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何処かの誰かの何か  作者: 霖霧 露
9/23

俺は誰か

※またフィクションが書きたいのかよ、あんたたちは!!

 自身が何者で、どのような人間なのか。一度くらいは考えたことはないだろうか。自分がちゃんと世界にたった一人しかいない人間で、誰かに代わりをされたりしない世界で唯一の存在である、と自信をもって言える人間は少ないのではないだろうか。かく言う俺は自身を持って言える。

「俺は俺だ」

 誰かの代わりなどでない。世界で唯一の存在。俺はそう思っている。

 まぁ、唯一だからって特別ってわけではないけどね。

 何も自我の確立のために特別である必要はない。ただ、他人と違う考え方を持っていて、毎度毎度人と同じ行動をとるだけではないし、毎回毎回同じ行動をするだけの存在ではないと自覚すればいいだけの話。少なくとも俺はそう自覚している。

 どうしても他人と同じで在りたいとか、他人を同じにしたいって人もいるらしいけど。

 全くもってバカバカしい。人はそれぞれ違うから楽しいのだ。他人が今一体何を考えているのか考えるのはとても面白い。もし、相手が同じことを考えていたら嬉しいじゃないか。そうやっていつもは違うことを考えてる人々が同じことを考える・共感するから素晴らしいんじゃないか。俺はそういう価値観の持ち主だった。

 っと、そろそろ現実逃避を止めるとしようか。

 今現在、俺はとある作業をしていたのだが。手が完全に止まっている。

 話の続きが浮かばん……。

 俺は小説を書いていた。自我の証明の一つというか、俺が俺であるのは当たり前で、俺の考えた物語が世間の評価されないか試しているところだった。簡単に言うと、出版社に自身の書いたライトノベルを投稿して賞がもらいたいという話だ。あわよくばそのままラノベ作家になるのが俺の夢である。

 もちろん、夢見るだけじゃ志半ばで倒れて目も当てられなくなるだろうから。夢は夢で現実は見てるけどね。

 ちゃんと大学に入り、企業への就職を志していた。ラノベ作家はあくまで夢で、叶ったとしても専業でやっていけるかというとかなり不安なところだ。

 だから、そうじゃないんだってば。

 書かねばならぬものがある。なのに思い浮かばないので手が動かない。別に焦る必要はないのだが、毎日のノルマを設定しているのでそれを達成せねばならないのだ。

 ああ、これは無理そうだな。煮詰まらん。何か気分転換をしよう。

 このまま考え続けてもどうせいい話は書けないと判断し、何か面白いことが浮かびそうな刺激が欲することにした。

 と言っても、刺激か……。

 今日見るべきアニメも読むべき小説も見終えてしまった。あまり刺激を受ける行動が思い当たらない。

 アニメ、アニメ……。そうだ、終○語。あいつに知らせてやろうと思ったのだった。

 とある友人に伝えようと思っていたのを思い出した。その友人とは二次元を嗜む仲間であり、好む傾向が近しいので時折情報を共有しているのだ。

 善は急げだ。あいつに教えてやらねば。

 すぐにその友人の電話番号を見つけてコールする。その相手は案外早く電話に出た。

「おう、盟友。元気にしているだろうか」

《……元気じゃない》

 いつも静かな友人であるが、今日はいつもに増して静かだった。

「なんだ、元気じゃないのか。じゃあまた後で連絡しよう」

 とりあえず、カマをかけるというかどのくらい元気じゃないのか当社比で測ってみる。

《……》

 かなり元気がないようだ。この感じだと体調がどうっていうより精神的な何かあったように感じる。

「冗談だ冗談。そう殺意を向けるんじゃない」

《向けてない》

 そんなドスが効いた低い声で言われても説得力がない。

「君が元気な時は珍しいが、元気じゃない時はもっと珍しいな。何があったんだ?」

 原因を聞かない限りは話が進まない。かなり面白い話になりそうだと内心喚起しているのは内緒だ。この友人はかなり面白い。俺に輪をかけて変で、その考え方や行動はかなり独自性がある。

《人と出会わないと物語が始まらない……》

 ほら来た。全く分からない言葉が飛び出してくる。この友人が今何を考えているのか考えるのはある種自分の楽しみなのだ。

 さて、この言葉はどういう意味か……。

 引っかかりはある。どこかで聞いたことがあるような言葉ではあった。

 そうだ、思い当たった。終○語でとあるキャラクターが言っていた言葉だ。

「終○語の最新話を見たのか。丁度良かった、今回はその作品を勧めようと思って連絡したんだ。○語シリーズはどれも名作だ。シリーズ全巻、は数が多すぎるとして。アニメ化している分だけでも見ることをお勧めしよう」

 ○語シリーズ。いちおう全部繋がった話ではあるが、どれか一つだけでも十分話が分かるので面白い。全部通してみればなお面白い。是非とも全巻密林でポチってほしい。

《……》

 今欲しい言葉ではないことは分かるが、何を言ってほしいのか付き合いが長いとはいえ分かるものではない。

「励ましてほしいなら、何で落ち込んでいるのか具体的に述べてほしいところだな」

 ヒントを要求しておこう。素直にくれるとは思えないが。

《自身の物語は、何も始まっていない。自身は、間違っていたのかもしれない……》

「あのキャラのあのセリフに感化されたというわけだな、なるほど」

 得心した。この友人は、あの言葉を受けて自身のコミュ症とすら揶揄できるほどの消極性に打ちひしがれていたようだ。ならば、俺が言うべき言葉はそう多くないだろう。

「すっぱりと言ってやろう。今のお前は間違っている」

《……ッ》

 まずは否定してやることだ。この友人はまず自身を落としてやらなければ話を聞かない。自身に自信がない故に、自身を称賛する類の言葉は親身に受け止めないのだ。とりあえず最初のボディブローは入ったようだ。

「だが、正しい」

 そして褒めてやる。落としてあげる。この友人に対してはこの方が効く。

《……どういうこと?》

 釣れたというべきか、効いたというべきか。何にせよ、この友人に言葉を受け止める姿勢を取らせることに成功した。この手に限る。

「簡単な話だ。『世の中に真実はない。あるのは解釈だけだ。』全ての考え方は正しくて間違っていて、間違っていなくて正しくない。つまり、人の考え方は人それぞれってことだ」

 これは俺の価値観だった。様々な作品に触れ、俺の中で培ってきた価値観。触れたモノの中には哲学者や政治家の名言なんかも含まれる。『世の中に真実はない。あるのは解釈だけだ』という言葉は確かニーチェの言葉だったか。

《あ……》

 目から鱗でも落ちたかのような気が抜ける言葉を吐く。納得したようで何よりだった。

「『物語は人と出会わないと始まらない』という考えは確かに正しいが、それがすべてということではない」

 それが唯一の答えだとしたら世にある多種多様な作品は生まれて来なかったろう。

「孤独○グルメは知っているか?」

 有名になった作品の中でボーイ・ミーツ・ガールでない作品の一例としてあのグルメ漫画を出す。

《知ってる》

「あれは人と人とが出会って物語が生まれるような話ではないだろう?時々店主・店員との話があるが、メインではない。あの話は、人と人とが出会うところで物語は始まっていない。あの漫画のスタイルも間違ってはいないだろう?」

 かなり変わった作品ではあるが、面白い作品には変わりない。面白いのであれば、多くの人に評価されたのであれば、それは間違いではない。

《あの考え方は間違ってないけど、私の考え方も、間違ってない?》

 答えに至らせることが出来た。それももちろん唯一の答えではないが、自己嫌悪に陥ってるよりはいいし、この友人の考えとして大きく外れてはいないだろう。

「そういう事だ。くだらない悩みだったろう?そういうモノだ。昔から君はどうでもいいことで頭を抱える。いつも言っているが、考え過ぎなんだ」

《う……》

 なんとなくだがもう一発ボディブローをお見舞いしておく。

「だがそれがいい。それこそ君らしくて良い。そうやって色々と悩んで生きろ。それが多分、君の生き方だ」

 決して先ほどのボディブローは根性を叩き直すつもりのモノではなく、むしろ逆にその捻くれた価値観をより強靭にするためのモノ。この友人は友人らしく生きてほしいと常々思っている。

《……》

 感じ入るところがあったのだろう。感じ入らせるために言葉を選んでいたのだから当然と言えば当然だ。そして、このままでは気の良いお兄さんの立ち位置もしくはいい雰囲気を形成してしまうために一言余計なことを言ってフラグをぶち壊しておこうと思う。

「ところで、そろそろクリスマスだ。どうせ君は予定なんて入ってないだろう。一緒に集まろうじゃないか。プレゼント交換会でもしようか」

 久々に顔を合わせて話したいというのもあるが、それ以上にこの友人とは別の友人の応援をしたいというところだ。

《諭吉さん9枚でいい》

「強欲だな~憧れちゃうな~……」

 不思議なボケを喰らったところで応援のための布石を打っておこう。

「幼馴染と、他にも誘えそうなら誘っておくといい。さすがに俺たち二人で集まると勘違いされて、俺が殺される」

 幼馴染。俺のではなくこの友人の幼馴染だ。この友人と接触してればよく会うのだが、まぁどう見ても百合だった。残念ながらこの友人は気付いていないようだが。因みに、殺しに来るのもその幼馴染だ。

「ではな」

《またね》

 最後の挨拶は切なくはないがお互い素っ気なく終わる。相も変わらずという感じだ。

 色々と面白い話が聞けたというか、話している内に精神がいい感じに刺激された。

 これならいい話が浮かびそうだ。

 書きかけの小説に手を付ける。

 そうだ、ついでに一つ言っておこう。いつも一言多い俺がもう一言言っておくとしよう。



 そこの君だ。この文章を読んでいる君。そうだ、君だ。君に問いたい。君には自身の価値観だと、自身の思いだと胸を張って言えるモノはあるだろうか。



 おっと、いい話がかけそうだ。

 ではな。

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