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13.夏の終わり

「しかしまぁ、城壁の下を掘って侵入して来るとはねぇ。」

アルはそう言って額の汗を拭っている。僕ら二人とクロは三段ほどの階段に腰掛けて涼んでいた。あの事件から一週間が経とうとしている。夏も終わりが近づいてきていた。

僕の手には今朝の新聞が握られていた。このあたり、やはり王都は凄いと思う。印刷所すらない田舎の町では考えられない。まぁ新聞に載っている大方の記事がガセやデタラメだったりするのだが…。


あれから僕たちは学校へと駆け込むと、そこにいた守衛に事情を話した。幸いだったのは、学校にいた守衛達は真面目な人たちだったのか、業務に忠実だった。直ぐに伝令の早馬が走り、僕らは校舎へと立て篭もった。クロの予想通り、二十匹近い小鬼が姿を現した時は背筋が凍るかと思った。

「…これは…。」

これにはさすがの守衛隊長も絶句していたが、煌々と灯りを炊き、校舎の高い所から矢を射かけると小鬼どもは距離を取って様子を見ていた。

東の空が白み始めた頃、複数の馬の蹄の音が街の方から聴こえてきた。姿を見せたのは警ら隊、つまり国軍だ。彼らの姿を見るや否や、小鬼たちは蜘蛛の子を散らすように森の中へと逃げ込んでいった。

「今度こそ、俺たち、本当に助かったのか…?」

「そう、みたいだね…。」

他の生徒たちと違い、僕とアル、そしてクロは守衛たちと共に一晩中、小鬼と睨み合いを続けていた。その緊張感が解けたのか、アルと僕はその場で座り込んで動けなくなってしまったのだ。剣の柄を握った指を解くのに苦労をした。

「君たちは将来有望だな!絶対に良い兵士になるだろう!」

そう言って豪快に笑う守衛隊長に曖昧な笑みを返すのが精一杯だった。


「調査も討伐も終わって、明日からやっと寮に戻れるのか。まぁ暫く軍が駐在するみたいだけどね。」

まるで肩が凝ったというように首を回しているアル。僕らは、あの事件の次の日から王都の中心に近いところにあるラングラン家の屋敷でお世話になっていた。王国貴族の頂点に君臨する西方公のお屋敷ということだが、騎士の家柄らしく堅固な作りで、王都でも王宮を除いて一二を争う堅牢さを誇るらしい。もちろんラングラン家の騎士も駐在しているため

「ここなら絶対安心さ!」

とアルが言っていた。


「僕はもう少しここに居てもいいけどね。」

と冗談めかしてみるとアルが今まで見たことないようなしかめっ面を返してきた。

「冗談じゃない!もう王都の貴族様がたとのお付き合いは懲り懲りだ!」

屋敷での滞在中、どこから聞きつけて来たのか、押し寄せるように様々な貴族家からの使いや挨拶がやってきた。特に多かったのはお見合い話。三男とはいえラングラン家の息子を婿に迎えればお家は安泰。と考えるのは貴族として至極当然の事だろう。中には直接、娘本人が使いでやってくる例さえあった。これにはさすがのアルも冷や汗をかいてタジタジになっていた。

その様子を思い出し、また自分が大貴族の一員というのも忘れているようなアルの発言に僕は思わず大笑いしてしまった。

「笑い事じゃないぞレオ。」

「悪い悪い。アルが余りにも変な顔をしてたもんだからさ。」

僕は涙を拭いながら答えた。


「…しかし、あの噂は本当なのだろうか?」

「魔物の行動が活発になってるって噂?」

ひとしきり二人で笑いあった後、アルは表情を真剣なものに戻した。

ここ最近、各地で魔物の被害が増えているらしい。魔物だけでなく盗賊の被害も増えているということだが関連性は分かっていない。実は魔王は生きている。とか新たな魔王が誕生したのでは?というようなまことしやかな噂が流れている。被害の大きな所に勇者たちが派遣されるのでは?との噂もあるが王宮にまだ動きはないようだ。

「…レオ、俺はもっと強くなりたい。いや…強くなる。騎士として、親父や兄貴たちみたいに領地の人々やこの国の人々を守る盾になる。一人でも、多くの人を救えるように。」

「アル…。」

僕ら二人は遠く空を見つめていた。

(…僕は…どうして強くなりたいのだろう?)

ふと僕は自分の両手を見つめた。数ヶ月前に比べるとタコができ、固く、一回り大きくなった手を。そこにはまだ、あの時、小鬼を切った感触が、残っているような気がした。


にゃあ


クロと目が合う。その尻尾が小さく揺れていた。


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