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33.祝勝会

会場中が沈黙している中、土煙が晴れていく。一番青い顔をしているのはレオナード本人だった。

「あ…わ…せ、先生、ごめんなさい!ゴーレム、壊しちゃいました!」

慌てて先生を振り返るレオナード。驚いた顔をしていた先生が途端に破顔し、ほっほっほっ、と笑い出した。

「気にしないでよいよい。あれは所詮、土と岩の混合物。いくつ壊れた所で支障はないわい。」

その一言を機に場内が音を取り戻していく。

「…なによあの魔法…。威力だけみたら私の魔法よりはるかに上じゃない…。」

エレンがポツリと呟く。その通りだが用途も魔法の種類も違うから比べること自体が間違いなのだが…。

「さて、これで文句はなかろう、マルゴワール?」

その問いかけにマルコは無言で返した。青白い顔がさらに青くなり、唇を噛み締め俯いている。

「所でレオナードよ、対人間にあの魔法を使う時は今の十分の一に出力を落としてくれるかね?障壁魔法がきちんと作動して良かったわい。あれが生身の人間に当たったとしたら地獄絵図じゃよ。」

「は!はひぃ!気をつけます!!」

にこやかに笑うハウゼル先生の横で更に青くなるレオナードだった。




「よ〜し!レオナードの秋の競技大会出場決定を祝って!乾杯っ!!」

「アルとエレンもね!」

アーノルドの音頭にパズが追唱する。乾杯!!と声が重なって五つのジョッキが掲げられる。場所は学校の食堂、中身はただの葡萄の搾り汁だ。彼らはまだ酒を呑んでいい歳ではない。

一番はしゃいでいるのはアーノルド、ついでパズだ。当のレオナード本人は気恥ずかしそうに小さくなっている。ティアはいつも通りニコニコと静かにしていて、エレンは微妙な表情だ。祝う気持ちはもちろんあるのだろうが、自分より高威力の魔法を放ったレオナードに聞きたいことがたくさんあるのだろう。

「いやぁ、でもレオ、本当に凄かったね!おめでとう!」

パズが目をキラキラさせている。それもそうだろう。あの後、レオナードは圧倒的な強さで選抜試験を突破した。

レオナードの魔法は超接近型というのは誰の目に見ても明らかだった。そこで距離を取ろうとする生徒がいた事にはいたのだが、普段、体を鍛える事をまともにした事がない魔法科の生徒が、レオナードに追いかけっこで勝てるはずがない。

「なんであんなに走れるのよ?しかもめちゃくちゃ速いし…。」

「そりゃ、俺たち、毎朝走ってるからな!」

エレンの疑問に、アーノルドがレオナードの肩を抱きながら答える。エレンが、体力馬鹿…と呟いたが恐らく聞こえていない。

「しかし、あの魔法すごいですわ。まさか()()()()()()()なんて…。」

ティアが頬に手を当ててほぅと息を吐く。あれ?今こいつらが飲んでるのってただの葡萄を搾った物だよな…?

「本当よ!あれは確かにインチキだわ!」

エレンがテーブルをバンと叩いて立ち上がる。顔が赤い。おいおい…本当にただの葡萄の搾り汁か…?

「あ、あれは単なる魔力操作の一種だからね。事象改変の必要が無いから誰でも練習すれば出来るようになるよ!」

いつも通りのレオナードを見て俺はほっと安心した。

ただし一つだけ訂正があるとすれば誰でもは無理だ。あれはある程度、()()()()()人間にしか出来ない芸当だ。


「おい!レオナード!お前どんなイカサマをしたんだ!!」

そこに無粋な横槍が入った。顔を真っ赤にしたマルコが取り巻きを引き連れ、肩を怒らせながら近づいてくる。

「よくも俺に恥をかかせてくれたなっ!!!」

頭から湯気が立ち上りそうなほどに顔が真っ赤だ。単独首位で選抜試験を突破したレオナードに比べてマルコはギリギリ…。いや、取り巻きどもが棄権したからなんとか選抜を通った、というのは誰の目に見ても明らかだ。まぁこの場合はただの逆恨みだな。

「い、いや、別に恥をかかせるつもりは無かったよ!僕はあの魔法くらいしか攻撃手段が無くて…。」

レオナードは律儀にマルコの相手をしている。しかし一番怖いのはレオナード以外の四人が静観していることだ。特に武闘派二人が…。

「お前如きがあんな魔法使えるわけがない!どうせそこの赤髪の入れ知恵かなんかなんだろう!!」

「…お前如き…?」

「…赤髪の入れ知恵…?」

アーノルドとエレンが呟く。雰囲気が険悪だぞ…。

『レオナード…やばいぞ…。』

俺は思わずレオナードに念話で警告をだす。

「わ、分かってる!けど…。」

選抜を通っても頼りないレオナード…。この後が思いやられる。

「…な、なんだ…お前ら!この俺に、逆らおうって…ぃぅ…。」

マルコは最後まで言葉を継ぐ事が出来なかった。アーノルドとエレンの二人がゆらりと立ち上がる。

「分をわきまえるのはそちらの方だな。俺の友人を侮辱してただで帰れると思うなよ…。」

冷たく研ぎ澄まされた刃のような殺気だ。真冬の雪嵐の中にいるような怖気がする。

「本当…そろそろ我慢の限界なのよね…。やけどくらいじゃ済まないって事を教えてあげようかしら…?」

対してこちらは湧き出る溶岩のような怒りだ。周りを巻き込んで全てを焼き尽くしかねない。

「…ひ、ひぃっ…!」

取り巻きの一人が短く悲鳴を上げて数歩後ずさると、くるりと振り返り、一目散に逃げていく。それに即発され、他の連中も蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

「…お、おい!お前ら!待て!!」

最後にはマルコも及び腰で逃げ去っていく。これは…なかなか痛快だな。

「ちょ…二人とも落ち着いて!パズもティアも手伝って!」

慌てふためくレオナード。二人の怒りは収まっていない。エレンなど今にも逃げていくマルコの背中に向かって魔法をぶっ放しそうだ。

すると突然、美しい旋律が聞こえた。

「…え?ティア…?」

エレンが驚きの声を上げる。ティアが、決して大きくはないがよく通る綺麗な声で歌っている。その周りを光の粒子がキラキラと輝いて舞い踊る。残りの三人は、いや、食堂にいる誰もが言葉を失った。

(…ほう…これは素晴らしい…。あれは…風の精(シルフ)か…。)

歌の盛り上がりと共に、ティアを中心に涼やかな優しい風が吹きわたる。まるで草原の真ん中にいるような清々しさだ。険悪な雰囲気など全て吹き飛んでしまった。

「…ふぅ…。」

朗々と歌い上げたティアは片手を胸に当て息をついた。

「もう、二人のお祝いでもあるんですからね。」

そしてにっこりと微笑む。アーノルドとエレンの二人は毒気を完全に抜かれ、すとんと椅子に座った。

その時、万雷の拍手が巻き起こる。もちろんティアの歌に対してだ。驚いた顔をしたティアは次の瞬間、顔を真っ赤にして小さくなった。


ちなみに、教師達の選抜試験お疲れ様会の為に用意されていた葡萄酒が、間違えて食堂に配達されてしまったというのは、余談である。



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