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サボテン

作者: 梨

「またいつでも誘いにきてな」

「はいはーい」

という会話が終わり、僕は10歩ほど歩いて自室の近くに来たとき、振り返った。さっきまで話していたあの子が手を振っていた。

僕は自室のドアを開けるのも待てなかった。ノブに触れた瞬間に右ポケットから携帯を取り出していつもの電話番号にかけた。

「もしもし、、、?」

さっきまで寝ていたのではないか?と思うほどの抜けた声が聞こえてきた

「寝る気やったやろ?さっきまで友達とご飯食べながら喋ってたんよ」

「え?もう1時やで、、、遅すぎやろ、、、」

彼女は今にも眠ってしまいそうな声で返事をした。

確かにそうだ。だが別に食事だけをしていたわけじゃない。

「話してたら長くなってしもてな。あいつとめっちゃ話が合うねんな。」

あいつ

とあえて呼んでおいた。

「あの子」とは言いたくない

電話先の彼女はただ「へー。楽しかったならよかった、、、。」と。


彼女と離れて生活して長くなる。彼女ほど一緒にいて、話していて幸せな気持ちになれる人はいないと思う。気持ちが満たされ、水を得た魚というよりもある種の植物のようにピンと胸を張って生きられるようになる。

でも、僕はたまに水をもらったら生きていけるサボテンのように強いわけではない。

常に一定の水をもらい続けないと枯れてしまう。いや、鉢を飛び出して水を求めてしまうかもしれない。


常に心の中にあることを彼女に電話をかけて伝え続けることなどできない。寂しさを埋めるのに生身の人間とのつながりがないといけない。どこから来る寂しさなのか分からない。

罪悪感はある。


「あの子」が夜遅くに僕の部屋のドアベルを鳴らしにくる。いつも申し訳なさそうな顔でやってくるのだが、僕も待っている。あの子が嫌いなタバコはあの子との会話が終わって部屋に帰るまでの我慢だ。

いつもあの子とは外に出て近くのスーパーまで歩いて話す。不満、不安、お互いの欠けた部分のこと、過去のこと、最近考えている未来のこと。話すことは尽きない。

話した後には気持ちは軽くなるし、寂しさも落ち着く。

だが罪悪感もある。年頃の男女二人が歩くのを見てまわりの人が思うことは一つであろう。


だが、僕が恐れるのはまわりの人の考えることではない。

世の中には利益のみの男女の関係というのがある。いわゆるセックスフレンドである。

これは寂しさを抱えた男女が性的欲求を満たすことによって気持ちを解消するのである。

ある人が「セックスフレンドなんて不潔だ。そんなのを持ってる奴はただ性欲にまみれた猿やなんかの動物と変わらない。」と言っていた。僕はそれに対して「ちがう」とは言えなかったが、セックスフレンドというものがダメだとも言えなかった。

いわゆるセックスフレンド同士の関係と、僕は今のあの子との関係が本質的に同じなのではないかとおびえている。

そこから来る罪悪感からあの子とかかわっていることも隠してしまったりする。

会話とセックスは違うのかもしれない、だけど目的が同じなら同じ扱いを受けても不当とは言えない。

お互いに悩める者で肩を寄せ合うというと聞こえは良いが、結局はそこに愛など無く、ただ不安定な人間が集まり、互いの汚いものをぶつけあっているということなのではないか。

そもそも、僕は自分からあの子の部屋のドアベルは鳴らさない。相手が来るのを待っている。

罪悪感からあの子に罪を擦り付けたいだけなのかもしれない。

いつかこの思考にも決着がつく時が来ると思うのだがそれも怖い。

本当なら、遠く離れた彼女の元に住みたい。彼女に来てほしい。

彼女の元にいたら僕が完璧な人間になれるかのような錯覚に陥るときすらある。

彼女の元にいたら水を求める必要もなければ、水を待つ必要も無いからだろう。

いや、それも幻想なのだろうか。

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