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34.初夏の風

翌日、登校すると凄い騒ぎになっていた。先ずは祝辞、おめでとう!の嵐だ。

「いやぁ、あの時のマルコの顔!見ものだったよ!」

マルコをよく思って居ない人間は少なからず魔法科に存在した。その誰もが賛辞を送ってくる。僕としてはあの後の食堂の一件があるのでなんとも言えず微妙な気分だ。

食堂の一件といえば騒ぎの原因がもう一つ。そうティアの歌だ。天使の歌声が舞い降りた。なんていう美辞麗句が踊っている。

「…どうして私はあんな大胆な事を…。」

あの後、ティアは頭を抱えて、机の下に隠れんばかりになっていた。

『まぁ、あれが彼女の本質というわけだ。』

自室に帰ったあと、クロはこう言っていたがどういう意味なんだろう…?




「さてと、みんなもうお腹はいっぱい?」

パズが明るい声を出す。場所はアクセルマン邸の庭。つまりパズの家だ。

選抜試験から数日経った安息日、改めて祝勝会を!というパズの好意で、僕ら五人は招待を受けパズの家に遊びに来ている。今は食事を終え、のんびりとお茶を飲んでいるところだ。

良く手入れの行き届いた芝生と品良く刈り込まれた生垣。用意されていた円卓と椅子も飾り気は殆ど無いが、透明な塗装の施された木目調の美しい円卓だった。

「ねぇ、どうしてあなたの家の家具は、こう、派手さは全然ないのに、なんていうの?洗練されてる?とにかく品が良くて困るわ…。」

何が困るのかは良くわからないが、エレンが木目の表面を覆う滑らかな塗装をつつつと指でなぞっている。

「両親が好きでね。このテーブルとイスはね、シンプルモダンっていうらしいよ。確か東方で仕入れてきたものだよ。」

「…しんぷる?」「…もだん?」

エレンとティアが首を傾げている。パズは大商人の息子らしく、様々な国に行ったことがあり、色んな諸外国の情報を知っている。そのせいか時々、耳慣れない言葉を口にしたりする。

「そう。シンプルは簡素とか、過剰な装飾や付け足しがない状態のことだね。モダンは今風って訳すのかな?昔ながらの華美な物から離れて機能的で使いやすい設計の物が多いよ。例えばこのテーブルの塗装、水にも熱にも強いから掃除が凄い簡単だし丈夫なのに軽いんだ。この大きさなのに女性二人でも持てるくらいだよ。」

「へぇー!!」

僕らは素直に感心する。クロはなぜか机に鼻を近づけてクンクンと嗅いでいる。

「いいわね。大きくなったらこんな家具を揃えたいわ。うちの屋敷は派手過ぎて…目が疲れちゃう…。」

一番派手な色の髪をしているのに。とは口が裂けても言えない。よろしくご贔屓に!とパズはなかなかしたたかだ。

「家具もだけど料理も初めての物が多かったな。いや、もちろん全て美味しかったよ。」

アルが満足そうにお腹をさすっている。

「僕はあの不思議な香辛料が沢山のった魚介料理!あれが美味しかったな!海の魚が王都で食べられるなんて凄いよね!」

「あ!私もあれ好きです!」

僕のお気に入りは色とりどりの野菜と魚や貝、海老なんかを煮込んだ料理だ。王都より更に北にある実家では海産物なんて食べたことが無かったし、王都でも珍しい部類に入る。どうやらティアもお気に入りのようだ。

「私、実は結構魚が苦手だったんです。なんというか生臭いというか…。でもあの赤い実がとてもスッキリとした香りと味で!お魚にとっても合ってました!」

「あぁ、ピパリカの実だね!胡椒の親戚みたいなもんで、南から仕入れたスパイスだよ!美味しいよねー!」

それは小さな赤い実だった。噛むと爽やかな香味が鼻に抜けていき、海産物の生臭さなどを綺麗さっぱり洗い流してくれる。

「俺はやっぱりあの煮込んだトロトロの柔らかい肉だな。あれは美味かった!」

「ああ、あれは牛のスジ肉の煮込みだね!アキレス腱の事だよ。」

「牛のアキレス腱!?」

アルが目を白黒させて驚いている。僕は新年の宴にお呼ばれした時に頂いた事があったのだが、確かに最初は驚いた。

「煮込むのに凄い時間がかかるんだけどね。あれは東北のワイン、葡萄酒作りが盛んな地域の伝統料理だね。牛のアキレス腱とその周りの肉をワインで煮込んだ料理さ。作るの三日くらいかかるんだ。」

「そ、そんなに…?しかし、凄い料理ばかりだな。」

「うちの母親が好きなんだ、料理。今日のレシピを集めたのもほぼそうだね。」

「母君に感謝だな。」

アルが神妙な顔をする。いいっていいって。とパズはパタパタ手を振っていた。

「ところで、みんなは夏休みどうする予定?」

パズが話を変えてきた。

「俺とレオは、レオの実家のある北の辺境に旅する予定だ。」

「逆に冬になると厳しいからね。」

これは兼ねてからアルと計画していた事だ。

「いいわね!私も行こうかしら!」

「乗合馬車か徒歩の旅だぞ?必然、野営も多くなる。」

「…遠慮しとくわ…。」

エレンが速攻で手の平を返した。

「そっか、ならエレンとティアは東への旅はどうだい?父さんの仕入れに付いてく予定なんだ。」

「え?いいの?」

「私も…?いんですか?」

目をキラキラと輝かせる二人にもっちろん!とにこやかに答えるパズ。

「父さんは結界魔法の名手だから道中の安全は保証するよ!」

俺とアルは顔を見合わせる。たぶんその保証は要らない。とお互い思っているのは明白だ。

「…何よ?あんた達のその目は…?」

エレンがギロっと睨んできた。

「「な、何でもないよ!」」

僕ら二人の声が被る。それにティアがクスクスと笑いだす。つられて他のみんなも笑い出した。

麗らかな初夏の風が吹き抜けていった。



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