2.使い魔召喚
使い魔召喚とは、読んで字の如く、魔物を召喚し従者として仕えさせる方法だ。呼び出された魔物は名前を与えられることで召喚者と《魂の繋がり》ができ、主従関係が結ばれる。まぁ魔物側にしてみれば一方的でこの上ない迷惑なのだが…。この《魂の繋がり》が厄介だ。一度結んでしまうと一方的に切ることが出来ない。繋がりの強さの程度によっては片方が死ねばもう片方も死ぬことさえある。まぁ今回はそこまで強い繋がりではなさそうだが色々と制限がつく事に変わりはない。
「まだ子猫のようですね…。まぁ学生のレベルで強い使い魔を呼ぶのは無理がありますが…シャ・ノワールは長く生きれば強力な魔物になる可能性もありますよ。」
このおっさん、ハウゼルの言う通り、魔物を召喚するにはそれ相応の力が要る。強い魔物になれば呼びかけを拒否する事も出来る。もちろん、俺も魔王のままであれば呼びかけられることすら無かっただろう。だが俺は勇者との戦いで消耗しきり、さらに自爆魔法によって肉体を失っていた。おそらくは魂だけの存在になっていたのだろう。逆にあの女騎士によって止めを刺されていたら魂も残さず消滅していたかもしれない。そこにどんな偶然か、このレオナードとかいうガキが呼び出しをかけたのだ。そして俺は不用意にもそれに答えてしまったのだ。
(悔やんでも仕方ない…。そもそも召喚をした事はあってもされた事など無かったのだから…。)
俺も召喚をした経験は数ある。あれど召喚される、などとは夢にも思わなかったのだ。
(しかし何故に猫なのだ…。)
魂だけの存在を召喚する行為は極めて成功する確率が低い。ほぼ皆無といってもいいだろう。それくらいに魂という存在は不安定なのだ。
(恐らく俺の魂は近くにあった波長の近い生物の中に避難したのだな。あぁ、そういえばメイド達がしばらく前に子猫が産まれたと喜んでいたが…。)
少しずつ状況が繋がっていく。繋がっていくがこの状況は絶望的ともいえる。よく見ると俺の体は生後一年にならないであろう、黒い子猫の体だった。
(…猫と俺は波長が近いのか?…最悪だ…。)
あまりの展開に頭を抱える。
「…か、可愛い…。」
頭を抱える仕草も子猫の姿では愛くるしさ以外の何もない。
「ごめんよ…。名前、短絡過ぎたかな…。黒いからクロなんて…。焦っちゃったんだ…。」
この野郎…と言いたいところだが、申し訳ないという感情と情愛の念がレオナードの内側から直に伝わって来て怒るに怒れなくなる。《魂の繋がり》の厄介なところがここだ。相手の感情や思いが繋がりを通して伝わってしまい、それらが自分のもののように感じられることすらある。良くも悪くも使い魔は主人の分身というわけだ。
おっさ…ハウゼルが小さく呪文を唱えるのが聞こえた。足元の魔法陣が淡く光り消えた。結界が解けたのだろう。
レオナードが恐る恐る手を伸ばしてそっと俺の頭を撫でた。俺はされるがままに任せた。契約を結ばれてしまった以上、今できる事は、何もない。
「…暖かいや。」
俺が大人しくしているのを確かめると、レオナードはそっと抱き上げ頬を寄せて来た。
「これからよろしくな、クロ。」
俺は小さくニャアと鳴いておいた。