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44.郷愁

僕たちは村を、森を、そして山々を見渡せる丘まで来ると一度立ち止まって振り返った。

北国の夏は短い。山々が頂く雪はその範囲を下へ下へと広げつつある。やがてその冬の女神の裾は、この地の全てを白く包み込むだろう。

森の深い緑はオスクーロ(暗闇)の名前の通り、まだまだ鬱蒼と茂っているが、手前の村を囲む畑は黄金色に輝き、その上を風が渡っていく。


「…本当に…本当に美しい場所だな…。」

感慨深げにアルがそう呟いた。

「なあレオ、一年前に俺が旅に出ようって言ったの覚えてるか?」

「もちろん。」

「俺、旅が出来て良かったと思う。いや、ここに連れてきてくれてありがとう。」

僕は小さく頷いた。

「来年も頼むぜ?あいつらのせいで出来なかったことがたくさんあるんだから。」

そう言って憎らしげに平原の端を睨んでいる。そこにはいくつもの天幕が建ち並んでいた。そう、調査兵団の野営地だ。


あの夜からほどなくして、聖騎士セミラミスを含む一行が魔王城を目指して出発した。クロの言っていた通り、川に沿って進軍して行った。

そして何事もなく、間も無く帰ってくるらしい。クロがどこかから得てきた情報だが、この有能な黒猫の言うことだ、まず間違いないだろう。


「くそ…もう少しあいつらが早く居なくなってくれればなぁ…。」

「しょうがないさ。また来年の夏な!」

僕たちは新学期が始まる関係で王都にある学園へと戻らなければならない。父さん、母さんと最後まで会えなかったり、家に匿っているミラさんの事など、気がかりな事はまだまだあるけれど、あの人達の事だ、きっと大丈夫だ。


「大丈夫!ミラお姉ちゃんがいるから寂しくないよ!でも、クロは置いてって!置いてってったら!」


これは出発前のステラのセリフだ。次の日、家に帰ってきたステラはあっという間にミラに懐いた。怖がる事など一切無かった。子供の適応力は恐ろしいものがある…。

ちなみにクロはちゃんと僕の隣にいる。彼に居なくなられたら僕だって困るのだ。


「やっぱり冬は無理なのか?」

「何回も言ってるけど冬は無理だってば。雪が積もってそれどころじゃないの!村から出れないし、森に入るなんてとんでもない!自殺行為だよ。」

僕は大きなため息をついた。アルもなかなかしつこい。

「冬は別の場所にしようよ。個人的には西方にも行ってみたいけどな。」

「それは構わないが…。」

西方に行くということはアルにとっては里帰りだ。気が進まないのも分かる。

「父さんと母さんが昔住んでたっていうのも気になるしね。西方公様にもお会いしてみたいんだ。」

と僕が言うと、アルは急に顎に手を当てて考え込み始めた。

「…なぁレオ、俺の親父、昔ここに来た事があるって言ってたよな…。大猪を獲ったって。」

「そういえば、父さんがそんな事話してたね。」

「…師匠とエトさん、お前の親父さんとお袋さんって昔、親父の部下だったんだよな?」

「そう言ってたね?…どうしたの??」

アルの様子が変だ?僕は不審に思って顔をのぞき込む。

「…もしかしてあの狸親父、全部知ってやがったな…!」

『なんだ、今更気づいたのか?』

そこへクロが意地悪な突っ込みを挟んできた。

『お前に広い世界を見せてやって欲しい。とベルナードとエトワールに頼みの知らせが来ていたらしいぞ。』

アルが頭を搔きむしり変な声を上げている。クロは面白そうにニヤニヤしている、ように感じる。

僕は未だに展開が掴めずにオロオロしていた。


やがて落ち着いたアルが、事の顛末を話してくれた。

「…え?じゃあ西方公様、アルのお父さんは僕がエルフの血を引いているってご存知だってこと?」

「恐らく。下手したら森の住人たちの事も知ってるんじゃないかな。」

「ええぇ…。さすがというかなんというか…。」

これには僕も驚いた。見た事もない西方公という人物に畏敬の念を抱く。

「だがさすがの親父もクロの事は予想してなかったはずだ!絶対いつかぎゃふんと言わせてやる!」

鼻息を荒げるアル。僕とクロは顔を見合わせて苦笑いを交わした。


王都まではまた十日ほどの道のりがあるが、きっと退屈はしないだろう。


(また、来年の夏に。)


僕は最後にもう一度故郷を振り返った。一足早い秋の風が、僕らの背中を優しく押して歩みをうながす。

一歩先を歩いていたクロが振り返り


みゃあ


と鳴いた。





二年生の選抜試験〜夏休み編まで終了です。もっとサラッと書くつもりが一年生編と同じくらいの分量になっちゃいました。戦闘シーン、魔法はやはり描写が難しい…。

新キャラクター、ベルナード、エトワール、オッツォ、ステラ、ミランダ、そして聖騎士セミラミス(あとは村のお婆ちゃんくらいかな?笑)登場人物が増えると書き分け大変ですね…。まぁ場面が限定されるキャラクター達なので暫くは登場シーンは無いかな?あくまで予定ですが…。

色々と詰め込み過ぎたのでレオ、アル、クロにはいったん学園に戻って貰うことにしました。三年生の夏休みもありますし…。パズ、エレン、ティアの東方への旅はいつか機会があれば番外編、スピンオフで。構想はあるのだけど時間が…。

次回からは合宿、そして秋の競技大会編です!いよいよレオが活躍!するんでしょうか??笑

どうぞこれからも『シャ・ノワールのプレリュード 〜猫になった魔王様〜』をよろしくお願いします。かしこ。

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