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99.東の辺境

こぽこぽと小さな音を立てる小鍋の中に僕はいくつかのスパイスを入れていく。あたりに甘さと爽やかさが入り混じった不思議な香りが漂いだす。

隣の大鍋には今朝仕留めたばかりの鳥の肉と摘んできた食べられるきのこ類を煮込んでいた。そこに何種類かの香草を糸で束ねた物を放り込む。

「…本当に見事な手際だな。レオが一緒の旅で良かったよ。」

隣で座って僕の手元を見ていたアルがさっきから感心し続けている。

王都を出発して十日ほどが経った。最初のうちは街や村も多く、寝食に困る事はさほどなかったが、さすがにこのあたりまで来ると小さな村が点在しているだけ。僕らは昨日からこの旅初めての野宿をしている。

そこで僕とアルは、今日ばかりは朝の鍛錬を休んで食料の確保に乗り出したのだ。


「今いれた草の束は何なんだ?」

「あれは肉の臭みを取ってスープの香りづけをする物なんだ。あと消化を良くする薬効と毒消しの効果のある香草も混ぜてあるからお腹を下したりするのも防いでくれるよ。」

「え?毒消し…?もしかしてこのきのこ達って危ないやつ…?」

そう言ってアルがしかめっ面をする。

「まさか!ちゃんと食べれるやつだよ!でも慣れない環境で慣れない物を食べると、体が拒否反応を起こしてそれが毒だと錯覚する事があるんだ。だからちゃんと食べやすく、美味しく味付けするのって大切なんだよ。僕やアルは平気だと思うけど他のみんながね。」

「なるほどな…。体って不思議なもんだな…。」

アルはそう言って少し離れた所に立てた簡易テントを見やる。その中から気持ち良さそうないびきが微かに聞こえてくる。

「…俺ら以外にもう一人、平気そうな奴が居るけどな…。」

僕はそんなアルの言葉に苦笑いを返した。どうやらパズのいびきで昨日は良く寝れなかったらしい。

そんな時、かちゃりと音がして馬車の扉が開く。黒い影がするりと小さな隙間を通って地面に降り立つ。

『おはよう二人とも。』

続いて現れたのは旅用の軽装に身を包んだエレンとティアだった。

「ほぉはよぉ〜。」「おはよう、レオくん、アルくん。」

エレンは大欠伸をしながら、ティアは折り目正しく朝の挨拶をしてくる。

僕らは挨拶を返しながら、席を少しずつ詰めた。

「レオのくれたあの香油、凄いわね。まるで魔法よ。私、家より良く寝たんじゃないかしら?」

「それは良かった。『良い睡眠と良い食事に勝る薬は無い。』ってね。」

僕はそう言いながら三人に、丁寧に小鍋から漉した琥珀色の飲み物を渡す。熱いから気をつけてと口添えて。

「それ、ダラス先生の口癖じゃない?これは…?ミルクティーみたいだけど…。」

ティアがそう言ってふぅふぅ言いながら口をつける。

「まろやかなのに後味がとてもすっきりしてる…。」

「甘っ…くない?あれ?鼻がスーっとする!不思議な味!」

「うん!病みつきになりそうだな!」

三者三様の感想。性格が出るなぁと思う。

「クロはこっちをどうぞ。」

『うむ。すまんな。』

僕はクロ用に砂糖を入れず、しっかり冷ました物をクロの目の前に置く。どうやら猫舌というものは本当にあるらしい。

僕らがにこやかに朝の談笑をしているとテントの方からがさごそと音がして、パズが顔を覗かせた。

「あ〜!みんなだけずるいや〜!」

「寝坊する人が悪いのっ!さっさと顔を洗ってらっしゃい!」

エレンに一喝されてパズはもそもそとテントから這い出してくる。

こうして今日も僕らの旅の一日が始まった。




「地図によれば夕方には次の村に着けそうだね。今日は野宿しなくて済みそうだ。」

パズが明るい声を上げる。

「う〜ん…、変に硬いベットよりはこの馬車の方が寝心地良いのよね。それにレオのご飯も美味しいし、私、野宿も悪くないわ。」

「いや、僕は大変なんだけど…。」

エレンの勝手な一言に僕は苦笑いでそう返す。

「それもそうか。わがままでごめんね!」

そう言ってエレンがへへへと頭をかいた。いつもなら…、いいじゃない、たまには!とか、私が褒めてるんだから感謝しなさいよ!とか強気に来るところなのだが、最近はいつもこんな調子だ。


「エレンなりに皆んなに気を遣っているんだと思うの…。」


この前、ポツリとティアがこぼした言葉だ。

気にしなくて良いと個人的には思うのだが、何と声を掛ければいいのか分からなくて歯痒い。

それは他の皆も同じようで、今もエレンの愛想笑いのようなものに合わせて笑っているが、会話がなんだが上手く噛み合わない。

「…雨だな…。」

窓際のアルがポツリと呟いた。窓に小さな水滴が走る。そんな時だった、

「坊ちゃん、その…、次の村が見えてきたようなんですが、どうも様子が…。」

馭者座と中を仕切る窓が開いて一人の男が顔を覗かせる。いつもパズの身の回りの世話をしてくれる男だ。今回の旅にも唯一、同行してもらった人だ。何も言わずに僕らの世話をしてくれている。本当に感謝の一言しかない。

「どうしたの?何か見えたの?」

「いえ、煙みたいなものが上がってて…それもいくつも…。」

パズの質問に男が答えた。僕らは顔を見合わせる。誰の顔にも緊張と不安が見え隠れしていた。

「…一度、降りて確かめてみよう。馬車を止めてもらえますか?」

アルの提案に馬車がゆっくりとその動きを止めた。僕らは順に馬車から降りる。そこは小高い丘になっていて、遠くまで良く見渡せる場所だった。

「あそこか…さすがにこの距離では何が起きているのか分からないな…。」

アルが遠くを見るためにおでこに手を添えている。クロとアスールが何かを話すような素振りを見せると、アスールがばさりと羽ばたいて空へと舞い上がった。

『…パズ、すまないがアスールに偵察を頼んだ。今一番素早く安全に状況を確認出来るのは彼だからな…。』

硬い顔で、それでも頷き返すパズ。

「俺らも一旦馬車に戻って村へ向かってみよう。念の為、用心した方が良いな。」

僕はそう言ったアルへ頷き返すと、みんなより少しだけ早く馬車へ戻り、荷物からアルと自分の剣を取り出す。一本をアルへ渡した。剣を受け取るとアルの顔に心持ち緊張が走る。

「大丈夫さ。僕らは…、アルは、これの使い道を間違えたりしない。」

僕はアルの目を見てそう断言した。アルが小さく頷いた。




村へは三刻(三時間)と少し掛かった。アスールもなかなか帰ってこず。馬車の中では皆、口数が少なくなっていた。

『アスールから聞いた通りだな…。』

村の外で馬車を止め、僕とアル、そしてクロが村へと足を踏み入れる。僕とアルは何も言えずにあたりを見渡した。

家々は半壊、もしくは形を留めていない物が多く、黒い煙を上げている。ポツポツと降る小雨によって火は消し止められたのか、それとも燃やされて時間が経つのか…、素人目には判断がつかなかった。

『妙だな…。』

「僕もそう思う…。」

「妙も何も…この事態自体が妙じゃないか…。」

僕とクロの会話にアルが眉根を寄せている。それに僕は小さく首を振った。

「違うんだアル。僕が妙だと言ったのは、人が一人も居ない、どころか死体すら一つも無いんだ…。」

アルがハッとした顔であたりを見渡した。あたりには人影一つも無く静まり返っている。血のような黒いシミが道に落ちてはいるが、その血の主はどこにも見当たらない。

「野生の獣、例えば狼の群れや熊に襲われたりなんかした場合はこうはいかない。そもそもこんなに家が破壊されたり燃やされることもない。北の辺境では野生動物の被害が出る事もあるから良く知ってる…。」

『レオの言う通りだ。この惨状の跡には知性…、いや、意思を持った悪意を感じる…。』

僕とクロの言葉にアルが絶句している。

「それにまだ違和感があるんだ…、何か変だ…。」


ぶわぁん!!!!!


その時、僕らの後方、つまり馬車の方角で火の手が上がった。

「「なっ!!」」

驚く僕とアルを尻目にクロが黒い疾風となって駆け出した。







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