4.繋がりの始まり
「クロは小さいのに強いなぁ…。」
机に頬杖を突いてふうとため息をつく。目の前の小さな黒猫は綺麗な黄金色の瞳でじっとこちらを見返してくる。ぱた。ぱた。と揺れる尻尾が実に愛らしい。まだ出会って一日足らずだというのにこの小さな相棒が愛しくて仕方なかった。初歩中の初歩とはいえ、クロが召喚に応えてくれた事は、僕にとっては初めての大きな成功体験だったのだ。
だがなかなか気分が晴れてこないのは確実に昼間のひと騒動のせいだ。
「マルコは嫌な奴だけど、魔法は俺より全然上手いんだよな。侯爵家の人間だし当たり前か…。」
そう、マルコは王都にも屋敷を持つ大貴族の長男だ。僕みたいな学生寮暮らしの地方小貴族の息子とは訳が違う。王族と血の繋がりもあるらしく、その特徴的なブロンドと碧眼をいつも自慢している。大きな貴族になればお抱えの魔法士も沢山いるだろうし、彼らを使って自分たちの子女に魔法教育を施すのもごく一般的な話だ。
領地を継げない地方小貴族の次男、三男などは高等学校を卒業した後に国軍に入るか大貴族に仕えるかがほとんどだ。泣く泣く自国に戻って畑を耕す者もいるが…。
マルコの家は同じ学年の中でも頭一つ抜き出て格が高い。要は有力な卒業後の就職先候補なのだ。そこの跡取り息子に媚びは売れど、反感を買おうとする生徒は、教師も含めて、ほとんど居ない。
「だからってちょっと横柄がすぎるよなぁ…。」
クロが小さく頷いてくれた気がして少し気がまぎれる。
「入学してすぐの頃な、マルコが女の子にちょっかいを出し、喧嘩になりかけている所に口を挟んだ事があるんだ。」
理解しているかどうかは怪しいが構わずそのまま話かけ続けた。
「マルコたちは今日みたいに三人で、相手は女の子一人。あまりに多勢に無勢だろ?」
ゆらゆら揺れていたクロの尻尾がピタっと止まる。あぁ、やっぱり話を聞いてくれているんだと確信する。
「喧嘩は今日みたいにハウゼル先生が止めてくれたけど…。あれ以来、マルコたちが事あるごとに難癖つけてくるんだよなぁ。あの時はマルコが侯爵家の跡取りなんて知らなかったし…。 」
クロがにゃあと一声鳴いた。するとその額から小さな光の糸がスッと伸びて僕の額に吸い込まれる。
一瞬の出来事に僕は動くことすら出来なかった。そして
『お前はそれで良いのか?』
突然頭の中で声が響いた。
「な、な、な、何!?誰!?」
あまりの急な出来事に理解が追いつかない。
『ここにいるのは俺とお前だけだぞ?』
目の前のクロが可愛らしく小さく首を傾げている。だが頭の中で響く強めの口調とその愛らしい動作が全く一致しなかった。
「ま、ま、ま、まさかっ!クロ!?」
『だから俺以外居ないと言っている。」
「!!猫が喋った!!」
驚きのあまり仰け反り過ぎて、僕は椅子もろとも後ろに大きく倒れてしまった。