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神託の悲劇【1】

転生前の異世界グランスフィアでのお話しです。


ある王都の、貴族街と平民街の間にある神殿から1人のシスターが城に向かい、大通りの人混みの中を駆け抜けていた。


タッタッタッタッ!!


ドン!! ボトッ…


「す、すいません!!」

「………」


シスターとぶつかった者の手から何かが落ちていた。


「あ…そ、それ…どうしよどうしよッ!!私お財布なんか…しかもこんな時にッ!!」

「はぁ…何て事だ…私の串焼きが…。君、一体どうしてくれるんだ?」

「本当にごめんなさいッ!!でも今は…。」

「…ん、良く見たらおっちょこシスターか」

「…あッメイビス様!!?…何故こんな所に!!!」

「何故って、貴族共の相手が退屈だから抜け出したまでさ…。お前こそこんな時間に何をしてる…神殿行事は良いのか?」

「そ、それが緊急事態でして大事なお話しを…」

「緊急事態ね…なら私にも聞かせてよ、串焼きのかわりにさ」

「いえ…流石にそれは…」

「なら、今直ぐ串焼きをよこしなさい、今直ぐだ」

「う~私急いでるのに…。お財布取りに戻るよりは、話した方が早いか…!!でも此処じゃ…」

「なんだ、あまり聞かれたくないのか?ならば…」


地面を突く途端、たちまち周囲の雑音が消え出した。


「これで良い、さぁ話して貰おう」


こうなれば断りきれない

シスターは、メイビスと呼ばれた女に小さく話し出す。その必要は無いのだが、折角なので耳を寄せて聞く女で有ったが、クールな表情が徐々に形を変え、信じられない と驚きの(まなこ)を露わにした。


「それは本当か!?次の神託まで随分先の筈だぞ!?」

「えぇ、はい…。ですが…【叡知の義】が行われてる最中、祭壇に居た巫に突然神降ろしを受け、その時聖杯に触れていた子供へと告げておりました…」

「バカな!!そんな神託聞いたこと無いぞ!?その子供は特定出来ているのか?」

「はい、あの忌まわしき伯爵の子供で御座います」

「っな、よりにもよってアルカードの…この事は誰かに伝えたか?」

「いえ、まだ誰にも…。これからお城へ伝えに行く所でして…」

「そう言う事か…。ふむ、ならそれで良い。君には悪いが、今すぐその母子を連れ出し逃げる準備をしろと伝えろ!神託が降りた以上直ぐにバレる、今ならまだ動きやすい筈だ。それと私の兵を持っていけ。アッシュ、カイン、このシスターに付いて行き、母子の保護が出来次第フォレンの町まで逃がす手助けをしてやってくれ。それと、その鎧は脱いでいけ。顔が割れたらお終いだぞ…良いな?」


((「ハイッ!!」))


「シスター、彼等を母子の元まで案内を頼む」ドス


女は、自らの護衛をシスターに就け、逃がす為に必要となる金袋を握らせた。


「私はやる事がある。一緒には行けないが、後から追いかける。二人は町に到着次第帰ってこい。見つかると厄介だからな、見繕って街を出ろ!以上だっすぐ行け!!」


迫力に背中を押された様に駆けだすシスターと護衛、女も自らの向かうべき場所へと走り出す。

向かった先は、この国を護る聖騎士達の拠点。女は又しても声を張る。


「おい、!!クリフはまだ居るか!任務に出て行って無いだろうな!!?」


拠点の敷地外を巡回する巡回兵に問いかけた。


「め、メイビス様!!?クリフ副団長なら聖騎士団本部の執務室で籠っている筈かと…ッ!!」

「執務室か、よし分かった。これから城の使いが来るはずだ、持て成しの準備をしておけと団長に言っておけ」

「は、はい…」


女はそう言うと颯爽と門をくぐり敷地の茂みを横切り、本部の一部にある二階テラスの真下で息を整えた。そして女は小さく呟く。


「頼むシルフ…」


女の足元から、浮き上がる様に風が舞い上がった。


「お、おい…テラスに人影が…」

「アルカードーッ!!いくら書類が仕事したくないからって子供見たいな冗談はよせッ!!ココは2階だぞッ!?付くならもっとマシな物にしろッ!!」


開放されたテラスのガラス扉を背に、椅子に座る大男が叫ぶ。その背後から首筋を撫でる様に風が流れ混み、椅子に座る大男が首を振り向いた。


「やぁやぁクリフ。冗談みたいな登場で悪かったねぇ…」

「め、メイビス様、何故ここへ…」


大男は凍り付いた表情で女を見つめて居た。


「すまんクリフ、急用だ。アルカードを今すぐ国から逃がす。だから口裏を会わせておくれ」

「いきなり来たと思えば急に何言ってんだ!?何があった!!」

「アルカード、余り会話している暇は無いんだがな…。噛み砕くとお前の娘に神託が下された。お前の妻と娘には護衛をつけて屋敷へと向かわせた所だ。後はお前だけ」

「あ、アルカードてめぇ…」

「よせクリフ、私の友人でもある。兎に角、急いで城をでるぞ。クリフ…隠し通路くらい流石にあるよな?今直ぐ案内しろ。それと『アルカードは来て早々、娘の晴れ舞台を観に執務を放棄した』、とでも報告しておけ」

「おいおい簡便してくれよ…それじゃ俺が監督責任で…」

「良いから早く案内しろ…城が血の海に成る前にな」

「どっちにしたって俺の徳には成らないってかッ!!仕方ない…付いて来いアルカード」

「お、おう…すまんなメイビス、わざわざ…」

「逃げ切れてからにしろ…今は娘の心配でもしておけ」

「そう…だな…」

「おい、こっちだ」


どうにでも成れと言わんばかりに話をすすめられた大男クリフは、二人を隠し通路へと案内する。

しかしその通路とはとても通路と呼べる物では無かった。


ガガガガガッドスン…


「おいおい正気かよ…」

「何処に繋がる」

「これは只の下水だ。ここから貴族街の水路に出れ、そのまま平民街の地下水路まで行ける筈だ」

「随分ガバガバだな…大丈夫かこの拠点は…。まぁ私は先程きたばかりだ、居なくなったら不自然なのでここまでだ」

「はぁ!?本気かよ!!俺一人でコレを通…」

「時間ないんだ、ほれ行って来いッ!!フォレンで合流だ」ドカ



――― 「うぁぁぁぁぁぁぁ!!?」 ―――



縦穴を覗くアルカードと呼ばれた男の尻を、押し出す様に蹴り落とした。



「思ったより深かそうだな」

「只の下水だからな…」

「…まぁアイツなら大丈夫だろ、お前達とは半分違うからな」

「っ……」

「クリフ…後は任せたよ。私は行ってくる」

「お気を付けて」

「お前もな」


「さて…このまま大人しく逃がしてくれると良いのだが…私も早く追うとしよう」




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