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47.思いがけぬ招待

「ねぇ、あの噂聞いた?」


僕らは夕食を終えて一息ついていたところだ。献立は昨夜と変わり映えしなかったが味が良いので僕はまったく気にならなかったし、僕の周りにもこんな事でとやかく言う人は居なかった。


そんな時に言葉を発したのはパズだった。

「ここにいらっしゃってる高貴な方って、どうやら王太子様らしいよ。」

「「!?」」

僕は驚いて腰を浮かせそうになる。ティアはお茶をむせさせて、エレンに背中をさすられていた。

「なんで…それ、知ってるの…?」

僕とティアは他言無用と言い渡されている。もちろん、誰にも話してないし、ティアが誰かに話すはずもない。

「ああ、あいつよ、あいつ。」

エレンはそういってだいぶ離れた席に陣取るマルコを目線で示す。いつもよりも人に囲まれている気がする。その顔はなんだが得意げだ。

「朝早くに王都のあいつ(マルコ)の家から使者が来たらしいのよ、急ぎで。それで蓋を開けてみれば王太子様がここで療養中だからお見舞いの品を届けなさい、という事付だったらしいの。」

エレンが忌々しそうにしている。

「それで、昼休みにお会いしに行ったらしいよ。体調が優れない、とかでほんの挨拶程度だったらしいけど。それからもう、王太子様とお会いしたって得意げなのなんの。」

エレンの言葉をパズが受け継いだ。

僕とティアは顔を見合わせる。朝お会いした王太子様は、現れた時は確かに車椅子だったものの、なんだが気分が良くなって体調も良くなった気がする、とおっしゃって帰りはご自身で歩いていらっしゃったからだ。

あの後、またお加減を崩されたのだろうか…?


「…何よあんた達、顔見合わせちゃって…。朝食の時も二人して居なかったし…。何か隠し事してない?」

エレンが疑いの目でじーっと僕らを見てくる。

「本当だよ〜。白状しな〜。」

こちらはパズ。これはエレンに合わせているだけだ。

「えぇと、実はなんだけど…。」

僕は意を決して、二人に朝の出来事を話し始めた。




離れ、といってもかなり立派な建物だった。合宿所よりも作りが新しいな、と思っていたら、

「私がこの地に来るようになって建てたものだからね。あの城よりは随分と新しいよ。爺がここを管理してくれているのさ。」

と、僕の心を読んだように王太子様が教えて下さった。

もう一つ驚いた事は、ダラス先生が昔、王宮付きの薬師をしていた事。それで生まれつき病弱だった王太子様とは幼い頃からのお付き合いだという事だ。今は先生のお弟子さんが王宮に詰めているらしいが、お加減が悪くなるとダラス先生を慕ってここへ養生にいらっしゃるらしい。

僕はここで一つの疑問が解けた。どうしてダラス先生がいつも執事服を着ているのか、という事だ。先生はきっと、植物園とともに、この王太子様の別荘ともいうべき離れの執事を兼ねていたのだ。

そんな事を考えながらダラス先生を見ると、心を読んだように、にっこりと笑顔を返された。


通されたのは離れのテラス。天井がガラスで覆われていて雨でも寛げる作りだった。

庭はそのまま植物園へと繋がっていて、雨に濡れた草花が逆に生き生きと、鮮やかに咲いていた。

この季節に咲く黄色い背の高い花が、まるで太陽の代わりのように空を向いている。

「王家の食事といっても皆さんが合宿所で食べてるものとそう変わらないのだけどね。」

確かにテーブルに並んだのは沢山の野菜が入った温かいスープ。ポモドーロ(トマト)のソースがかかったこちらも野菜入りのフリッタータ(オムレツ)。ただしパンは僕らの食べている物よりも柔らかくしっとりしていた。


「パンがとても美味しかったです。」

食後に感想を聞かれ、僕がそう答えると、王太子様が嬉しそうに笑った。

「実はあのパンは爺の手作りなんだ。特別な製法らしくてね。絶対に教えてくれない。実はあれを食べるためにここに来ていて、半分は仮病なのさ。」

ダラス先生はそれを聞きながら食後の紅茶を注いでいた。嬉しそうな顔に少しだけ、悲しみの影が見て取れたのは僕の気のせいだろうか…。

「この紅茶も!とても良い香りです!」

ティアが紅茶の香りをかいで、うっとりとした表情をしている。確かに鼻からスッキリと抜ける香りがする。

「これも爺特製のハーブティーだよ。スッキリとした香りなのに飲んだ後に体がしばらく温かいんだ。」

そう言って王太子様は本当に美味しそうにお茶を飲まれた。


「ところで、レオナード君は本当に攻撃魔法系統の授業を一つも取って居ないのかい。」

食事の最中は学校生活全般の事を良く聞かれたが今度は完全に僕に向けての質問だった。

「はい。ぼく…私の、主な、専攻は生活応用魔法で、す…。」

僕で構わないよ。と苦笑する王太子様に、あっ、はい。と返事をするのが精一杯な僕を見て、ダラス先生が助け舟を出してくれた。

「ハウゼル殿の話によると振動魔法を強化したものを攻撃に転用しているとか。ゴーレムを一撃で粉砕するほどの破壊力らしいですな。」

「ほう!それは凄い!」

王太子様の驚きに僕はただただ顔を赤くして俯くしかなかった。

「しかしどうしてまた生活応用魔法を専攻に?それほどの才があれば攻撃魔法でも十分に通用するはずでは?」

「ええと…、わた…僕は北の辺境貴族の次男でして、やはり村の、領民の暮らしが少しでも豊かになる勉強がしたいと…思いまして…。」

(こんな事、いずれ国を治める人の前で言うセリフじゃないよな…。)

僕は顔を真っ赤にして俯いた。

「…レオナード君、顔を上げなさい。」

王太子様が静かに声をかけてくる。僕は恐る恐る顔を上げた。

「君のような主君を持てて、北の民は幸せだと思う。そして君のような臣民がいることは私の誇りだ。どうか、その志、忘れずにいて欲しい。」

「…陛下…。」

真剣だが、優しく穏やかな表情。国を治める人相とはこうも人を惹きつけてはなさいものなのかと…。僕は目を離せずにそう思った。

「…あと、さきにも言ったが陛下はやめてくれ。私の名前はフォルテウスだ。」

そこで王太子様…フォルテウス様が真剣な表情を崩して苦笑した。

「ところで、君たち二人にお願いがあるのだが…。」




「…え?私とパズも一緒に!?」

「なんでそうなるの?!」

エレンとパズ、二人の大声に周りが何事かと一瞬静かになる。僕は手ぶりで二人に静かに、落ち着くように、と示した。

しばらくして周りは興味を失ったようにまた騒めきを取り戻す。逆に僕らは声をひそめた。

「…で、どうして私たち二人まで朝食にお呼ばれする事になったのよ…?」

エレンの顔は当惑に溢れている。

「実は…私のせいなの…。」

ティアがおずおずと名乗りを上げる。

「他に面白い生徒は居ないかって陛下に聞かれて…それで…エレンとパズ君の名前を…。」

言いづらそうなティアに代わって僕が経過を話す。

「…陛下は、その…夏休みの旅の話が聞きたいらしいんだ…。

「「あの話したのっ!?」」

またもや二人の大声に周りが静かになる。僕らは周りのざわめきが戻るまでじっと押し黙った。

「…ごめん…なさい…。」

そう声を搾り出したティアは、顔を真っ赤にし、目尻には涙が溜まっている。

「…しょうがないわね。行ってあげるわ!だから泣かないで、ティア。」

エレンがティアの背中を優しくさすっている。

「あっしはエレンの姉御についてくでやんすよ。」

パズがそう戯けると、エレンが恐ろしい形相で睨んできた。それを見てティアが涙を拭いながら笑っている。

これで無事に(?)僕ら四人は揃って王太子、フォルテウス様との朝食に臨む事になった。


…ちなみに僕はいつもよりも早起きして、朝の鍛錬を終わらせてから、という条件付きで…。



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