17.火龍
「あんたねぇ!いい加減にしなさいよっ!!」
お昼の食堂に響き渡る大きな怒声。何事か?と俺は顔を上げてレオナードとパズが凝視している方を眺める。
(…まるで火龍だな…。)
それは見事な赤い髪の少女だった。その少女が髪を逆立てんばかりにし、怒りに燃えた目で見覚えのある金髪の男子、そしてその取り巻きたちと対峙している。
(あれは…マルコか…?)
対してマルコの方はニヤニヤとした顔で赤毛の少女を見返している。
「なぁに、本当の事を言っただけさ!何ならもう一回言ってやろうか?王家の血を引いているはずなのに何でお前は赤毛なんだ?本物の王家の血筋なら俺みたいな《ロイヤルカラー》になるはずだぜ?」
「あいつ…わざと周りに聞こえるように言ってやがる…。本当に性格の悪い奴だ…。」
ぼそりとパズが呟く。
王家の血筋に連なる金髪碧眼の事をロイヤルカラーと呼ぶらしい。アーノルドが以前レオナードにそう説明しているのを聞いたことがある。
「….いい加減にしないと…。」
「ちょっと、エレン。落ち着いて…。」
今にも掴み掛からんばかりの勢いの赤髪の少女を、隣に居た眼鏡を掛けた少女が止めに入る。頭には修道女のようにベールをかけ、髪を隠している。
「よぉティア。相変わらずお前ら二人は仲良しだねぇ。」
「…。」
どうやら眼鏡の少女もマルコとは旧知のようだが…目を伏せて視線を合わせないあたり、二人の仲はあまり良くなさそうだ。
「まぁ仕方ないよな。従兄弟内ではお前ら二人だけだもんな!ロイヤルカラーじゃねぇの!特にティアなんかは…。」
ぱちいぃぃぃん
高い音が響いた。赤髪の少女がマルコに盛大に平手打ちをかましたのだ。
「てっめぇ!何しやがる!」
マルコが頬を押さえながら、怒りに満ちた目で赤髪の少女を睨みつける。それを睨み返しながら
「外見とか家柄でしか人を判断しないあんたみたいなやつは、最っ低のクズよ!」
よく言い切った赤髪の少女!と俺は心の中で喝采を送っていた。
「…てめぇ…言わせておけば…。」
マルコとその後ろに居た取り巻きどもが一歩下がって身構える。
「何よ!?やろうってんの??」
それを見た赤髪の少女も一歩下がって身構えた。眼鏡の少女はその後ろでオロオロとしている。赤髪の少女の両腕に魔力が集まりだし、炎へと形を変えていくのが見えた。心持ち、室内の温度が上がった気がする。
(ありゃ…性格も行動も本当に火龍だな。)
火山に住む火龍は竜種の中でも気性が荒くて有名だ。
「大変だ、止めなきゃ!」
そんな事を呑気に考えていた俺の隣でレオナードが慌てて立ち上がり二人の方へと駆けて行く。
「ちょ!レオ!怪我するよ!」
心配するパズを無視し、一足飛びに二人の元へと駆けつけた。確かにこれはマズイな。俺も立ち上がりレオナードの後を追う。
「二人とも止めてください!」
レオナードが先にマルコと赤髪の少女の間に割って入る。
「邪魔よ…ってあれ?あなたもしかしてあの時の…?」
レオナードに見覚えがあるのか、赤髪の少女の魔力の動きが止まったのを見て俺は安堵した。
「どけよ泣き虫レオナード!」
だがマルコの方はそうでは無かった。以前にも使っていた火球の魔法を発動させレオナードに向かって打ってきたのだ。
「…くっ!!」
魔力を込めた腕の一振りでレオナードはそれを打ち消した。
「…な!?」
これに驚いたのはマルコの方だった。まぁ当然だな。レオナードを格下だと甘く見ていたのだから。
「…く!くそ!もう一発だ!」
そしてマルコが再び火球を作り出そうとしたその時、天井からスルスルと蔦が降りて来て、あっと言う間にマルコと赤髪の少女を吊るし上げた。レオナードはというと上手く躱したらしい。
「うわぁぁあ!」「きゃあぁぁぁ!」
二人の叫び声が響き渡る。それを呆然と見上げるレオナードと眼鏡の少女。一瞬の出来事に驚きを隠せないでいる。少女の方は顔が真っ青で今にも倒れそうだ。
「この城で狼藉を働くとは何事ですか…。」
静かに怒りを滲ませたダラス先生が現れた。この蔦はダラス先生の魔法だろう。それにしてもなかなかの使い手だな。
怒った先生の登場に吊るされた二人はぴたりと静かになる。それを見てか、蔦の拘束がするすると解かれて二人は床に降ろされた。
「「先生これは…!」」
「お黙りなさい!!」
降ろされた途端に口を開こうとするマルコと赤髪の少女を一喝するダラス先生。周りの生徒がびくりとする程の迫力だった。
「事情を伺います。三人ともついて来なさい!」
そう言って踵を返すと肩を怒らせながら歩いて行く。
「えぇ…?僕も…?」
レオナードが自らを指差しながら嘆いている。完全に巻き込まれたな。ご愁傷様。
こうしてヘロヘロになったレオナードが戻って来たのは三刻を過ぎてからだった。説教ののち、正座で反省文を書かされたようだ。本当にご愁傷様だ。




