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始まりの光【終】




異世界へ行く為に、お爺さんが出現させたゲートと呼ばれる黒く渦巻く入口に飛び込んだ真弓は、不思議な空間へと放り出されていた。


シュウンシュウンシュウンシュウンッ!!シュポンッ!!


ドテンッ!!

『うぐぐッ…れ、レディを頭から放り出しますかね…』

シュポンッ!!ボトンッ!!

『え…?あ、そう言えば私、箱持って行くの忘れてましたよッ!!助かりますお爺さんッ!!』

シュポンッ!!ボトンッ!!

『え?箱って一つだけだった様な…』

シュポンッ!!ボトンッ!!ボトンッ!!

『え?な…えぇ!?合計4箱!?もうないよね?』


『…』


『うん、無いね…それにしても此処どこ?私はてっきり異世界へと直通するものかと思ったけど、先ほどの絶景から大気圏を取り払った様な…完全に宇宙の様な空間に来てる件』


真弓は他の箱が出ないか暫く待機した後、今いる空間を見回していた。異世界直通だと思われたが、その場所は先ほど真弓が居た場所と大して変わらない場所であった。ただ違うとすれば、足元に地球の様な大気圏が広がっているのでなく、細長い光の線路が何処までも前方に伸びている事である。


『見えない道よりマシだけど…ちょっと遠くないですかね。ダンボールが4箱だよ?こんなに持ち運べないよ…取りあえず中身確かめて必要な者だけに絞ってみようかな…うんしょッ』


真弓は最初に出て来た箱を手に取り中身をあさり出した。


『これ確か、私に見合う物って言ってたよね。勇者の装備ってことよねッ!!ワクワクしてきた…』ガサゴソ



…短い剣 ダンボール製…

…短い杖 ただの木の棒に葉が付いてる…

…小さな弓 凄く綺麗だけど弦が無い…

…小さな盾 これもダンボール製…


…指輪 透明なプラスチック製かな?…

…腕輪 ミサンガだね…

…首輪 鈴付いてるけど…

…足飾り リボン見たいでオシャレかも…

…髪飾り 髪の毛止めるパッチンピンだね…



『なにこれ酷ッ…勇者なめてんの?私の勇者なめてんのッ!?剣と盾がダンボールってなによッ!!杖の方が強そうじゃないッ!!装飾品もこれ…安物も良い所ですよッ!!もっとこう…宝石が散りばめられた金銀輝く高価な物でしょうにッ!!あのクソ爺ッ許すまじッ!!』


勇者には程遠い強さを感じられない安物を渡され、真弓は自分の描く勇者像を侮辱された気分になっていた。しかし箱にまだ一枚の紙が置かれていた。真弓はそれを手に取り読み上げた。


『ん、何これ…【この箱のここを空ける】…ん、この箱の横ね…うん』ズボッ

『【この箱のここも空ける】…ここもね…』ズボッ

『【上下の蓋を開いて体に通し、両側にそれぞれ腕を入れる】…ふむふむ…こうかな?』ガサガサッ!!スポッ!!

『【それで勇者セットの完成じゃッ!!】』


スポッ!!ガサッ!!ドゴンッ!!

『…』バコンッ!!バコンッ!!バコンッ!!


真弓は紙に書かれた文字に従い、上下、両サイドを開通させ被って見せた。それが鎧だと知り、即座に脱ぎ捨て両手で掴み、上から地面へと無言無表情で叩きつけていた。


『信じられない…収納していた箱その物が鎧だなんてッ!!しかもこれ全部が勇者セットとかッ!!どうみても子供のオモチャじゃないッ!!何が【お主に見合う物】よ』バンッ!!


園児服を着こなす真弓だが、お爺さんのその発言の意図を掴めないで居た。


『この【ダンボールもとい勇者の鎧】が一番舐め腐ってますよ…見てるだけで反吐が出ますね…この箱に仕舞い直すの嫌に成ってきましたよ…。あ、そう言えば私、園児ポーチがありましたね…アクセサリだけポーチに仕舞って置いておこうかな…』シュルッパカッ!!


真弓は、お爺さんに何故か持たされた肩掛け園児ポーチを肩から降ろし、中を見開いた。すると…


『私、眼が可笑しいのかな…この鞄の底、見えないんですけど…入れちゃって大丈夫なの?そうだ、あの箱で試そうッ!!取り出せなくなっても問題ないしねッ!!むしろ清々するしッ!!』


そう言って真弓は力強く【ダンボールもとい勇者の鎧】を握り、明らかに開き口の足りないポーチへと勢い良く押し詰めた。その動作はパンチを喰らわす様に。


『フハハッ!!私の勇者を侮辱した罪は重いぞッ!!ペチャンコにしてやるッ!!』スンッ!!


シュポンッ!!

『ヒェェッ!?…う、う、う、う…腕がぁぁぁあッ!!』


スンッ!!シュポンッ!!


鞄に向けて殴打を繰り返すつもりの真弓だったが思わぬ事態にマヌケな声が出てしまって居た。なんと、勢いに任せた腕がダンボール諸共ポーチの口の中へと入り込んでしまっていたのだ。全くの抵抗力を見せなかったその事態に真弓は腕を持って行かれたと思ったほどに…

しかしその驚きも直ぐに解消されてしまう。


『あ、あれ?腕がある…うん、何ともない…。でも驚いてダンボールから手を放しちゃったよ…まさかあの大きさを呑み込むなんて…』


慌てて腕を引き抜いた真弓であったが、何事も無く腕が引き抜かれ、ダンボールだけが無くなっていた。


『これもしかして案外安全かも?た、試しますか…』ぶるぶるぶるッ


スッ!!シュポンッ!!スッ!!シュポンッ!!

『こ、これはッ!!安全ッ!!でもダンボールがあるようなガサ付く感じが一切なかったけど…ダンボールどこですかーッ!!…ん?手のひらに張り付くような違和感が…』ガサゴソッ!!


シュポンッ!!ボトンッ!!

『握ったつもり無かったのに…腕を抜いたら出てきましたよッ!!これは凄いッ!!待ってこれ、凄いんじゃないかなッ!!きっとこれなら、他のも入れれて取り出せるよッ!!』


ガササッ!!シュポンッ!!ガササッ!!シュポンッ!!


真弓は育児用のオモチャを手にした様に、勇者セットを入れては戻しを繰り返し燥いでいた。


『やっぱりコレ凄いかもッ!!念じれば取り出せるし、見た目以上に物が入るッ!!と言う事は他のダンボールもッ!!うんしょッ!!うんしょッ!!』


シュポンッ!!シュポンッ!!シュポンッ!!


『こ、これで運ぶ事なく前に進めますよッ!!これは凄いですッ!!確かに勇者には必要な物かもしれませんッ!!勇者セットより勇者してますよッ!!私、勇者の階段上ってますよッ!!さて、ちゃちゃっと異世界へ向かい勇者しますよッ!!』


真弓の予想通り、残りのダンボール3箱も何事も無く園児ポーチに収まってしまった。

その感動と謎の勇者像によりテンションの上がった真弓は、意気揚々と宇宙の線路を歩きだした。


『進んでも同じ風景で分かり難かったですが、この線路と同じような光の線が周りからも見えてますね…てっきり銀河なのかと思ってました…』


真弓は、同じ様に見える線路を黙々と進むうちに、何本もの光の線路が両脇から見え始め、それは真弓が向かっている光の先へと束の様に繋がっていた。


『淡く光る球体が私と同じ様に進んでますよッ!?多分あれが魂だよね…これが輪廻の環って事かな?身体に帰る道っていってたもんね。そしてあの束の先が異世界って事だよねッ!!』


死んでは宿る。その循環を今見ているのだと真弓は感じ取った。そしてこの先で待つ異世界に胸が躍り真弓の歩幅が上がって行った。暫くして光の束が集まる収束点に到着する。


『何これ…ゲートの改札所?でも私の所、門が閉まってますよ?これ開けれないかな…ンググーッ!!』


グイッグイッ!!グイッグイッ!!

『だ、駄目だ開かないッ!!ンググーッ!!もしかして私、詰んだ?クソ―ッ!!ンググーッ!!』


到着したその場所ではそれぞれの線路に開いた門が配置されて居て、次々と魂達が呑み込まれていた。しかし真弓の線路にある門は閉ざされ異世界を目の前に立ち往生をくらっていた。その頃、その門の裏側で…


グォォォォン…タッタッ!!

《ふぁぁ…これでサボれる…》


――― ドンッ!!痛いッ!!ドンッ!!痛いッ!! ―――


《え、嘘でしょ…向こう側で音が聞こえるんだが…やめてくれよ本当にぃ…》


テトテトテト…チラッ!!


『ぐふぁッ!!ここも見えない壁だと…。見えない道は…隠し通路はないのかぁぁッ!!異世界は直ぐ其処なに~ッ!!』


《うわぁ…まさか僕が当たりを引くとは…。絶対居なくて楽な場所選んだのになぁ…。それにしても…何やってるんだろあの娘…さっさと逃げれば良いものを…》ソソーッ…


テトテトテト…ごつんッ!!グイグイッごつんッ!!グイグイッごつんッ!!

『ここですかぁッ!!痛いッ!!ならここですかぁッ!!痛いッ!!』


真弓が到着した頃に門の反対側でも誰かが現れていた。来て早々に謎の音に吊られたその者は、閉まり切った門の向こう側で真弓がいる正面側を門の角から覗き見て居た。いつまでも続く怪奇行動に溜まらなくなったその者は、つい声を掛けてしまっていた。


ドンッ!!痛いッ!!ドンッ!!痛いッ!!

《ねぇ君…そこで何をしてるんだい?そんな事してる暇ないと思うけどなぁ…》

『何って門が閉まってるから…こうして…横から抜け道を探しているに決まって…いるでしょッ!!』ゴツンッ!!ゴツンッ!!

《へぇ…って君、この門に入りに来たの?》

『当たり前ですッ!!…私はですねッ!!…この門の向こうの世界に行く為に…こうして道を探して居る…のですよッ!!』ゴツンッ!!ゴツンッ!!

《ソイツは驚いたッ…でも君、それは無理だよ?》


――― 『何でよッ!!』 ―――


ヒョイッ!!


《何でって言われてもねぇ…。そういう作りだからとしか答えようが無いけどなぁ。そもそも抜け道なんか在ったら世界バランスが可笑しくなっちゃうと思うな…まぁその辺は僕の管轄外だけどねぇ…ッてあれ?どうしたの君、固まっちゃって》


ガクガクガクガクッ!!

『だ、だだ、だ…誰ッ!?』

《えぇ…凄い今更だねぇ…もしかして今僕に気が付いたの!?》

『…』コクリ

《アホだねぇ…まぁいつまでも壁に激突してたらアホには成るのかもねぇ…》

『う、うううるさいですねッ!!門が空いてないのが悪いのですよッ!!』

《門か…門を開けてあげても良いけど》

『えッ!?開けれるのッ!?』

《まぁ一応ねぇ…ただ勝手に開けて誰だか分からない魂送り込むと僕が怒られるんだよねぇ…君が何者かをしっかり教えてくれたら考えてあげてもいいよ?》

『良いですよッ!!なんでも聞いて下さいッ!!なんでも答えますからッ!!』

《ふむそうか…ならスリーサイズは?》


『ふぇッ!?』


《スリーサイズ》


『馬鹿なの?』


《なんでも答えるんでしょッ!?》


――― 『ふぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』 ―――


《まぁ冗談だけどぉ》キヒヒッ!!

『ばばばバストはろろろく…』

《あぁぁぁ!!僕が悪かったからッ!!今の無しだよッ!!君は何処から来たのかなーッ!!さぁ答えて答えてッ!!》

『ふはッ!?じょじょ、冗談にも良いものと悪いモノがあるのですよッ!!危うく言うところでしたよッ!!うがぁぁぁぁッ!!』

《う、うんまぁ…ほぼ言ったようなモノだけどねぇ…》ボソッ…

『ん?なにか?』

《いえ、何も?それで何処から来たのか分かる?迷子なのかな?》ポンポンッ!!

『それ、この格好みてやってますよね?絶対そうですよね…』

《さて、何のことか…》

『ぐぬぬ…私はこの線路から来ましたよ』

《いやぁ…それは解るんだけど…君ぃ、この先は行き止まりだよ?門を開けてないからねぇ。輪廻の環じゃ絶対これないんだけど》

『え、あぁ…私、お爺さんの家からゲートとやらでこの線路に来たんですよ…』

《お爺さん…どんなお爺さんだったかな?頭に角ついてた?それともオールバックの白髪爺だった?》

『んーどれも違いますね…ステテコパンツと白いボロタンクトップを着て白い顎鬚生やした変態爺でした』

《なッ…!!嘘だろ…あのジジイが…コチラ側に人を寄こすだと…有り得んッ!!》

『そんな事言われてもねぇ…異世界に行くしか助からないって言われてから勇者になる代わりにコッチに来ただけですからね…』

《異世界で助かる?どういう事だ…まさかコイツ乖離者か?…だがどうして此処で勇者なんだ…》ぶつくさ…

『あの~?どうかしましたか?』

《君ぃ、本当に勇者に成るつもりで来たのか?》

『そりゃー勿論ですよッ!!その為のアイテムも持ってきましたからねッ!!』エッヘンッ!!

《な…持ってる様には見えんが…。有るならそのアイテムとやらを僕に見せておくれ》

『まぁ良いですよ…はいッ』ガサゴソッシュポンッ!!

《収納ボックスだと!?それに何だそのガラクタは…》

『あぁ、やっぱりガラクタなんですか…勇者セットらしいですが…』


《勇者セット…プロトタイプ!!?成る程、あのジジイなら持ってても可笑しく無いか…ふむ、だが何故コイツに…規制中の筈だが…しかし、あのジジイが動いたと言う事は何かが起きると言う事だけは確かだ…なら行かせても大丈夫か…ここで止めれば僕が消され兼ねんしなぁ…》ぶつぶつ…ぶつぶつ…


『あの~えっとそれで?』

《おっとごめんねぇ…そうだねぇ、僕は君をイかせる事にするよ…》


テトテトテト…ギギギギッッ!!ガタンッ!!


『ほッ!!本当に開けてくれたッ!?行って良いって事ですよねッ!!』

《まぁそうなるかな、ただ…》

『どうなる事かとッ!!これで私、勇者に成れるよッ!!よーしッ!!早い事仕舞ってレッツゴーゥ!!』シュポンッ!!

《き、君ぃ?》


タッタッタッタッ!!

『ふんふふんっふふーんッ♪ありがとうお兄さんッ!!それでは行ってきますッ!!てぃッ!!』ピョンッ!!


バチバチッ!!ブォンッ!!


――― 『キャァッ!!』 ―――


ドテンッ!!

『痛った…なに…?』

《話は最後まで聞こうよぉ…呆れた》

『話し?何か言ってたの?』

《あのねぇ…まぁいいか、この門は魂の扉なの、行っちゃえば魂しか通れない。この意味わかる?》

『え?私、魂だよね?あれ、もしかして私魂じゃないの!?』

《分かってない様だね…君が今着て居るモノは何?魂?それとも物?その鞄は?》


…え、服とか鞄って言ったら物質だよね…


『魂じゃないですね…もしかしてこれが原因ですか?』

《そうだねぇ…君ぃ、目を開けた時、どんな格好してた?》


…目を開けたときって…絶景だったよね…格好というと…あッ!!…


『私…あの変態爺と裸でお茶して裸だと気が付いたんでした…』

《それは御気の毒に…まぁそういう事だよぉ。この門を通りたいなら生まれたままの姿でなくちゃ駄目って事だね》キヒヒッ!!

『要するに私にここで脱げって言う事ですかッ!!』

《そうなるねぇ…》

《私そんなはしたない女じゃないですよッ!!男の人の前で服を脱ぐなんてッ!!》

《あのね…裸でジジイとお茶してた奴が言う台詞じゃないの分かってる?もう手遅れだから諦めて脱ぎなさい》

『何て事だ…私の選択しがここに来てからと言うモノ殆ど無いではないかッ!!…』

《ならここにずっと居ると言い…僕は帰るけどね》

『ちょッ!!私も連れてってよッ!!』

《無理無理…君ぃ、肉体が無いんだよ?来れる訳無いじゃない…大人しく裸で潜って早く依代となる身体見つけなさい…》

『うぐぐ…こんな私、なんで辱めを受けてばかりなの…裸でお茶して、日記は見られて…またしても裸を…早く異世界行きたいですよッ!!』

《そうだね…じゃあ早く脱ごうかッ!!》キヒヒッ!!

『その台詞とその笑い方…最悪です…。何とかならないのですかその笑い方と笑みは…。はぁ私の勇者への道には必要な事…そう…必要な事…』ガサガサッ

《やっと脱ぐきになったかぁ…面倒だねぇ君》

『相手が殿方じゃなければこんなに迷う事ないのですよッ!!黙って向こう向いてくださいッ!!』シュルルッ!!バサッ!!

《はいはい…》


異世界の門は魂しか潜れない事を知らされた真弓は、渋々服を脱ぎだした。裸になった真弓は衣類をポーチへと仕舞っていると有る事に気が付く。


『ねぇ…もしかして私の勇者セットって持ち込めないの?』

《おや、すっかり忘れていたよ。確かにそのままだと置いて行くしかないね…君ぃ勇者になるんでしょ?ジジイに魔力貰わなかったかな?》

『魔力?…あーそう言えばオデコに何か流し込まれた様な…』

《そうか…なら大丈夫か…魔蔵空間(ストレージ)でも唱えてもらおうかな》

『す、すとれーじ?何ですかそれ…』

《勇者に備えられた力の一つだよぉ。魔法の様な物さ。》

『ま、魔法ッ!!良いですねッ!!勇者っぽいですッ!!それでどんな魔法なんですか?』

《物を何処からでも自在に取り出し、収納が出来る魔法さ。その鞄の上位版だね。但し、持ち運べる容量は使用者の魔力量によって変わって来る。魔力が多ければ多く仕舞えると言う事さ》

『じゃあ私がその魔法を唱えて鞄を仕舞えれば成功と言う事ですねッ!!そして私は異世界へッ!!』

《そういう事になるねぇ。さて、収納鞄から物を取り出した様にストレージと唱えてみなさい》

『はいッ!!』


…鞄を仕舞え…鞄を仕舞え…鞄を仕舞え…鞄を仕舞えッ!!…


魔蔵空間(ストレージ)ッ!!』


プシュッ…


『失敗ですかね…もう一度やってみますッ!!』

《この反応は…》

魔蔵空間(ストレージ)ッ!!』プシュッ


真弓はストレージと幾度も無く唱え続けたが園児ポーチを格納する事が出来ないでいた。


『だ、駄目です…コツでも有るのかな…正直念じてるだけなのでそれが正解なのか分からないですよ…』

《一つ聞くが、本当に魔力を貰ったのだな?》

『え?えぇ…まぁ魔力を揚げたと言って居ましたし…ただ上手く注げぬ…とか鈍ったかのうとか…怪しい事はいってましね…もしかして失敗してたとか!?』

《あのジジイが失敗…無いだろう…だがこの反応は明らかに…。君、すこし恐怖に溺れるかもしれんが、目を開けたまま我慢してもらえるかな?》

『何を言ってるのか分からないのですが…恐怖に溺れるって…』

《んーまぁ良い…僕の眼を見てジッとしてくれれば良いよ…》

『嫌ですよッ!!私裸なんですよッ!!』

《僕は君の身体になんか興味ないのだよ…》

『それはどういう意味ですかッ!!』

《あーもう面倒だなぁ…そんなんじゃいつまで立っても終わらないよ?折角協力してあげてるってのに…僕このまま帰っちゃおうかなぁ…》キヒヒッ!!

『わ、わわ分かりましたよッ!!目を見れば良いんでしょッ!!はいッ!!』ササッ!!

《分かれば宜しい…ただ隠す必要は別にないけどね…》

『目を見るだけで良いのでしょッ!!隠すくらいさせて下さいッ!!恥ずかしいんですよッ!!』

《分かった分かった…それでは行くぞ…》パチィ…カッ!!


グォォォォンッ!!


真弓に眼を見つめる様に言いつけたその者は、ゆっくりと目を瞑り、次の瞬間力強く両目を見開いた。その両目は真っ黒に染め上げ、赤と白の瞳が不気味さを際立たせていた。


《グッくそッ!!やられたッ!!あの糞ジジイめ…そういう事ね…》ポタッポタッ

『ち、血が出てますよッ!?』

《大丈夫…よくある事だから…それより僕にはやる事が出来た、嫌でも協力してもらうよぉ…》

『な、なんですかそれ…強制ですかッ…』

《あぁそうだ、悪いけど君には僕の眼を使って異世界に行ってもらう事にする》

『元々何としてでも行くつもりですが、ちょっと意味が…』

《君は今、ある筈の魔力蔵が尽きかけていて魔力を貯める事が出来ない状態にある。だから僕の眼を君に授け別の魔力蔵を用意する。君は僕の左眼が蓄える莫大魔力を手にし、その魔力でストレージを唱え、異世界へと渡って貰うよ》

『物凄い移住プランが立てられましたけど…そんな事して良いのかな?左眼を授けるとか言われても怖いし、痛そうだし…そもそも私にそこまでする必要有るんですか?』

《有るから無理にでもやらせてもらうのよ…君に拒否権は無いよ。分かっなら今すぐ取り掛かるよ?》

『全然納得出来ないのですがッ!!でも拒否権ないならやるしかないんでしょッ!!それで異世界行けるなら本望ですよッ!!』

《思ったより聞き分けが良いね…力ずくでやるつもりだったんだけどね…》キヒヒッ!!

『そういう事を言うから拒絶したくなるのですよ?恐いので早く済ませて下さい…』

《キヒヒッ!!分かった、ただその後が問題だよ?君に僕の眼が移植されたら莫大な魔力量によって魔力酔いを起こすかもしれない…それに制御も出来ないかも知れない…転生後の注意も有る。簡単に言うと身体が魔力に耐えきれず死ぬかもしれないと言う事。器の大きい転生先に出会える事を祈るだけだ》

《全て問題無し。私は勇者になる為に来たの、命欲しさに妥協して勇者になれないのなら死んだも同じですよッ!!私は鞄を収納して見事転生して見せますッ!!》

《っふッ!!なら目を瞑りなさい。合図が出たら急いで唱え、鞄を仕舞えたら門を来るのです。それでは行きますよ》ササッ

『はいッ!!』パチッ!!ピタ…


真弓は勇者として異世界へ向かう為、死ぬ覚悟を決め深く目を閉じた。男はそれを確認すると、真弓の左眼を覆うように手が被さり、じわじわと熱を感じ始めた。そしてその熱は突然燃える様な熱さに変わり眼球から脳にかけて激痛が走った。


『うッ!!』ギギギッ!!


ユサユサッ!!


真弓は肩を揺すられ眼を開いた。右目には血の涙を流す男の顔が…左眼には何が何だか分からない歪み切った世界が映し出されていた。それはもう目としては機能しておらず、ただ苦痛を与える顔のパーツでしか無くなっていた。


《さぁ急いでッ!!意識が有る内にッ!!》


痛みに耐える事で精一杯な真弓は、男の声など聴く余裕が無かった。しかしやる事は分かって居る。真弓はポーチに手をかけ、唱えた。


魔蔵空間(ストレージ)ッ!!ポーチッ!!』


シュポンッ!!


手元の嵩張る感覚が無く成り、ポーチが消えた事を直観で感じた真弓はふら付きながら門へと向かう。しかしその手前で力尽きてしまった。頭から倒れゆく真弓を咄嗟に支えた男は、そのまま抱き抱え、腕を門に潜らせ川に流すように優しく手を離した。こうして真弓は、渦に巻かれ静かにあの世を去った。


《あのジジイ、知ってて魔族門に送り込んだな…危うく僕が乗っ取られる所だったよ…。それにしても代償がデカ過ぎる…僕、このままサイスやっていけるかな…あーッ!!楽をしに来るんじゃなかったッ!!》


グォォォォン…シュポンッ!!


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