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105.急降下

眩い光に一瞬目を閉じる。

そして次に目を開けた瞬間、飛び込んできた景色は緑溢れる美しい景色。だが…

「「きゃあああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」

「「「うわああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」

僕らは全員大きな悲鳴を上げた。さっきまで地底に向かって落ちていたはずなのに、僕らは今、空高くから大地に向かって真っ逆さまに落ちていた。

このままだと皆んな死んじゃう!

僕がそう思った時、森から大きな黒い塊が飛翔した。その黒い物体はあっという間に僕らの真下まで飛んで来る。

「クエレブレさん!?」

僕らの落下速度が急にゆっくりになると、ふわりとその背中に着地する。だがそのまま立って居られる人間は一人も居なかった。そのままその場でヘタリ込む。パズに至っては泡吹いて気絶していた…。

『ふはははは!どうだったね?人の子らよ!束の間の空中遊泳は楽しんでいただけたかね?』

『楽しむわけがあるかぁっ!!!』

クエレブレさんの念話に負けないくらい大きなクロの念話が鳴り響いた。


クエレブレさんは飛び立った森の中心、恐ろしく巨大な木の根元にゆっくりと降り立った。

僕らの体がふわりと浮かび上がり、そのまま丁寧に草地へと降ろされる。

クエレブレさんはその四対の翼で自らを包み込むと光の繭になって草地に降り立った。いつか見た人型になっているがその顔はしょぼんとしていて肩を大きく落としている。

それもそのはずだ。ここに来るまでにクロとティアに散々お説教されていたのだから。

三対の黒曜石の様な瞳を泣きそうに潤ませながら、楽しんでくれると思ったんだけどな…などとまだ呟いている。その様子を見てアルの顔が引きつっていた。

「…クロとティアにかかると、伝説のドラゴンも形無しだな…。」

その呟きに僕は深々と頷く。


『さて、色々とやらねばならない事があるだろう。いつまでいじけているんだクエレブレ。』

クロの言葉に膝を抱えていじけていたクエレブレさんが立ち上がると、こほんと一つ咳払いをして振り返った。

「良く来てくれた人の子らよ。この世界の主人として心から歓迎しよう。」

「いや、今更そんな態度を取られても…。」

「と、とにかく!ちゃんと歓迎するからさっきの事は許して!」

エレンの言葉に再びあたふたし出すクエレブレさん。もはや威厳のカケラもない…。

『まずはシャルルナに会いに行こうか。』

そしてとうとうクロが仕切りだした。クエレブレさんは何も言わずにがっくり肩を落とすと深いため息をつきながら僕らを先導していく。その背中をアルが、やっぱり顔を引きつらせて見つめていた。


「それにしても本当に大きな木。というかもはやこれは木なの?王宮より大きいわよ…。」

エレンが巨大な木を見上げる。僕らもつられて上を見上げた。頭上には森の様に鬱蒼と葉が茂っている。

「全ての精霊たちの故郷と言われている木でな。樹齢は儂にも分からん。」

クエレブレさんがそっと木に触れる。頭上の梢からまたあの囁き声の様なものが聞こえてきた。これは…精霊たちの声?

「この木ってもしかして…ユグドラシル…?」

パズが息を飲む。

「良く知っているな少年。ユグドラシル、世界樹、アズ・エーギク・エーレ・ファ、アクシャヤヴァタ、様々な時代、様々な場所でその伝承に残っておるよ。」

楽しそうに笑うクエレブレさん。

「こりゃ父さんに自慢できるや。まぁ信じてくれるかは微妙だけど。」

そう言ってパズも楽しそうに笑った。

「伝説級の場所に俺たちは立っている、って事か…。なんだがやっと実感が湧いてきたぞ。」

さっきまでの引きつった顔はどこへやら。アルの頰が紅潮している。気持ちは分からないでもない。

その巨木の幹に従ってしばし歩いて行くと、前方に小さな祠のようなものが見えてきた。

「…これは…。」

その祠の前に立ち、僕らは息を飲んだ。祠の中には色とりどりの花が咲き誇り、その中心に設えられた寝台の上に美しい女性が横たわっていた。腰まで届きそうな金の髪。透き通るように白い肌。整った目鼻立ちはティアを大人にしたような顔立ちだった。

生きているのか死んでいるのか…判別できないその様子に僕たちは何も言えずに黙って佇む。

「…この人が、お母さん…?」

ティアが思わず呟いた。すると横たわっていたその美女がゆっくりと目を開く。美しい緑の透き通った瞳だ。

「ティアの言葉に反応したのか!?」

突然の事に僕らは息を飲んだ。

その美女はやおら

ゆっくり起き上がると、両手を組んで、んー、と大きく背伸びをした。

「ふわぁ…。良く寝たわ。あら?お客様?」

そのあまりにのんびりとした様子に僕らは思わずずっこけそうになった。

「うふふ…冗談よ。よくいらっしゃいました。あなたがティアね?」

にこやかに笑いながら寝台から立ち上がるとその美女はティアの前に立つ。そしておもむろにティアを優しく抱きしめた。

「寂しい思いをさせてしまってごめんなさい。」

その一言にティアの思いの枷が外れたのか、大声を上げて泣き出した。その頭を優しく撫で続ける美女。

『少し二人だけにしてやろう。』

クロのその一言に、僕たちはそっとその場をあとにした。


「さてこの辺りで良いだろう。」

二人から少し離れた木陰でクエレブレさんは足を止めた。さすがにユグドラシルほどの大きさはないが、それでも立派な大木の下だ。

クエレブレさんが、前回の時のようにまったく理解ができない言葉の詠唱を呟くと、地面から湧き出るように、立派な作りの椅子やソファが現れる。

「まぁ、かけたまえ。」

もはや驚く人間は誰も居なかった。かくいう僕も感覚が麻痺して来ている気がする。

僕の掛けたソファは相変わらず素晴らしい座り心地だった。隣にアルが座り、その向こうの二人がけのソファにはパズとエレンが腰掛けている。クロはなぜか専用の高椅子に腰を落ち着けていた。その隣、僕らに向かい合う形でクエレブレさんが一人がけのソファに腰掛ける。

「まずは炎の力を宿した少女よ、其方からだな。名をなんと言う?」

「エレン、エレンフィールです…。」

エレンが幾分緊張した声で答える。身を乗り出したクエレブレさんが手を、と言いつつ、自分の手を差し出して来た。黒く長い爪の生えたその手の平に恐る恐る自分の手を重ねる。その二人の手の間から、ぽうっと光が漏れ出した。幾分赤みがかっている気がする…。

「…ふむ…。」

エレンの手を離すと、クエレブレさんはしばし考え込む素振りを見せる。僕らはそれを黙って見つめた。

「エレンよ、その炎は元は別の存在のものだったようだ。しかし今は其方の一部になってしまっているな。」

「つまりこれは貰い物、と言う事ですか?」

エレンが訝しげにクエレブレさんに問いかける。

「どういう経緯で其方の元にこの力が宿ったか、そこまではさすがに私も分からぬ。時に力の強い精霊が気まぐれに人の赤子に宿る事もあるからな。」

クエレブレさんのこの言葉に僕は少し訝しさを覚えた。

「…この力を取り出す事は、可能ですか?」

「可能だがそれは其方の死を意味するぞ?」

クエレブレさんのハッキリとした物言いにエレンは絶句する。

『お前…もう少し優しく言えないのか…。また後でティアに怒られるぞ。』

クロがやれやれと頭を振った。

「むむっ…、そ、それは困るな…。だが事実だから仕方がない。エレンよ、其方はその力が嫌いかね?」

しどろもどろのクエレブレさんの質問に、エレンは微妙な表情をしながらも押し黙った。僕らは黙ってそのエレンの様子を見守る。

「…嫌い…と言われると微妙だけど…。」

ややあってエレンが口を開く。

「今は、少し、怖いと感じているの…。この前みたいに、みんなを傷つけてしまうんじゃないかって…。」

そう言うとエレンは俯いた。その背中をパズが大きな手でそっとさする。膝からは心配そうな顔のルビィがエレンの顔を見上げていた。

「優しい娘じゃの…。だが前回のその力の暴走は何も其方だけが原因では無いぞ。恐らくあの暴走は誘発されたものだ。」

『誘発?』

エレンの代わりにクエレブレさんに聞き返したのはクロだった。クエレブレさんははっきりと頷く。

「今あの人間の街、お前たちで言う所の王都、じゃったかな?あそこにはエレンと似たような力を持った者が入り込んでおるぞ。」

エレンがハッとなって顔を上げる。僕らは愕然としてクエレブレさんを見つめた。











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