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9.パレード

(どうしてこうなった?)

俺はレオナードの鞄の中で憂鬱な気持ちでうずくまっていた。鞄の外からは大勢の人の声と時に大きな歓声や黄色い声が上がる事もある。

「クロは見なくていいの?」

レオナードが鞄の口を開けて覗き込む。

『興味がないし、人混みは嫌いだ。』

俺は素っ気なく答えて、また鞄の中で丸まった。しかしこの中は蒸し暑くて苛々する。だがどうしても表に出たくない理由があったのだ。


夏休みが始まってからしばらくして、レオナードとアーノルドは連れ立って街に出ていた。学園は王都の外れの森の中にあるため、普段はあまり街に出る機会も無い。そこでせっかくの夏休みを利用してお出かけというわけだ。俺は興味が無いから寮の部屋で寝てると言ったのだが、アーノルド曰く、この季節は街のあちらこちらで市が立ち、露店や出店も多く、珍しい物がたくさん見れるという。特に春先から夏にかけて取れた南方の野菜や果物が豊富で、またそれらとともに、タレに漬け込んだ肉を串に刺して炙った物がとにかく美味いらしい。店ごとによって味や特徴があるらしく、この季節の名物になってるという事だ。

昔、上の兄二人に連れられてお忍びで市を回った冒険が忘れられないと熱っぽく語っていたアーノルドと、その話で完全に浮き足立っているレオナードを見ていたら、心配になってしょうがなくついてきたのだ。しょうがなくな。


一際は大きな歓声が上がった。観衆の熱狂も最高潮というわけか。

「…あれが…の………で、真ん…に…いる……が、聖騎…………様だよ!」

大歓声に紛れて、アーノルドの興奮した声が途切れ途切れに聞こえてくる。

俺は鞄からつい小さく顔を出し、後悔してすぐに引っ込めた。

歓声と人垣の向こうには列をなして歩く一団。その中央には4頭の馬に引かれた大きな舞台の設えられた馬車がゆっくりと進んでいた。その中央に立ち、観衆に手を振っているのは紛れもなくあの、女聖騎士だった。


「いやー、凄い人混みだったね。僕、ちょっと疲れちゃった。」

「でも勇者様達の凱旋パレードを見れるなんて、凄い幸運だったな!」

場所は大通りから一つ入った、小さな通りに面した酒場。といってもこの時間は紅茶や、南方の珈琲という珍しい飲み物をだす喫茶店がわりのようなものだ。いわゆる喫茶店は今ではカフェなどと呼ばれ、華美な装飾や気取った気障なところも多いらしく、アーノルドが好かないという話でこういった庶民的な所に落ち着いたのだ。

俺はやっと蒸し風呂のような鞄から這い出ると水をペロペロと舐めて、テーブルの上にゴロンと突っ伏した。時刻は夕方前。陽もだいぶ傾き、涼しい風が吹いてくる。

レオナードとアーノルドは興奮冷めやらぬ様子で先ほどのパレードの話をしている。隣のテーブルも、またその隣のテーブルでも話は先ほどのパレードの事についてだ。特に女性三人のテーブルはきゃあきゃあと高い声で騒いでいる。

そんな店内で、カウンターに一番近いテーブルに腰掛け、昼からエールを煽っているらしい三人組はいささか様子が違った。薄暗くて顔色は伺えないが明らかに様子が暗いし、何か危なげな雰囲気を放っている。服装はごく普通の中流階級がよく着ていそうな服だが…。

俺は気になってなんとなく彼らの方を観察していた。賊の類ではなさそうだが何か起こしそうだ。

そうこう考えていると三人のうち一人がドンっとジョッキをテーブルに置いた。

「あー、勇者、勇者ってうるせぇなぁ…。」

そこまで大きな声ではなかったが、酒場全体に音と声が響き、一瞬でしんと静まり返る。だが三人は構わずに酒を煽り続けている。見ると一番うるさかった女性の三人組が、なにあれ…?といいながらそそくさと店を後にしていった。それにつられ、何組かが店を出て行く。

「女将さん、酒、お代わり。」

「あんたら、いい加減にしなよ。滅多な事言ってると捕まっちまうよ。」

「王国軍の俺らを王国軍が捕まえるってか?笑えるぜ。」

「まったく…。常連さんじゃなかったら叩き出してるとこだよ。」

「けっ…飲まなきゃやってられっかよ。」

なるほど、彼らの服装や雰囲気に半分は納得がいったがどうして王国軍が英雄となる勇者たちを罵っているのか?

見ればアーノルドもレオナードも恐る恐る、だが興味津々といった様子だ。


しばらくして三人組の一人が嗚咽を漏らし出した。周りの二人は気まずそうに顔をしかめている。さすがにこれには驚いたのか、女将さんがどうしたんだい??と優しく問いかけているが、嗚咽は収まりそうにない。

「…こいつの弟が死んじまったのさ。勇者様の遠征に連れてかれてよ。」

代わりに残りの二人のうち、一人が答えた。

「あんたら、同じ小隊だったんじゃないのかい?あんたらは行かなかったんかね?」

「いや、俺らも行ったさ。」

女将さんの質問にもう一人が答えた。

「俺らだってよ、いっぱしの兵士だから戦場に出るのは死を覚悟の上さな。だがよ、今回の遠征のやり方、ありゃ納得がいかねぇよ。」

「あぁ、こいつのいういう通りだ。あの大手振って帰って来やがった勇者様とやらはよ、確かに魔王を倒したかもしれない。だが、それ以外はなーんもしちゃくれなかったぜ。」

男どもは再びドンとジョッキを置く。感情が昂ぶってきたのか、声が大きくなり、話は止まらない。

「あいつら勇者様御一行はよ、五十人もいるんだぜ?なのに、魔王との決戦以外は一切、戦場に出ずに軍の一番後方に待機だ。」

あいつら、味方なはずの人間にまで御一行様呼ばわりされている。俺は少しだけ気が晴れた。

「魔王との決戦に備えて戦力の温存だとか抜かしてやがったがよ、だがよ、一番死人が出たのは()()()との戦いだ。つまり最前線の俺たち下っ端の兵隊が一番死んだんだよ。対してあいつらは魔王一人に五十人で挑んで、一人も死んじゃいねぇのさ。」

「しかもあいつらは王族でも軍の出身でもねぇ。殆どが教会がかき集めた連中だ。中にはただの元冒険者もいるって話じゃねぇか。勇者ってなんだ?俺らを守り、救ってくれる存在じゃねぇのか?なのにあいつらは俺らに守られて、お膳立てされて、んでもって手柄は全部あいつらのもんだ。納得いくかよ?」

「…じゃねぇ…。」

嗚咽を漏らしていた男が、絞り出すように声を上げた。仲間の二人が顔を覗き込む。

「…俺らは…弟は…使い捨ての駒か…?ふざけんじゃねぇ…。」

さすがにこの言葉には周りも何も言えなくなったようだ。仲間の男二人さえ黙り込んで酒を飲み始めた。

レオナードとアーノルドの二人もただ黙りこくっている。長い時間、酒場を沈黙が支配していった。




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