37.適材、適所
「う〜〜〜…消えた…難しいなぁ。」
そう言ってアーノルドは手の甲で汗を拭う。裸足で椅子に腰掛けているだけなのに汗だくになっている。
「そろそろ一休みしようか。」
レオナードが一声かけた。アーノルドはそうだな。と短く答えて、嘆息する。
「しかし、凄いもんだなレオ。さすが魔法科というかなんというか…。」
アーノルドの隣にはレオが同じように裸足で椅子に腰掛けていたがその両足裏と両手の指の隙間から煌々と光が漏れていた。
「そうだね。これまでアルに負けたら魔法科の名前が泣いちゃうよ。」
「それもそうか。しかしこんなに体力を使うとは…。お腹ぺこぺこだよ。」
確かに。とレオナードが返したちょうどその時、階下からエトワールが呼ぶ声がする。夕食の準備が出来たようだ。
二人はキラリと目を輝かせるといそいそと靴を履いて部屋を飛び出した。もちろん俺も便乗している。
レオナードの実家に来て更に二週間ほどが過ぎた。二人は朝の鍛錬の後、村人たちの農作業を手伝ったり、家畜の世話を手伝ったり、ベルナードに付いて森に狩に出かけたり。まるで一般の村人のような日々を過ごしているが、特にアーノルドは楽しそうだ。何もかもが新鮮な体験らしい。
「実家じゃまず味わえない体験だよ!卒業したら田舎暮らしもいいなあ。」
と言ってレオナードの顔を痙攣らせている。
「アルがもし農民になるとか言い出したら、僕、西方公様に殺されちゃうよ…。」
とボヤいていた。俺なんかは自分がどう生きようとそいつの自由だと思ったりするのだが…。
そんなこんなで一日中一緒に居るわけだから当然、輝光石を使った夜の鍛錬もアーノルドの知るところとなる。
「なんでこんな面白そうなこと秘密にしてたんだよ!」
「いや、別に隠すつもりは毛頭なかったけど…。」
憤るアーノルドに焦るレオナードが言う通り、俺たちに隠すつもりは毛頭無かった。そもそもこれは魔法の鍛錬だし。
「俺もやる!」
しかし俄然アーノルドはやる気だった。しかし適材適所という言葉がある通り、アーノルドの魔力量は魔法を扱うには少な過ぎる。そこで…
「…アルがこの鍛錬するなら足裏から始めた方が良いよ。武術の初動は踏み込みから始まる事が多いでしょ?え?僕も?」
『バカ!聞き返すな!お前も一緒にやるんだよ。良い機会だし鍛錬の追加だ。』
「そ、そう!僕も一緒にやるから!そろそろ鍛錬追加しようと思ってたし!」
レオナードを通した俺の誘導で、アーノルドには足裏から始めさせる事にする。恐らくそれがアーノルドにとって一番効率の良い魔力の使い方になるはずだ。
レオナードの不審な態度を気に留めることもなく、おーし!やるぞ!と意気込むレオナード。
こいつが鍛錬バカで良かった。
さっそくその日からアーノルドを混じえての、魔力操作の鍛錬が始まった。レオナードはあっと言う前に両手両足の輝光石を光らせる事が出来るようになった。俺からしたらまだまだ初歩中の初歩なのだが…。まぁ鍛錬の中でアーノルドに優る数少ない項目の一つなので何も言わずしばらく放っておこう。一方のアーノルドは大苦戦だ。これはそもそも魔力量が少ないから致し方ない。
一度エトワールが鍛錬の様子を見に来た事がある。一瞬驚いた表情を見せ、俺と目が合ってニッコリと笑うと、頑張って!と一言告げて去っていった。
ちなみにベルナードは朝の鍛錬の監督官だ。はっきりいって俺より容赦が無い。言葉数は少ないがそれが更に圧力を伴っている。剣捌きなど見事なものだ。こればかりは俺が教えてやる事が出来なかったのでとても助かっている。ちなみにこれは、あの夜に、俺が頼んだ事だ。
「…委細承知した。」
ベルナードは表情を引き締めると一言そう言った。
ちなみにレオナードは、まだあの秘密を、アーノルドに、そして俺に告げていない。
無理もない。エルフの血を引いている以上に、もっと大きな秘密がこの村にはあるのだから…。
機会を伺っているのが見えるが、あえて俺は知らないフリをしているし、ベルナードとエトワールからもそうお願いされている。
「あなたがあの子の、レオのお尻を叩くのは簡単だと思うわ。でも、それではあの子のためにならない。あの子に必要なのはきっと、色々な事に、特に自分に立ち向かう勇気なのよ…。」
そう言うエトワールに頷く事で賛同を返した。
ちなみに、その時の俺はベルナードの腕の中で頭を撫でられていた。どうやら随分この夫婦に気に入られたらしい。
そして『その時』が、意外な形で差し迫っている事に、その夜の俺たちは誰も気づいて居なかった。
現状報告なのですが、実は85話目、時間軸で行くと二年生の冬休みまで物語を書き終えております。ストックし過ぎてしまったので、しばらく二話同時更新して行きます。よろしくお願いします。




