琴美 〜ロシアンルーレット編〜
短編のシリーズものです。
よかったら、悪魔のクロワッサン編からどーぞっ。
母が買ってきた豆苗を切った後、私にいった。
「これ、また水につけてたら生えてくるんだってよ!永久機関だ!」
永久機関なんてどこで覚えたんだ。そして豆苗に使うのは合っているのか?
なんて思っていたのは一週間前。
今となってはぐんぐん育つ豆苗が我が子のようにかわいかった。
そのことを琴美に話すと
「私も何か育てたい」と言って携帯をぽちぽちした。ネット注文か。私は毎回ログインのパスを忘れるので、購入したことがないな。
「何にするの?同じ豆苗?それとも他の植物?」
「他の!」
琴美は元気に言った。
その時携帯の画面が少し見えたのだが、ほぼ真っ黒のサイトらしかった。
いまどき正規の通販サイトで、背景が黒なんてあるのだろうか。
購買意欲が落ちるんじゃないか?
嫌な予感ばかり。
すると琴美の携帯が鳴った。
「あ、もう家に届いたってさ、早くいこ!」
あぁ、嫌な予感しかしない。
その早さはおかしい。
琴美の家についたが、親はおらず、玄関にダンボールもなかった。
「あれ?なくない?」私が琴美に聞くと
「直達だから!」と言って急いで二階の自室に駆け上がっている。
私も負けまいと、琴美を追いかけながら聞いた。
「直達ってなによ?」
「直接部屋に配達だよ!あかり知らないの?」
知らぬよ。それは不法侵入じゃないのかい。
「玄関開けっぱなの?」
「違うよ!天井から降りてくるから!」
降りてくるってなんだ。そのニュアンスだと守護霊とかと同じ部類になるぞ。
そして長い。
二階のはずなのになんでまだ着かないの?
この会話の間ずっと階段を登っている。
「琴美、なんか階段おかしくない?」
私が聞くと
「ごめん、タンス人地獄に送った時最後の悪足掻きされたの。私を二階から出れないように呪いかけようとしてきて」
「でも大丈夫、完璧にはくらってないから、階段伸びたけど辿りはつける!」
呪いとはこうもアバウトなものなのか。
「タンス人は結局、地獄の生き物だったってこと?」
「違うと思う。とりあえず地獄に送っとけばいいかなって」
地元じゃないんか。そりゃタンス男も呪いかけるよ。
それに地獄じゃ焦るわ。
「見てこれ!みーてーこぉーれぇーっ」
琴美はダンボールを開け、中を見せてきた。
植木鉢に人参みたいなのが刺さっている。
「何それ?人参ぽいけど、人参であってはくれないんでしょ?」
「うん、人参であってはくれない」
琴美はそう言うとベッドの下から、映画で魔法使いが持っているような古く分厚い本を取り出した。
もちろん日本語で書いてはいない。
あと、その時ベッドのしたで何かがヒュッと動いたのが見えた。
確実に形がおかしかった。
見なかったことにした。
その本のあるページを開いて、私に見せてきた。
「聞いたことある?マ、ン、ド、ラ、ゴ、ルァァッ」
最後の巻き舌が気になったが、その言葉は聞いたことがある。
「確か、なんか引っこ抜いたら叫ぶ植物で、その声を聞いたらなんかなるんだっけ?」
「ご名答。さすがあかり、わたしと過ごして成長したわね?」
「いや、たまたまなんかの映画で見ただけだから」
「そーですかい」
そう言うと琴美はわたしとの間に、マンドラゴラの植木鉢を置いてさらにこう言った。
「みなさんお待ちかね、マンドラゴラロシアンルーレットォ!」
琴美の拍手がむなしく部屋に響いている。
わたしは光の速さで自分のバックを掴み、出口に向かって走り出した。
しかし
ベッドの下から何か触手のようなものが飛び出し、わたしの足を掴んだ。
よかった、ヌメッとはしていない。
いやしかし困った。
やっぱりさっきのは見間違いじゃなかったか。まさかここで、こういった形で再開を果たすとは。
できればそのまま音信不通であってほしかった。
「琴美さーん。明らかに得体の知れない何かが私の足を掴んでるんですがー。そちらの対処をお願いしたい」
「あかりが逃げるのが悪い」
「いやいや、琴美の口からロシアンルーレットと出た時点で、それは命の危機を感じざるおえないわけで、これは妥当な判断であったと、私の脳は弁解しております。
私は自分の脳に従っただけです」
「なんでよ、バラエティでもあるじゃない。からし入りシューロシアンとか!それのマンドラゴラバージョンよ」
シュークリームとマンドラゴラは一緒じゃない気がする。
「そーだ、マンドラゴラって声聞いたらどうなるんだっけ?」
「たぶん精神に異常をきたしちゃう感じかな?」
「それを聞いて自分の行動が正しかったと確信をもてたよ
そしてこの触手をどうにかしてくれない?」
「しょくしゅん!戻って」
触手だからしょくしゅんか、安直なり。
「ねえ、そんなロシアンルーレット絶対いやなんだけど?」
「大丈夫!娯楽用に養殖されてるマンドラゴラだから!聞いてもびっくりするぐらいだって!地獄では超有名!」
地獄で超有名!ならびっくりしてる奴らも地獄の奴らだよね。
感覚は私たちと一緒なのか。絶対違うよね。
「それじゃあルールを説明します。ルールは簡単。引っこ抜いて叫んだら負けです」
「何それ!先攻めっちゃ不利じゃん」
「だから先攻をじゃんけんで決めます」
いやだ。こんなとこで死にたくはない。
「じゃーんけーん!」
琴美が叫んだ。
ちょっと、まだ心の準備が。
「ぽん!」
私はグー
琴美はパー。
私はすかさずマンドラゴラに手を伸ばし引き抜いた。
気づいたのだ。
部屋で叫べば琴美もくらうはずだ。
さすがの琴美も少し驚いている。
死なば諸共。
その瞬間、マンドラゴラが叫んだ。
携帯のマックス音量のアラームくらいの大きさだった。
私たちは普通に耐えれた。
「…」
「琴美さん?」
「…うーむ、カレーにしよか」
そういうと、私と琴美は二人でカレーを作った。
マンドラゴラは人参のノリでザク切りにして調理した。
味はほぼ人参だった。
私は思った。
普通ならこんなの口に入れられないよね。
琴美に染められているのかもしれない。
いろいろなものを見たから、こんなの慣れちゃったんだ。
琴美を見た。
マンドラゴラだけきれいに避けていた。
「あかりすごいね。私こんなの無理だ」
私は琴美の口にマンドラゴラを押し込んだ。