軍の連中といやそうだが、別に戦争を起こしたいって奴は一人もいない。一年前の戦だってあいつら勇者どもが勝手に因縁ふっかけて攻めて来ただけだからな。いい迷惑だよまったく。』

クロの口ぶりに僕とアルは目をぱちくりさせる。

『俺らは静かに暮らせてりゃそれで良かったんだけどな。前も言ったが俺は戦争とかめんどくさい事嫌いなんだよ。』

そこでクロが大きなため息をついた。

「…なんか、知れば知るほど魔物の世界も色々だな。でも、それじゃあ何で魔王軍なんか作ったんだ?」

アルがクロに投げた質問は僕もちょうど考えていた事だ。

クロは呆れたという表情、だと思う…をしている。

『じゃあ反対に聞くが、お前ら人間は何で軍隊なんか作るんだ?』

「ええっと、防衛とか後は治安の維持とか…ああ、そういうことか。」

そういうことさ、と言わんばかりに頷くクロ。

「…魔物の世界の治安維持…。」

そこで僕は、ふとある一つの仮説を思いついた。

「…ねぇ、魔王軍って罪人とか悪い事をした魔物達を取り締まってたって事だよね?」

『だからそういう事だと…。』

「いや、そうじゃなくて。」

僕は思わずクロの言葉を遮ってしまった。アルとクロかきょとんとした顔をしている。

「ごめん。ええとね…つまり、悪い魔物を取り締まる魔王軍が居なくなってしまった事で、今の魔物の被害増加を招いているんじゃないかな…って…。」

アルがあっけに取られた顔をしている。クロは金色のその目を細めた。

『…レオナードにしてはなかなか鋭いじゃないか。』

念話の声に面白がっている響きが混ざる。もしかして笑ってる?

「確かにその考え方もあるのか…。でも魔王軍って北の山の麓に居たんじゃないの?魔物被害は各地で起こってるぞ?」

アルが顎に指を当てて考え込む。

『ふむ。アーノルドの考えも至極もっともだな。せっかくだからもう少し色々考えてみろ。魔物だから、と考えるのが落とし穴だ。さっきみたいに人間なら、自分たちならどうするか、そうすればまた色んな答えが見えるんじゃないか?』

そこで僕はアルと同じように顎に指を当てて考え込んだ。思考が渦を巻いていく。

もし、人間ならどうする?どうする?どうする…?

「「…ああっ!!」」

ややあって僕とアルの声が重なった。つい声が大きくなってしまい、慌てて周りを見渡したが、いつの間にか食堂にいるのは僕たちだけになっていた。

「レオからどうぞ。」

「いやいや、アルからでいいよ。僕、自信ないし…。」

「またそういう事言う!でも…俺もそんなに自信ないんだよな。」

結局、二人でじゃんけんをする事になった。クロが呆れてため息をつきつつ頭を小さく振っている。

そして、じゃんけんの結果、勝った僕から話し始めることになった。なんでこう言う時だけ勝てるのかなぁ…。


「ええと、それじゃあ僕が考えたのは…」




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