25.競技会概要
「さすがに今日はきつかったな。」
翌朝から早速、模擬剣を使った鍛錬が始まった。木製と鉄製では重さの桁が違う。これにはさすがのアルもきつかったようだ。ちなみに僕は大の字でへばっている。空が綺麗だ…。
「これ…で、試合するの…?やっぱ…り、騎士科は…凄いな…。」
息を整えてつつ、僕はゆっくり起き上がる。
「さらにこれに兜や鎧が加わるからね。もっと動き辛いよ。」
ひぇ〜。と思わず情けない声を上げてしまった。隣で寝そべっていたクロが見上げて来た。目がもの言いたげだが無視しておこう。最近念話がなくても何となく言いたいことが分かる…。
「合宿では実際に鎧兜を着けて実習だったよ。一年生で動けたのはほんの一握りだったね。ましてや模擬戦なんて…吐くくらい辛かった…。いやぁ、地獄の合宿だったよ…。魔法科が羨ましい…。」
アルが遠くを見つめている。僕は乾いた笑いを返すくらいしかできなかった。
騎士科は二年生になっても魔法科程の授業選択の幅がない。そのため合宿はどちらかといえば山中行軍や野営訓練、その他の軍事訓練などいわゆる強化合宿だったようだ。
「まぁだからこそ模擬剣を買う事にしたんだけどね。あのままでは試合にすらならないよ。ラングランの名前に泥はぬれないからなぁ。」
「…大貴族の家に生まれるのも大変だねぇ…。」
アーノルドは首をすくめて応えた。
「そうそう、放課後だけど、寮の玄関のとこでいいかな?ほんとに無理して付き合って貰わなくてもいいんだよ?エレンの用事だし。」
「問題ないよ。俺も興味あるし!」そろそろ飯にしようか?クロも腹減ったろ?」
クロがにゃあと短く鳴いて応えた。
「遅いわよ!」
「ごめんごめん。ってまだ五分前じゃないか?」
「お黙り!淑女を待たせるのは紳士じゃないわよ!」
はいはい。と僕とアルは答えた。口答えなんかしたら火に油だ。
「それでその先輩はどちらに?」
学外の自分の屋敷から通っているはずのエレンが、放課後に寮に来たのはある先輩に会うのが目的だ。
「二階のサロンで待ち合わせだよ。」
そういって僕はエレンを案内していく。二階のサロンには一人の男子生徒が待っていた。
「遅くなってすいません。今日はよろしくお願いします、クレマン先輩。」
「やぁブランシェ君。構わないよ。僕も今来たところだし。それで、そちらが…。」
「エレンフィール・ルメールと申します。本日はよろしくお願いします。」
先ほどまでの剣幕はどこへやら。エレンが淑やかにお辞儀をする。隣でアルが微妙な顔をしている。気持ちは分かるよ。ちなみにクレマン先輩とアルは同じ寮生ということもあって顔なじみだ。
「それで、僕に聞きたいことって言うのは秋の競技会の事でいいんだよね?」
「ええ、まだ正式な発表は出てないのですが、実は私とアルがそれぞれ、新人戦の代表に選ばれてまして…。」
そう、昨日パズのお店で知ったのだが、エレンが競技会の代表に選ばれているらしい。ちなみにマルコも。
「それであいつ、いちゃもん付けてきたのよ。「ロイヤルカラーでもないお前が負けたら身内の恥だ。棄権するなら今のうちにだぜ。」ですって!ふざけんじゃないわよ!」
と怒りが再燃しそうになっているのをパズと一緒に必死でなだめたのだ。パズとて店を燃やされたらたまったものじゃない。
ちなみにクレマン先輩は、のほほんとした外見とは裏腹に魔法射撃が得意らしく、去年は新人戦優勝。今年も代表入りを獲得し、優勝候補と目されている。2、3年生の代表者にはすでに競技会の概要が知らされているはずだ。
「まず、代表は各校4名の計16名。予選で半分に落とされて8名での決勝トーナメントだよ。これは毎年変わらないから今年も一緒だね。」
競技会のルールは時々変更される事がある。しばし政治的な理由が絡む事もあるらしいが…。
「予選は制限時間内で飛んでくる幾つの的を落とせるか。決勝トーナメントでは対戦方式で制限時間内に飛んで来る的に多く当てた方の勝ち。だね。」
「うまく当てるコツとか、何かありますか?」
エレンが身を乗り出して質問する。彼女なりに必死なんだろうな。
「んー…その人の魔法適性によると思うけど、僕の場合は速度重視にしたね。的自体に大した強度は無いし、当てる事があくまで目的だからね。ただある程度威力も無いと決勝トーナメントでは相手の魔法に弾かれる事もあるよ。」
なるほど。とエレンは顎に手を当てて考え込む。
「ちなみに剣術も各校4名の計16名。確か全トーナメント方式だよ。対戦相手の抽選はくじだったと思う。」
「使われる道具は…?」
「一応、各学校が用意したもの。となってはいるけど…。」
「とはなっているけど…ってどういうことですか?」
言い淀むクレマン先輩に僕は疑問を投げかけてみた。
「…ほら、色んな剣術流派もあれば、色んな家の子もいるからさ…。」
(なるほど、そういうことか。)
『政治的な力が働いているのだろうな。沢山の貴族家の子女が関わるのだ。何も無い方がおかしい。』
僕の心の内を読んだようにクロが嘆息する。隣ではアルが黙って思案顔をしている。
「ん?勝負ってどうやって着くんですか?剣術の場合も制限時間とか?」
ちょっと待って。と鞄をガサゴソと探り紙束を取り出すクレマン先輩。恐らく競技会要綱だろう。
「それは俺が答えよう。」
紙束を忙しそうにパラパラとめくるクレマン先輩を見てアルが助け舟を出した。
「鎧の要所に魔法がかかっていてな。そこに相手の剣が当たると反応するんだ。例えば頭部や胸部、背中、胴回りなど致命傷と見なされる場所に当たると一本。先に二本先取した者の勝ちだな。」
チラリとアルがクレマン先輩を見る。彼は紙を見ながらうんうんと頷いていた。間違いは無さそうだ。
「じゃぁ、変な話、兜や鎧に細工して魔法をかけないって事も出来るってこと?」
「いや、あくまでかけられた魔法は補助的なもので最終的な判断は審判が行う。まぁもちろんそれも全て正しいわけじゃないが…。それを言い出すときりが無いからな。」
アルはそう言って苦笑いを返してきた。
三本先取→二本先取に修正しました。




