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20.幽霊の正体

「あっという間だったね。色々あったけど楽しい合宿だったな!」

止まった馬車の中でパズがにこやかにレオナードに話しかけている。俺はというと柔らかいクッションの上に座り、毛並みを整えていた。

「…本当、色々あったね…。」

返すレオナードは疲れ果てた顔をしている。昨日、あれからレオナードとティアは医療系魔法の上級生たちに随分と遅くまで捕まっていたようだ。そもそも付き添いで来ていたパズとエレナは、話が長くなりそうなのを見るやさっさと離脱していった。俺はもちろんパズに付いて一緒に部屋に戻った組だ。

「それで、結局どの授業を選択するか決めたの?」

「医療系はかなり厳しそうだよ。勉強量も半端じゃないしかなり難しいみたいだ。他の系統の授業を取る暇も無いみたい。だから選択する人が少ないって。人の命を預かる崇高な業務なのに、って嘆いてたよ。人員不足で後輩の獲得に躍起になってるっぽいけど…。」

なるほどな。それでなかなか帰してもらえなかったのか。レオナードの帰りが遅かった理由が判明した。

「やっぱり生活応用魔法かな?生産系魔法は故郷にも使える人が何人かいるしね。パズは?」

「やっぱり僕はまず結界魔法だね。話を聞くとやっぱり商家の生徒が多いみたいだし…。あ、やっと動き出したね。」

パズの言葉通り、止まっていた馬車が動き出した。馬車に乗り込んでから随分時間が経った気がする。

「まったくさ、貴族様から先に出発なんてさ、時代錯誤な気がするんだけど…。あ、レオも貴族だよね…ごめん…。」

「いいよいいよ!気にしてないよ!それにうちは貴族といっても田舎の貧乏貴族だし。半分農民みたいなもんだよ。」

貴族の子供達が、裏でパズのような商家の子供達を成金と揶揄しているのは皆知っている話なのだ。実際、かなりの資産と、有力な貴族家の紹介が無いと商家の子供達は学園へは通えないらしい。もちろんそこに袖の下の話があるのは間違いないだろう。そんな商家生まれのパズと貴族としての劣等感を抱いていたレオナードが仲良くなったのはある意味で必然だったのかもしれない。

「そういえばレオ聞いた?幽霊が出たって話。」

「え〜!?またぁ?そんなの絶対ウソだって!」

「それがさぁ、二年生の人が妙な歌を聞いたって。それでね…。」

一瞬、重くなった空気を変えようとパズは努めて明るい声に切り替える。そしてそれに乗っかるレオナード。たわいもない話が続いていく。俺は毛繕いを終え丸くなってうとうとしていた。隣にはパズの使い魔、鳩のアスールが小さくなって寝ていて暖かい。そういえばこいつともこの合宿で仲良くなったのだが、それはまた別の話だ。




小さく揺れる馬車の感触にゆらゆらうとうと、としていた時、俺の感覚に知っている三つの気配が感じられた。俺は顔を上げるとレオナードに念話を送る。

『レオナード、近くにエレンとティアがいるみたいだぞ。』

「え?彼女たち随分先に出たよね?」

思わず声に出してしまうおっちょこちょいのレオナード。パズが突然の事に理解が出来ずきょとんとしている。すると馭者座との連絡窓が開いて柔和な顔の男が覗き込んでくる。

「坊ちゃん!立ち往生してる馬車があるみたいでさ。どうもお友達のお嬢様方が乗り込んだ馬車に似てるみたいですが…。」

合宿所を出る時にエレンとティアが挨拶に来ていた。また学校で!という程度の軽いものだったが、その時の事を覚えていたのだろう。この従者、パズとは幼い頃からの付き合いらしく、とても良く気が回る良い男だ。

『恐らくそれだな。』

レオナードとパズは無言で頷き合った。


「こりゃあ災難でしたね。まぁあっしは馬車の修理も手馴れたもんでしてね。任せて下さいよ!」

パズの従者はやはり使える男だった。エレンとティアの従者の若い男は恐縮したように何度も何度も頭を下げてお礼を言っていた。

「本当にごめんなさい。何から何まで、ご迷惑を掛けてしまって…。」

珍しくエレンがしゅんとしている。修理を待つ間、エレンとティアはパズの馬車に乗り込んで待つ事になったのだ。聞けばあの馬車はエレンの家の持ち物らしく、俺たちが来るまで何をどうしていいのか分からずに途方に暮れていたらしい。

「いいよいいよ!困った時はお互い様!でも…ティアって黒髪だったんだね!」

ティアはベールを取り、緩く編み込んだ髪を見せていた。

エレンが一瞬、ぎろりとパズを睨んだが、僕と一緒だね!なんて柔和に笑うパズに怒るに怒れなかったのか、それとも助けて貰った気後れからか、ため息を一つついて表情を崩した。

「私とティアがあいつに絡まれるのはこの髪の色のせいなんだけどね…。」

「でも二人とも綺麗な髪の色だよ!」

「でしょ!もっと褒めなさい!」

パズとエレンのやりとりにクスクス笑うティア。これもだんだんと見慣れたやり取りになってきたものだ。

「…ところでさ、ティアってもしかして…一日目の朝に植物園で歌ってたりしなかった?」

チラチラとティアの黒髪を見ていたレオナードがこう口を開いた。というか気づいてなかったのかこいつ…。

「…え!?もしかして…聞いてたの…?」

真っ赤になって俯くティア。

「なぁに?覗いてたのレオくん?いやらしい。」

「違う!違う!たまたま!たまたまだよ!」

そう軽い軽蔑を込めた目でエレンが見てくるのに慌てて返すレオナード。ティアがますます赤くなって小さくなる。それを見たエレンがまったく…。と小さくため息をついた。

「この子の家はね、ご覧の通り神官の家系なのよ。昔から歌う事が好きで、小さい頃は良く二人で聖歌とか歌ってたんだけどねぇ…。」

「うん、確かに上手だったよ!」

「そんな…私の歌なんて…。」

ティアは一向に顔を上げる気配が無い。心なしか余計に顔が赤くなっている。オロオロするレオナードを見てエレンとパズが意味ありげにニヤニヤ笑っている。

若いとはいいもんだな。なんて思っていた俺の感覚に今日二度目の知った気配がひっかかる。だがこれは…

『レオナード、まずいぞ。魔物の気配だ。』

え…?と驚くレオナード。見ればパズとエレンの使い魔も警戒するように顔を上げている。

「うわあぁぁぁぁぁぁ!!!」

その時、馬車の外から悲鳴が上がった。



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