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108.帰還

「さあ帰る準備が出来たぞ。」

どこかへ出掛けていたクエレブレさんが、ふらりと戻ってくると、そう僕らへと告げた。

「やっぱり空を飛んで帰るんですか?」

パズが心底嫌そうな顔をしている。

「当初はそのつもりだったんだがな、お主が嫌だというからわざわざ別の方法を用意したんだぞ?」

クエレブレさんのこの言葉にパズの表情が一気に明るくなる。何度もお礼を言うものだからクエレブレさんが少し鬱陶しそうにしている。

「寂しくなるわ。たまには遊びにいらっしゃいね。」

シャルルナさんがそう言うとティアとエレンを代わる代わる抱き締めた。

僕とアル、パズはクエレブレさんと握手を交わす。パズはまだ礼を言っている。よっぽど飛ぶのが嫌だったんだろうな…。

「ではそこに集まって貰えるかな?」

ひとしきり別れの挨拶を交わすと、クエレブレさんが、例の僕らには理解出来ない言語の詠唱を始めた。いつもよりも少し長い気がする。

「うわ…凄い…。」

僕は思わず感嘆の声を上げた。僕らの周りに光輝く魔法陣が浮かび上がってきたのだ。それも球状の。

『これはだいぶ高度な魔法だな…。』

あのクロでさえ驚いている。

「ではさらばだ!子供達よ!」「元気でね!」

クエレブレさんとシャルルナさんの声を最後に、僕らの視界が光に包まれた。

そして、次に目を開いた時には、王都の城壁の側に立っていた、というわけだ。

『転移魔法…とでも呼ぶような代物かな。腐っても竜種だったというわけか。』

辛辣なクロの言葉に僕らは苦笑いするしか無かった。

「アスール、馬車がどの辺りにあるか、空から見てみてくれないか?」

パズの言葉に、その肩に止まっていた鳩、使い魔のアスールが空高く飛び上がる。

そう、あれから僕らはクロの指導のもとに念話の魔法を練習した。

結果、パズはアスールと、エレンはルビィと意思疎通ができるまでになった。流石に《魂の繋がり》が無い僕らとはまだ難しいようだ。

『お前達がもう少し成長すれば、その内に話せるようになるさ。』

とクロは言っていた。


「あ!あった!」

上空からのアスールの案内に従って、僕らは森の中で小さな焚き火を囲むパズの従者さんと見知らぬ男、それに馬車を見つけた。

「えーと…、クエレブレさんの…?」

パズが恐る恐る見知らぬ男に声をかける。すると男はコクリと頷く。浅黒い肌の精悍な顔立ちをした男だ。

すると男の周りから、どこからともなく黒い霧が滲み出し、男を覆い隠した。僕らは驚きのあまり声も無くその光景を見つめていた。

霧が晴れた後には、一匹の精悍な顔立ちの大きな犬がそこにいた。灰色と黒の毛並み。長い鼻。犬というよりは狼に近いのかもしれない。

「え?私を守るように言付かっているの?」

その狼のような犬は、その頭をティアの脚に甘えるように擦り付ける。

『ティアの護衛、いや使い魔と言った所かな。』

「オンブルって言うのね。でも困っちゃうわ…我が家では飼えない…え?それなら大丈夫?」

狼は頷く仕草をすると、ティアの影の中にまるで水にでも潜るように姿を消した。

『…便利な能力だな。まさに影の番犬じゃないか。』

クロが面白がっているような声を出した。


「おや?坊っちゃまがた、お早いお帰りで。」

狼のような犬、オンブルがティアの影に姿を消すと同時に従者の男が目を覚ました。

クエレブレさんの暗示で彼はここまで僕らとは一緒に戻ってきた事になっている。偽の記憶を作ってしまった事に少し申し訳なさを感じる。

「それじゃあ久々の王都に戻りましょうか!馬車に乗ってくだせぇな!」

男はそう言って立ち上がると、うーん!よく寝た!と言いながら背伸びをした。




王都の街並みに大きな変化は無かった。

城壁をくぐってもまだ日が高かったため、僕らは馴染みの路地裏の食堂で、遅めのお昼を取る事にする。

女将さんはいつもの笑顔で僕らを迎え入れてくれた。

「坊ちゃんがた、旅に出てたって事はあの噂はまだ聞いてないかいね?」

食事を終え、ナランハ(オレンジ)ジュースで一息ついていた僕らに、女将さんはこう切り出してきた。

掻き入れ時も過ぎ、ちょうど暇を持て余していたのだろう。

「聖騎士様が反逆罪でとっ捕まったって話ですよ。」

女将さんの言葉に僕らは盛大にむせ返る。女将さんはというと、驚くのも無理は無い、という顔でしきりに頷いていた。

「なんでも、聖騎士様に同行した人の話では、魔王と名乗っていたのは実はただの人間だったって話ですよ。魔王自身が今際の際にそう言っていたとか。」

僕らは黙ってその話に耳を傾けていた。女将さんはそれが、驚いて言葉が出ないでいるものと勘違いしているようだ。更に話を続けてくる。

「去年の遠征でも、魔王を倒したっていう確実な証拠は見つからなかったって言うしね。自分の名声の為にでっち上げたんじゃないかって話さ。」

僕の脳裏に去年の夏、北の地で出会った事、そしてつい先日、堂々とした態度で連行されていったセミラミスの姿が思い浮かぶ。

いけすかない事は確かだけど、自分の名声の為に嘘をつくような人間とは思えなかった。

「ほら、ここの所あちこちで魔物が増えて大変だろう。噂だと魔王はまだどこかで生きていて、虎視眈々と世界征服を狙ってるって話さ。恐ろしや恐ろしや。」

女将さんはそれだけ言うと、新しく入って来たお客さんに威勢のいい掛け声をかけながら、僕らのテーブルを離れていった。

『…世界征服?お伽話じゃあるまいし…。』

クロが深々とため息をついた。


「じゃあ魔王とその軍が居なくなったから、最近の魔物被害の増加を招いてしまった、ってこと?」

エレンが周りをキョロキョロと見渡しながら小声でそう言った。

あれから僕とアルは、いつかの夜にクロを交えて話し合った考えをみんなに話していた。

「そうだ。要は魔物の世界の治安維持がボロボロなんだよ。」

「でも辻褄は合う。むしろなんでその考えに至らなかったんだろう。」

アルの言葉にパズが腕組みをして考え込んでいる。

「でもそれだと魔王も倒されて、その軍も解体されたってことよね?セミラミスさん、完全に濡れ衣じゃない。」

ティアが眉根を寄せている。

『そこは関係無いのさ。要はセミラミスは人の世界の色んなゴタゴタを背負わされて人柱に仕立て上げられた、って事だ。』

辛辣なクロの物言いに、あたりを重い沈黙が支配する。

「…私、お爺様にかけ合ってみる…。あの人はあまり好きにはなれないけど、それでも無実の人が犠牲になるのは納得いかないわ。」

『ティア、忘れてないか?教会は、下手したらブラッドー商会と繋がっている可能性があるんだぞ?危険が降りかかるかもしれない。』

クロのその言葉に、それは…とティアが言い淀む。

「…なんかやな感じだな…。」

『しょうがないさ。事実だからな。』

アルのその一言にクロが肩を竦めた。

「いや、そうじゃなくて。クロの言う事はもっともなんだ。俺の言いたい事はこの事態の話さ。魔王討伐から魔物被害の増加、南での騒動があって今回の事件だ。」

「まるで最初から誰かが仕組んだような感じだね…。」

アルの言葉をパズが引き継ぐ。先ほどよりも更に重たい沈黙があたりを支配していた。




「しっかし、ティアもなかなか強情だな。」

寮の食堂で椅子に座ったアルは、背伸びをしながらそう切り出す。

あの後、僕らは言葉少なめに会話をしてその場を切り上げた。

そのあと僕らはパズに送られて人の少ない学園の寮へと戻って来たのだ。

「あれで結構、正義感が強いからね。」

僕もふうとため息をつく。

あの後もティアは自分の祖父の前教皇にかけ合ってみると言って聞かなかったのだ。

『お前たちの悪影響だな。特に最近は自分の出自を知った事で精神的に一つ強くなったしな。』

悪影響とクロに言われ、僕とアルは顔を見合わせた。

「本当に、何も無ければいいけど…。」

『万が一、ティアに何かあってみろ。クエレブレが黙っちゃいない。下手したらこの王都が灰燼と化すぞ…。』

「「それはまずいな…。」」

恐ろしいクロの言葉に、思わず僕とアルの言葉が重なる。

その時、僕はふとあのオンブルと言う名前の犬を思い出した。もしかしたらクエレブレさんはこの事態を予想して、ティアの護衛にあの狼と見紛うような大きな犬を寄越したんじゃないだろうか?

「あの影に潜る魔法?技?あれってクロも出来るの?」

僕はふと疑問に思った事を口にだす。

『無理だな。』

クロはあっさり即答した。

『あんな、別の次元に潜り込むような技術は俺たちの手には余る。あの犬も下手したら伝説級の存在だぞ。』

「ですよね。」

僕は何となく感じていた事を再認識して肩を竦めた。どうも最近、非常識な事ばかりでそれに慣れすぎているみたいだ。

「まあ、これでティアの身の安全は確保できたわけだ。後は教会やブラッドー商会がどう動いてくるか、だな。」

僕とアルは揃って腕組みをして唸った。その様子を見てクロがため息を一つつく。

『お前たち、自分が一学生に過ぎないという事を忘れてないか?興味を持つな、とか、考えるな、とは言わないが、自ら危険に首を突っ込むのだけは止めておけ。命がいくつあっても足りない。』

そう釘を刺され、僕はぽりぽりと頭をかいた。

その時、数人の学生が大きな荷物を手に、食堂へと入って来た。そのせいで僕らは会話を切り上げざるを得なくなる。


あの巨木が作り出す異世界で数日過ごしたせいで、僕らの夏休みはあっと言う間に終わってしまった。

「やれやれ、夏休みももう終わるのか…。毎度毎度、休みのたびにこれじゃ疲れるぜ。」

どっかで聞いたセリフをアルが口にする。その様子を見て僕は思わず苦笑いを零した。


にゃあ


クロが一つ、小さく鳴いた。







三年生、前期課程から夏休みまでがこれにて終了です。


二人のヒロイン、ティアとエレンの出自や力の秘密を軸に、夏休みの風物詩、女聖騎士セミラミスさんにも登場、ご活躍頂きました。


次回は夏休み明けの恒例、校外合宿。舞台は再びベルツへと移ります。晩夏のベルツで何が巻き起こるのか?乞うご期待です!笑


レオナードたちの学園卒業を一つの区切りとしようと考えているのでプレリュードもあともう少し。拙い文章ではございますが、もう少し黒猫と少年達にお付き合い下さい。かしこ。

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